萬世原酒
萬世酒造 加世田市唐仁原 唐仁原6242 Tel0993-52-0648
ゲットした日 平成11年7月吉日
泡盛みたいに焼酎古酒を育みたいと常日頃から思っていた。 そして焼酎を熟成させるには原酒でなければならないし、ビンではなく釉薬を使っていない素焼きの壺が良いと聞いたことがある。
コセド酒店に行くと「薩摩の薫り純黒原酒」1Lが薩摩焼きの化粧瓶に入って1万円で売られていた。 キャッチフレーズが「インテリアとして飾りながら古酒を育てる・・・」となっており、大いに購買意欲がかき立てられたのだが、花瓶ですら置き場所に困っている拙宅の実状に加え、見映え(壺)にお金をかけるのも、質実剛健を旨とする薩摩隼人には承伏しかねる所作であった。
しばらくしてから、鹿児島県内で有名な酒のディスカウント店のチラシに、この焼酎が載っていた。 しかも今度は長期貯蔵(期間は全く定かではないが)原酒で2Lで1万円である。 さらに地元万世の作品である。 この機を逸しては来永劫子々孫々に至るまで焼酎古酒を育てられないとばかりに速攻で注文した。
そして、この原酒を購入してから1年半程が過ぎてしまったが、その実存を確かめたいがため、時々卑しく盗み飲みしてしまい、今では見るも無惨に約半分ほどに減ってしまった。 天使の分け前ならぬ、飲んごろ(盗人)への分け前か・・・(^_^;)。 さらに味の熟成の程は?・・・と聞かれると、全く心許ないのである。 何しろ比較する対象は過ぎ去った時間だし、1年半なんて、悠久の焼酎熟成にとって短すぎると思う。 もっともっと育まなければと我が子以上に愛おしく思うこの頃である。
しかしながら、それでは何のレポートにもならないので、厳かに陶器の蓋を開けると、「萬世」独特の芋焼酎の薫りが立ってくる。
白麹と黄麹とを混合して発酵させているのだが、薫りは一般に市販されている萬世そのものの太い芋焼酎本来の芳香である。
心ない人にとっては芋臭いと侮蔑の対象になる酒なのかも知れない。
付属した竹製の柄杓で原酒をコップに移してみると、原酒独特のやや粘性が高いと思われる無色透明の液体が妖しげに踊る。
生で飲んでみるとまったりと柔らかく、さすがに原酒という味わいの濃さを堪能できる。 飲んだ後も爽やかな余韻が残り、高濃度アルコールを飲んだときに訪れる、独特の放心したような幸せ感に浸れる。
これに氷を浮かべてみると生の味わいが若干薄れてしまうが、逆に飲み易さが増し、非常に良いバランスで芋焼酎らしさが出てくる。
お湯割りではふくよかな甘い味わいが引き立つのであるが、生のパンチと比べるとやや物足りなさが残る。
私にとっては、ズバリ生で飲むのがベストであり、またそう言う使命を帯びて世に送り出された焼酎と理解している。
ところで、チャーミーのご主人の話によると「萬世酒造は薩摩酒造の資本参加を受けているので、そんなに色々なプライベートブランドの焼酎は出せないはず・・・」とのことであり、非常に悲しい思いをした。
また別の機会に書こうと思うが、必至に頑張って個性のある製品を出していた地元蔵元が、大手酒造に吸収されるのは、どうしようもなく悔しくやりきれない思いである。 このような蔵を守り育てるのは、地域の文化を守り育てることと同意で、我々焼酎好きの使命のはず。
聞けば地元の消費も伸びなかったとのことであり、我々酔クロンボの責任重大ではあることは言を待たないが、行政なり商工会等が地焼酎を育てる仕掛けなどを真摯に考える時期が来ているのではないだろうか。