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005 小説問題で登場人物のココロをよむ(実践編)


では,「ココロの読み方」のウンチクを語る前に
1問だけ問題を解いてもらいたい。

平成14年度に某県で出題された問題である。

次の文章を読んで,あとの問いに答えなさい。

 小学校最後の試合が終わった後,六年生の加藤智(かとうさとし)は,監督である父徹夫(てつお)と母佳枝(よしえ)の三人で野球場に残っていた。


 徹夫は智に聞いた。
「中学に入ったら,部活はどうするんだ?」
 答えは間をおかずに返ってきた。
「野球部,入るよ。」
 佳枝が,「今度は別のスポーツにしたら?」と言った。「ほら,サッカーとかテニスとか。」だが,智には迷うそぶりもなかった。
「野球部にする。」
「でもなあ,レギュラーは無理だと思うぞ,はっきり言って。」
「うん・・・・・・わかってる。」
「三年生になっても球拾いかもしれないぞ。そんなのでいいのか?」
「いいよ。だって,ぼく,野球好きだもん。」
 智は顔を上げてきっぱりと答えた。一瞬言葉につまったあと,徹夫の両肩から,すうっと重みが消えていった。拍子抜けするほど簡単な,理屈にもならない,忘れかけていた言葉を,ひさしぶりに耳にした。
 徹夫は立ち上がった。
「ピンチヒッター,加藤!」
 無人のグラウンドに怒鳴り,智のグローブを左手につけた。
「どうしたの? おとうさん。」
「智,バットを持って打席に入れ。」
 智の返事を待たずに,試合で使わなかったまっさらのボールをグローブに収め,マウンドに向かってダッシユした。佳枝も立ち上がって,とことことグラウンドに出てきた。
 はにかんだ様子で何度か素振りをした智は,小さく一礼して打席に入った。
「三球勝負だぞ。」
「オッス。」
 徹夫はマウンドの土をならし,ボールをこねて滑りを止めた。例えば山なりのスローボール,そんなものを投げるつもりはない。レギュラー組の打撃練習のときと同じように,速球を投げ込んでやる。それが,野球が大好巻な少年に対する礼儀だ。
 ワインドアップのモーションで,投げた。ど真ん中だったが,智は空振りした。完全な振り遅れで,バットとボールも大きく隔たっている。ボールを拾いに行く背番号16に,「しっかり見ろ!」と怒鳴った。
 二球目も空振り。
「腰がすわっていないからダメなんだ,いつも言っているだろう!」
 智は半べその顔で「オッス!」と返す。叱られて悲しいんじゃない,打てないのが悔しいんだ,と伝えるように,徹夫に投げ返す球は強かった。
 最後の一球だ。手は抜かない。内角高めのストレート。智はバットを思いきり振った。快音とまではいかなかったが,たしかにボールはバットに当たった。打球は風に乗る前に落下しはじめ,佳枝の手前でバウンドした。
「ホームラン!」
 佳枝がグローブをメガホンにして叫んだ。
「智,いまのホームランだよ! ホームラン!」と何度も言った。徹夫も少しためらいながら,右手を頭上で回した。
 だが,智は納得しきらない顔でたたずんだまま,バットを手から離さない。徹夫をじっと見つめ,徹夫もまっすぐに見つめ返してくるのを確かめると,帽子の下で白い歯を覗かせた。
「おとうさん,いまのショートフライだよね。」
 来月から中学生になる息子だ。あと数年のうちに父親の背丈を抜き去るだろう。徹夫は親指だけを立てた右手を頭上に掲げた。アウト。一打席ノーヒットで,智は小学校を卒業する。
 不満そうな佳枝にかまわず,徹夫はマウンドを降りた。ゆっくりと智に近づいていき,声が届くかどうかぎりぎりのところで「ナイスバッティング。」と言った。

                        (重松清「卒業ホームラン」からの引用)

 問題文末の赤文字の部分について,このときの徹夫の気持ちとして最も適当なものを次から選び,記号で答えよ。

(ア)レギュラーになれなかったが,純粋に野球に打ち込んだ智の成長をほめて  やりたいと思うと同時に,それを満足に思う気持ち。

(イ)レギュラーになれなかったが,速球にホームランで応えた智の進歩をたたえ  たいと思うと同時に,それをうれしく思う気持ち。

(ウ)レギュラーになれなかったが,その悔しさを中学で生かそうとする智の気迫  に圧倒されると同時に,それを誇りに思う気持ち。

(エ)レギュラーになれなかったが,野球で学んだことを大切にさせたいと思うと同  時に,今後技術を伸ばしてほしいと思う気持ち。

さあ,みんなで考えよう・・・である

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読解力の向上は
国語だけでなく
全ての教科の
成績アップにつながるのである。



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