薩摩焼酎巡礼


  知覧醸造(株)

   川辺郡知覧町塩屋24475
訪問日   平成14年10月19日(土)
知覧醸造周辺
 蔵周辺。茶畑の中に開聞岳が聳える。

  先日「知覧武家屋敷」を飲み、あまりの旨さにしばし瞠目し感嘆した後、是が非でもこの蔵を訪問したいという欲望をどうにも抑えられなくなってしまった。 かといって面識もない一ヨクロボおんじょが突然蔵訪問しても、迷惑するだろうし、しかも芋焼酎仕込みの最盛期である。 図々しいが人一倍小心者である小生は取引のあるマルダイさんにアポイントを取って貰い、彼のライトバンでいそいそと出かけた。 

  加世田から途中川辺町勝目の山の中を縫うように走り、広大な茶畑に出ると南薩の象徴開聞岳の威容が眼に飛び込む。
  茶畑の舗装道路をひたすら南下し、加世田から約30分で知覧醸造に到着した。

   
知覧醸造工場全景
  二松中跡地に建つ蔵。手前は校門跡
  
  蔵のある知覧町塩屋は知覧町南部に位置し、肥沃な台地が一面に広がり、お茶、唐芋及び大根などの畑作の盛んな土地柄である。
  知覧醸造は20年程前に廃校となった二松中学校の跡地に移転して現在に至っている。 40年近く前、小生が中学野球部の頃、川辺郡大会に二松中も出場しており、遠く離れた中学校の所在地に興味を持ったものであるが、今廃校になった姿を見るのも何とも複雑な心境である。

  仕込み中の芳香が発散される中、事務所戸を開けると、直ぐに森 正木社長が懇切に応対して下さった。

  ソファーに身を沈めながら森社長に色々お話を伺った。 
  森社長のお年は小生と同じか少々上とお見受けしたが、少し小柄ながら、筋骨隆々、精悍な顔つきで、仕事に生きる男の良い雰囲気を醸し出している。 これりゃあ、若い頃(現在進行形かも知れませんが・・・まさか(^_^;)かなり泣かせたんじゃないですかね?(^_^;)
 
  芋焼酎の仕込みは10月1日に始まり、11月一杯続くとのことであった。

一次醪に櫂入れする森社長
 一次醪に櫂入れする森社長。
  
  同社は創業以来芋焼酎がメインで、端境期に米焼酎を造っているとのことである。  

  社長のお話で強く印象に残ったのは自社製品は決して安売りしないと言う強い意志であった。 例えディスカウント店に並んでいてもそんなに安くはなってないはずであるし、南九州酒販や直取引の酒屋さんにも口を酸っぱくしてお願いしているとのことであった。
  
  物を安売りするためには何処かでコストダウンをしなければならず、そうすると何処かで泣く人が必ず出てくる。 焼酎造りの場合は唐芋生産農家にしわ寄せが一番来やすい。 一生懸命土まみれになりながら良い原料芋を作って下さるのに、買い叩くのは非道の所行であり、良い原料芋生産の意欲を削ぐことになる。 農家を最優遇しないことには良い焼酎は出来ないのだから、通常の取引価格以上の対価を支払っており、厳選された原料芋の品質にはかなりの自負があるように見えた。 


自動製麹機と麹棚
 ドラム式自動製麹機と麹棚(左側)。


  小生も現代の安ければ安い程良い、ディスカウント品には浅ましく餓鬼の如く群がる風潮が、我が国の製造業を荒廃させ、国民から自信を奪いデフレを加速していると感じている。

  我々焼酎ノンゴロが支払う適正対価によって、生産農家、蔵元そして流通販売を含めて関わる人全てが生かされているのである。 いわば焼酎造りの技術伝統を継承させ、うんまか焼酎の供給を未来永劫に渡って享受するために、大いなる責務を我々焼酎ノンゴロは負っていると言えよう。

  全ての蔵元が森社長と同じ様な志を持って下さると、酒屋に於ける対面販売も活性化し、蔵元の顔の見える焼酎に近づくのだが・・・。
 
唐芋の処理
 芋処理作業。

 工場内は一般的焼酎工場の例に漏れず上下の2層構造であるが、骨格や敷き板は全て金属製で清潔感溢れている。

  唐芋の処理が製品の出来に最も強く反映するため、最も心を砕いているとの話であったが、なるほどベテランの3人が手際よく大胆かつ丹念に痛んだ所、泥の付いた所やヘタなどを除去されていた。
  ちなみに産地は知覧町、頴娃町及び枕崎市の唐芋ゴールデン地帯にまたがっているらしい。

  我々に説明の最中も、森社長は絶えず周囲に目を配っておられる。 丁度一次醪の前に来ると、慌ただしく櫂入れ作業を始められた。下と上の醪を循環させタンク内の温度を一定に保つ重要な作業である。 小生も体験したかったが、森社長の真剣な顔付きの前では、素人の好奇心からの申し出は憚れてしまった。(^_^;)
  
 
二次醪のタンク列
二次仕込みタンク。手前が白麹造り、奥が黒麹造り。

  櫂入れ後の櫂は、そこらに放置するのではなく、水で醪を綺麗に落とし、清潔に掛け下げられていた。 ここらにも微生物に対する非常な気配りが見て取れた。 

  2次仕込みタンクは2列合計8個あり、仕込み期間は7〜8日で一つ宛ローテーションで蒸留されているとのことである。
醪がプクプクと元気よく生きていた。

  この時にタンクの蓋を開放することにより、蔵に棲み付く微生物が落下して、蔵独特の味わいー所謂蔵癖ーを醸成するらしい。
  
蒸留中の二次醪
蒸留機の覗き窓に醪が踊る。
  

  訪問したときは蒸留も行われており、酒精計のフロートは28%辺りを指していた。

  蒸留機の覗き窓にはボイラーから蒸気を送られた醪がもがき踊る様子が見られる。 
  ここまで米と唐芋からアルコールを作るように精勤した酵母が、この課程で全て死滅してしまうのは何とも不憫ではあるが、これも焼酎造りには避けられない宿命であるので・・・。(^_^;)
  それに麹・酵母は幾らでも増殖可能であるので・・・。


原酒を汲み出す森社長
原酒を汲み出す森社長
  蔵に入って左側には検定及び貯蔵用タンクが並んでいる。
森社長がタンクの上を身軽に飛び歩いて一昨日蒸留した38度の原酒を汲み出し、コップ半分ぐらいに入れて試飲させて下さった。 ハナタレの強烈な薫りはあまり感じない。 口に含むと、少々ガス臭は感じるが、荒々しさよりまろやかな落ち着きを感じる。 今年は唐芋の出来が良かったせいもあるのだろうが、「知覧武家屋敷」の洗練された上質の旨さが既に醸成されつつあると感じ入ってしまった。

  マルダイさんは車の運転があるので舐める程度にしか試飲せず、コップに残った原酒をそのまま返すわけにも行かず、さりとて捨てるという蛮行など焼酎ノンゴロにとっては踏み絵以上に困難なことなので、やむなく飲み干してしまったら、「えぇ〜、全部飲んみゃったとな〜!?」と呆れられてしまった。(^^ゞ)

  帰りに事務をされている奥様?が、「にっしーさんですよね?いつもホームページを楽しく読ませて頂いています。(*^_^*)」と挨拶された。 稚拙構成駄文羅列の拙HPをそこまで言った下さって、気恥ずかしくそして何かしら背筋の伸びる思いであった。 
  そして帰りしなに新たに売り出される「ちらんほたる」一升瓶をお土産に頂いた。 お忙しい所を時間を割いて頂いた上にこのような配慮。 まことに感謝感激である。
  気骨の社長の作る真摯で南薩摩の風土そのものの優しい焼酎。 やはり焼酎造りは人だなと痛感しながら、知覧醸造を後にした。

  

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