第5笑  天才シミュレーション
超短編小説 「華麗なる天才人生」


今回のお題は「天才」である。

天才に生まれてくればよかったと考えたことがあるだろうか?

天才ならば勉強がスラスラできて,
イイ点とって楽な人生をおくれるのに・・・
と考えたことがあるだろうか?

きっと一度くらいはあるだろう。

ハイと答えた正直なアナタ。
せっかくだから,「もしもアナタが天才だった」というシミュレーションしてみよう。
(「シミュレーション」という言葉はキライである。)
(何度書いても「シュミレーション」となってしまうからだ。)
(終いには,とても不安になって,その都度,辞書で確認する今日この頃である。)


天才のアナタはどんな生活をおくるのだろうか。



シミュレーション1

アナタはある日,自分が天才であることに気づいた。

勉強していない問題が突然スラスラ解けてしまう。
試しに高校や大学の問題を解いてみた。

解ける解ける,スラスラ解ける。
勉強なしにスラスラ解けるから,もちろんテストや通知表はいつも満点。


そのうち噂を聞きつけた超有名進学校から逆推薦され進学した。
もちろん高校でも成績はバツグン。
噂はさらに広がり,テレビや雑誌にも登場するくらい有名になる。

天才なのだから,しかたがない。


2年後,大学に飛び級で進学する。

さてどのような大学生活なのだろう。
天才だから遊び放題だろう。
いや,そんなことはない。
天才だから毎日勉強なのである。
他の学生は授業が終わって帰るけど,
アナタには天才用のスペシャルプログラム学習が待っている。

全国の大学教授が入れ替わり立ち替わり特別授業をしてくれる。
特別に勉強させて,将来世界が「あっ」と驚くような発見をしなくてはならないからだ。

天才だから,しかたがない。

自由に外出できない。
天才だから事故にでもあったら大変だ。
国家の大損害だ。

どこかの国のエージェントがアナタの獲得に向けて活動している・・・
というイヤな情報も入ってきている。


天才はどこからも,より多くのことを求められるのだ。
出版社からは山のような原稿依頼がくる。
テレビ局は,もっとみんなが喜ぶようなお話をしてくださいと求めてくる。
街を歩けば,通行人がサインや握手を求めてくる。
ケータイでパシャパシャ勝手に写真を撮っていくヤツもいる。
もちろん文○科学省から派遣されたウル○ラ警備隊がしっかり守ってくれるが,
24時間の監視体制で,とんでもないことになってきた。
全く自由がない。こんなはずじゃなかった。

そこでアナタは決断する。
「仕方がない。ひとつ大 発見をしてやるか。」

そしてアナタは大発見を発表する。
世界中が心からの拍手をアナタに贈る。

そして求めてくるのだ。

「先生,次はどんな発見をする予定ですか」
「いつ頃の予定ですか」
「先生,先生!・・・」
「ちょっと!なんとかイイなさいよ。アナタ天才なんでしょ!」
「ソーダソーダ!! 天才だからといっていい気になんなよ!!」
「ざ〜けんじゃねえぞぉ! オマエ,天才だろ〜」
「なんとかしろよ〜」


以下罵詈雑言の嵐である・・・

【教訓】
アナタが,もしも天才であっても
決して天才であることがバレてはならないのである。




シミュレーション2

アナタはある日,自分が天才であることに気づいた。

勉強していない問題が突然スラスラ解けてしまう。
しかし,勉強してないのに
問題がスラスラ解けることが周囲にわかったら
「天才」であることがバレてしまう。

だから授業やテストのとき,ワザと間違えなければならない。


授業中,ボーとしていると,いきなり先生から指名される。
うっかり正解を口にしてしまう可能性がある。
油断できない。
授業中は集中あるのみだ。
集中していないとワザと間違えられない。

テストの時はゆっくり間違えられるから少し楽だ。
事前にインターネットや出版物で,
現在の中学生の基礎学力や間違いやすい問題の傾向を分析してある。
その法則に従って間違いを犯せば,
絶対に怪しまれることはない。


しかし,テスト前やテスト中に全く疲れていないと,怪しまれるかもしれない。
だからテスト期間中は毎晩遅くまで起きている。
ときには徹夜もしなければならない。

問題なのは「時間のつぶし方」である。

テレビドラマはストーリーが先に読めてしまって面白くない。
クイズ番組も簡単すぎて話にならない。
本など読んでも分かり切ったことしか書いてない。
ビデオゲームもすぐにあきる。

退屈だ・・・

なぜ友達はあんな幼稚な遊びに熱中できるのだろうか。


仕方がないので,ただじっと時が過ぎるのを待つ。


自分の天才がバレないように気をつかうのは大変なのである。


高校や大学に進学したら,もっと大変である。
「ひょっとしてコイツ天才か」とカンづかれたら,たちまち目を付けられてしまう。
あくまでも普通に普通にである。
絶対できすぎてはならない。

しかし,全くできないのもよくない。

わざとやっているのがバレる危険がある。

細心の注意をはらい
神経をフルに集中させて
ほどほどの成績で卒業し
ほどほどの人生をおくらなければならない。

ほどほどの家庭をつくり,
ほどほどの老人にならなければならない。
そして
ほどほどの死をむかえるのだ。

私の一生は,いったいなんなのだろう。

さすがの天才の私にも,その答がわからない。



【教訓】
天才だから,しかたがない。


  

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