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005 小説問題で登場人物のココロをよむ(実践編)


まずは,問題を最初から,よく観察していこう。

問題の最初にこうある。
次の文章を読んで,あとの問いに答えなさい。

問題文を読んで・・・というのは
「問題文以外の文章は関係ないからね」
ということである。

というのは・・・
中には
この小説の本編を最初から最後まで
読んだ経験のある中学生もいるかもしれない。

そういう人は,ホントに注意したい。
この文章の前に
どんな出来事が起こっていようが
この後で
サプライズが待ちかまえていようが
それは
一切,関係ないのである。

ストーリーを全部知っているからと言って
なめてかかると
逆に大ヤケドをする。

問題の対象はあくまで
「次の文章」
だけなのだ。



次に,こんなことが書いてある。

 小学校最後の試合が終わった後,六年生の加藤智(かとうさとし)は,監督である父徹夫(てつお)と母佳枝(よしえ)の三人で野球場に残っていた。

この部分も「次の文章」に含まれているので
十分に注意して読んでおきたい。

重要なキーワードが
より簡潔な表現で書かれている。
全てがキーワードだと考えて良い。

時々,この部分をイイカゲンに読んで
トンデモナイ勘違いをしてしまう中学生がいるから
注意したい。



いよいよ,問題の解き方に入っていく。

まずは,問題から確認しよう。

 問題文末の赤文字の部分について,このときの徹夫の気持ちとして最も適当なものを次から選び,記号で答えよ。

(ア)レギュラーになれなかったが,純粋に野球に打ち込んだ智の成長をほめてやりたいと思うと同時に,それを満足に思う気持ち。

(イ)レギュラーになれなかったが,速球にホームランで応えた智の進歩をたたえたいと思うと同時に,それをうれしく思う気持ち。

(ウ)レギュラーになれなかったが,その悔しさを中学で生かそうとする智の気迫に圧倒されると同時に,それを誇りに思う気持ち。

(エ)レギュラーになれなかったが,野球で学んだことを大切にさせたいと思うと同時に,今後技術を伸ばしてほしいと思う気持ち。

4択問題では
「あ,これは絶対にナシね」
というくらい
ハッキリした「マチガイ」があるものである。

この問題で言えば(イ)がそれに当たるだろう。
(イ)レギュラーになれなかったが,速球にホームランで応えた智の進歩をたたえたいと思うと同時に,それをうれしく思う気持ち。

智が打ったのは「ショートフライ(のような当たり)」であって
「ホームラン」ではない。

「ホームラン」という表記は3回も登場するが
「智はホームランを打った。」
とか
「当たりはホームランになった。」
とは,書かれていないのである。

おまけに徹夫は
最後の部分で「アウト」の動作を見せている。

よって,(イ)は消滅する。



(ア)レギュラーになれなかったが,純粋に野球に打ち込んだ智の成長をほめてやりたいと思うと同時に,それを満足に思う気持ち。

(ウ)レギュラーになれなかったが,その悔しさを中学で生かそうとする智の気迫に圧倒されると同時に,それを誇りに思う気持ち。

(エ)レギュラーになれなかったが,野球で学んだことを大切にさせたいと思うと同時に,今後技術を伸ばしてほしいと思う気持ち。

ほらね・・・3択になったよ。

でも
どれも,それっぽいのである。
「次の文章」を読んでいくうちに
「自分の感想や思い」
入り込んでしまっているからなのだ。

「なかなかイイ,親父やねぇ〜」
「お父さんもお母さんも,優しくてステキな人だなあ」

とか
「智君は中学校で絶対にレギュラーになってほしいな」
「ガンバって続ければ,絶対にうまくなるよ」

な〜んて
読書感想文コンクールに出せば
特選・入選・特別賞が取れそうな
「感想」や「思い」や「考え」
波のごとく,アナタの頭の中を往復しているからである。

その段階で「答え」を選んでしまうから
失敗するのである。

大事なのは

そのことが
「次の文章」に
書いてあるのか,いないのか


である。



(ア)レギュラーになれなかったが,純粋に野球に打ち込んだ智の成長をほめてやりたいと思うと同時に,それを満足に思う気持ち。


純粋に野球に打ち込んだ
智の成長をほめてやりたい


それを満足に思う気持ち

 徹夫は智に聞いた。
「中学に入ったら,部活はどうするんだ?」
 
答えは間をおかずに返ってきた。
「野球部,入るよ。」

 佳枝が,「今度は別のスポーツにしたら?」と言った。「ほら,サッカーとかテニスとか。」だが,
智には迷うそぶりもなかった。
「野球部にする。」
「でもなあ,レギュラーは無理だと思うぞ,はっきり言って。」
「うん・・・・・・わかってる。」
「三年生になっても球拾いかもしれないぞ。そんなのでいいのか?」
「いいよ。だって,ぼく,野球好きだもん。」
 智は顔を上げてきっぱりと答えた。一瞬言葉につまったあと,徹夫の両肩から,すうっと重みが消えていった。拍子抜けするほど簡単な,理屈にもならない,忘れかけていた言葉を,ひさしぶりに耳にした。

 徹夫は立ち上がった。
「ピンチヒッター,加藤!」
 無人のグラウンドに怒鳴り,智のグローブを左手につけた。
「どうしたの? おとうさん。」
「智,バットを持って打席に入れ。」
 智の返事を待たずに,試合で使わなかったまっさらのボールをグローブに収め,マウンドに向かってダッシユした。佳枝も立ち上がって,とことことグラウンドに出てきた。
 はにかんだ様子で何度か素振りをした智は,小さく一礼して打席に入った。
「三球勝負だぞ。」
「オッス。」
 徹夫はマウンドの土をならし,ボールをこねて滑りを止めた。例えば山なりのスローボール,そんなものを投げるつもりはない。レギュラー組の打撃練習のときと同じように,速球を投げ込んでやる。それが,野球が大好巻な少年に対する礼儀だ。
 ワインドアップのモーションで,投げた。ど真ん中だったが,智は空振りした。完全な振り遅れで,バットとボールも大きく隔たっている。ボールを拾いに行く背番号16に,「しっかり見ろ!」と怒鳴った。
 二球目も空振り。
「腰がすわっていないからダメなんだ,いつも言っているだろう!」
 智は半べその顔で「オッス!」と返す。
叱られて悲しいんじゃない,打てないのが悔しいんだ,と伝えるように,徹夫に投げ返す球は強かった。
 最後の一球だ。手は抜かない。内角高めのストレート。智はバットを思いきり振った。快音とまではいかなかったが,たしかにボールはバットに当たった。打球は風に乗る前に落下しはじめ,佳枝の手前でバウンドした。
「ホームラン!」
 佳枝がグローブをメガホンにして叫んだ。
「智,いまのホームランだよ! ホームラン!」と何度も言った。徹夫も少しためらいながら,右手を頭上で回した。
 だが,智は納得しきらない顔でたたずんだまま,バットを手から離さない。徹夫をじっと見つめ,徹夫もまっすぐに見つめ返してくるのを確かめると,帽子の下で白い歯を覗かせた。
「おとうさん,いまのショートフライだよね。」
 
来月から中学生になる息子だ。あと数年のうちに父親の背丈を抜き去るだろう。徹夫は親指だけを立てた右手を頭上に掲げた。アウト。一打席ノーヒットで,智は小学校を卒業する。
 不満そうな佳枝にかまわず,徹夫はマウンドを降りた。
ゆっくりと智に近づいていき,声が届くかどうかぎりぎりのところで「ナイスバッティング。」と言った。
の部分に書かれている。

「純粋に野球に打ち込んだ智の成長をほめてやりたいと思うと同時に
それを満足に思う気持ち。」
という
全く同じ表現は使われていないが

限りなく「正解に近い」としておこう。



(ウ)レギュラーになれなかったが,その悔しさを中学で生かそうとする智の気迫に圧倒されると同時に,それを誇りに思う気持ち。
の場合はどうだろう。

その悔しさを中学で生かそうとする智の気迫
書かれている部分はどこだろうか。

これは・・・・ない。

どこにも書かれていない。

「中学校に入っても野球をやりたい」という
智の気持ちは書かれている。

しかし
その理由は
「野球が好きだから」
「その(レギュラーになれなかった)悔しさを中学で生かそう」
というものではない。

また,文中に「気迫」が表現されている部分がある。
叱られて悲しいんじゃない,
打てないのが悔しいんだ,と伝えるように,
徹夫に投げ返す球は強かった。

というところであるが

球に込められた気迫は
打てないのが悔しい気迫
であって
その悔しさを中学で生かそうとする気迫
ではないのである。

さらに,「誇りに思う」という表現は
「来月から中学生になる息子だ。
あと数年のうちに父親の背丈を抜き去るだろう。」
という文章で表現できるかもしれないが
微妙なところである。
やはりココは
「誇り」よりも「満足」になるだろう。



(エ)レギュラーになれなかったが,野球で学んだことを大切にさせたいと思うと同時に,今後技術を伸ばしてほしいと思う気持ち。

野球で学んだことを大切にさせたい
今後技術を伸ばしてほしいと思う気持ち
この2文も・・・「次の文章」の中には
書かれていないコトである。

いったい野球から何を学んだのだろう?

そりゃ,スポーツを続けていれば
何かしら学ぶことは多いと思うが
それは,普段の生活の中で
私たちが考えることで

「次の文章」には一切書かれていないコトなのである。

あくまで
「次の文章を読んで」
答えなければならないのである。



さあ,どうだろうか・・・

いつになくゴチャゴチャした記事になってしまって
ゴメンなさいである。

今回,例題をとおしてアナタに伝えたかったのは

「国語の気持ちの読み取り4択」
では
「あきらかに間違っているモノ」

「「次の文章」の中に書かれていないモノ」
は削除しましょう・・・

ということである。



さあ,わかったら,手近な小説問題を解いてみるのだ。

今までより,楽に正解できるようになっているし

そうでなくても
正解確率はグンとアップしているハズなのだ。



読解力の向上は
国語だけでなく
全ての教科の
成績アップにつながるのである。



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