薩摩焼酎巡礼


      大石酒造(株)

   阿久根市波留1676
  Tel 0996−72−0385
訪問日   平成16年11月6日(土)
大石酒造
大石酒造煙突と母屋全景。
  10月30日行われた本格焼酎フェスティバル第2部ノンカタ大石酒造社長大石啓元氏とご一緒させて頂き、その温厚篤実なお人柄に感銘を受けたのだが、さらにヨクロボ同志で契ったにも拘わらず、冷奴さんとこだまさんの無謀な焼酎グッズおねだりも律儀にも彼らにご恵送下さった。
  これに大感激したこだまさんがお礼参り?に行きたいとのことで、彼の愛車スバルランカスターを北上させた。 加世田からは2時間強の道程である。 車窓左側に拡がる東シナ海沿岸の風景が美しい。  

店の陳列ケース
 売店陳列棚。銘入りのトラディショナルな徳利や壺が並ぶ。
  大石酒造は阿久根市中心街を僅かに入った住宅地の中にあった。 母屋の手前に焼酎蔵元の象徴赤レンガ煙突が我々を出迎えてくれた。 こだまさんの話ではこの煙突は災害時崩落を防ぐために短く切断されたとのことである。時計の嵌め込まれたレトロな煙突は焼酎ノンゴロにとって札幌時計台に匹敵する文化遺産に見える。(^_^;)

  母屋の二階壁には「鶴見焼酎」と明治32年以来の代表銘柄が書かれていた。中に入ると手前が売店になっており、徳利や甕壺が陳列されていたが、焼酎不足はよほど深刻なのだろう、蔵元の売店ですら「鶴見」が一ケースと「莫祢氏」が3本しか見当たらなかった。(-ー;)。
芋の前で
唐芋をベルトコンベアーで芋蒸し器に載せる大石社長。

   入り口左側が事務所になっており、奥様に取り次ぎをお願いした所、奥の造り蔵から大石社長が息せき切らしながら現れた。
  先日のお礼を申し述べ来意を告げると、造りの超多忙時にも拘わらず厭な顔一つされずに蔵の方に案内下さった。

  蔵は思いの外暗く、タンクや甕等が所狭しと配置されている。
  社長は丁度今唐芋を蒸し器に上げる最中で、唐芋がベルトコンベアーに載るように器用に棒でより分けながら、話をされた。 見るからに忙しい時期にと恐縮することしきりである。

一次仕込み蔵
明治時代の石蔵に並べられた仕込み甕。
  原料芋は主としてコガネセンガンだが、「がんこ焼酎屋」ジョイホワイトを使う銘柄もある。

  蔵内で最初に案内された所が明治時代から麹室として使われた石蔵で、重厚な石壁と天井が脈々と受け継がれてきた焼酎造りの生き証人のようである。 現在は仕込み用甕が10個程地中に埋められていた。大石酒造は大東亜戦争で戦災に遇っていないため、創業以来蔵が建て増し建て増しで大きくなったため、仕込み甕も一カ所に集められず、他の場所にも設置されているとのことである。
一次仕込み
 一次仕込み醪。黒麹。
二次醪
二次仕込み醪。白麹。
 
二次仕込みタンク
 断熱シートを巻かれた二次仕込みタンク。

  
  麹造りは通法通り河内式回転ドラム式自動製麹機で種付けを行い三角麹棚で培養増殖させている。 これらの機械は蔵入り口右手前に設置されていた。

  現在一般銘柄の麹米はタイ米で、1日当たり450kgの麹米を四石(約700L)の甕2個に一次仕込みする。

  二次仕込みは1日当たり唐芋約2,100kg使用するらしい。この時期北薩では夜間15度以下に気温が下がるため、保温のため二次仕込みタンクには断熱材が巻かれていた。
蒸留機
 蒸留機。二機設置されている。。
 
  蒸留機は蔵の中央部に2機設置されており、1日当たり原酒で1,300〜1,400L蒸留される。愚生が「25度一升瓶だと2,000本ぐらいになりますかね?」と頓珍漢な質問をすると、「いや、一升は1.8Lだから1,200本ぐらいですよ。」と即座に答えられた。(・_・) 

  後日電卓を使って1,2000本から逆算すると、原酒の度数は40度前後になり、通常の原酒36度前後と較べかなり高い。デンプン価の高い良質な唐芋を使用しているのと、末垂れカットのアルコール度数が高いのではと推察したが、ここら辺にも大石焼酎の濃厚な味わいの秘密があるのかも知れない。
カブト釜式蒸留機
 これが伝説のカブト釜式蒸留器。
  
  石室の入り口付近に大きな羽釜の上に木桶が乗りさらにその上に三角錐の金属製の器が見えた。 これが大石社長の焼酎造りに対する崇高な好奇心が昂じ、試行錯誤の上復活させたカブト釜式蒸留器である。
  各家庭で焼酎造りが許されていた明治以前はツブロ式と合わせ一般的な蒸留法であったらしいが、商業ベースで現在のスチーム式単式蒸留機が主流となって以来薩摩の焼酎シーンから姿を消した。
 羽釜は直径が70cm程で普通の蒸留機と比較すると一回の蒸留で処理出来る醪の量がかなり少なそうである。大石酒造では現在2機が稼働中とのことであるが、これにより「がんこ焼酎屋」が生み出されている。
   
タンクの上の大石社長
巨大な貯蔵タンクに軽々と昇って作業をする大石社長。
  
  蔵の入り口には青色に着色された巨大な貯蔵熟成用タンクがあった。 張り紙をしているタンクをよく観ると「五番隊」と書かれている。 秘剣師のHPで紹介されている「岩川郷私領五番隊」の貯蔵原酒タンクを発見したのである。

  この高さ3m程もあろうかという原酒タンクに梯子を掛け、大石社長は身軽に昇っていき内容の点検をされる。 愚生生来高所恐怖症ではないのだが、加齢と共に、高い所がいささか苦手となり、高いタンクの上でも忍者の如く平然と作業される3歳年長の社長を下から眺め、目眩を覚えそうになった。(@_@)
甕貯蔵
貯蔵用の甕とシェリー樽。
  蔵の右奥には素焼きの貯蔵甕や貯蔵用のシェリー樽等が無造作に置かれていた。(^_^;)

 伝統に裏打ちされながらも麹米、原料芋、麹菌、蒸留法さらに貯蔵法等のバリエーションを組み合わせ、様々な造りにチャレンジし美味しく個性的な焼酎を生み出そうとする蔵是が蔵内随所からビシバシと伝わってくるのである。
  しかしながらこの壮大な取り組みも社長を含め僅か4名の蔵人で担っているとのことで、何しろ忙しいのである。(・_・) 我々に懇切丁寧に説明をしながらも作業を見つけてはせわしなく働かれる姿に申し訳なさが募り、まだまだ聞きたいことがあったのだが、解放せざるを得ない状況になった。(^_^;)
社長と集合写真
大石社長と記念写真。益々ファンになっちゃいました!(^^)
  お忙しいのにまたまた無理を言って売店までご足労願い、これまた奥様に無理を言ってシャッターを押して頂き記念写真を撮影した。

  奥様から阿久根市の「阿久根」姓は加世田市小湊など全国に散らばり、地元には1軒も残っていないと聞いた。 蔵元の地名と加世田に現存する姓名・・・、大石焼酎に精神的親和性を感じるのは何かしら浅からぬ因縁によるのだろうか?(^_^;)

  最後に売店で「鶴見」を1本購入し辞去するときにも、わざわざご夫婦揃って外に出て深々と頭を下げられ、車を見送って下さった。 まことに腰が低く尊大な所が全くないのである。 何事にも全力投球なのだが、何一つ力んだ所が見えないのは、純朴で柔和なお人柄の賜なのだろう。 これではファンになるなと言うのが到底無理な話なのである。v(^^)

  帰りに寄った東市来町田渕酒店では、「大石さんの焼酎はなんじゃい入ってこんごっひんなった!」と嘆いておられたが、誠実に緩み無く働く蔵の姿を観た後では、「今一生懸命造っちょいやったで、そんうちゴイゴイ出荷してくいやったっが・・・。」と慰めるのが精一杯であった。(^_^;)



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