第88手 「『校長先生のお話』を聞く その2(初級編)」
〜 まずは軽くジャブ(ツッコミ)を入れながら聞く 〜



「校長先生のお話」に
何らかの興味を抱いてくれたアナタに
いよいよ
「正しい『校長先生のお話』の聞き方」を伝授するのである。

もっとも,普段から
「校長先生のお話」に高い関心を寄せ
「真剣」に聞いている中学生には
かなりの
逆効果を与える方法なので
そういう「真剣」な中学生は
これ以後の文章は読んではイケナイのである。

本話に続く
「校長先生のお話を聞く その3(中級編)」から
読んでもらった方が
よほどにアナタのためになるハズである。

今回(初級編)は,
「校長先生のお話に興味がもてない中学生限定」である。



では,参るのである。

まずは「初級」の
「『校長先生のお話』の聞き方」である。



「初級」「ツッコミを入れながら聞く」である。

ボクシングに例えれば「ジャブ」を繰り出しながら聞くのである。

「ジャブ」とは,ボクシングで…
利き腕ではない方の腕で
相手の顔面やボディーを
連続して細かく打つこと…である。

あまり強いパンチではないが
試合中,連続させて繰り出すことで
相手にジワジワとダメージを与えるパンチである。
派手な破壊力はないが
確実に相手の体力を消耗させる技である。

【警告!】
ステージ上の校長先生に
本物の「ジャブ」を入れてはならないのである。
もしも本当にジャブを入れてしまうと
最悪,警察のお世話になるので
十分にも十二分にも十三分にも注意したい。

「話を聞く」場合の「ジャブ」とは
「ツッコミ」である。

では,前回の「校長先生のお話」を
「ツッコミ」を入れながら聞いてみるのである。
(………)の部分が,アナタの「ツッコミ」である。



「え〜,今日は皆さんに二つ,お話をします。」
(え…二つも話をするのかよ…長くなりそうだな…)

「今朝,校内を廻っていて気になったのですが…」
「最近,校庭や中庭にゴミが目立つようになりました。」
(オイオイ,また「説教」かよ…)

「気がついたゴミは,拾いながら歩いたのですが…。」
(そうそう,気がついた人が拾わなきゃね…)

「約,20分間で…」(ガサゴソ,ガサゴソ)
演壇の下からゴミ袋を取り出しながら…
「こんなに,集まってしまいました。」
(おっと,ビックリ! あんな所に隠してあるジャン!)

「皆さんは,コレを見て,どう思いますか?」
15秒ほどの沈黙である。
(実際にもって来んなよな…)
(でも,意外にたくさん入ってるなあ…)
(いったい,何が入ってるんだぁ?)
(みんなシンとしてるけど…いったい何考えてんだろう…)


「ゴミの中身はというと…」
「授業で使ったプリントに,お菓子の紙くず…」
(へ〜…いろんな物が入ってるじゃん!)

「ボールペンの壊れたモノに,ペットボトル…」
(ペットボトルは部活の連中だろうな…)

「タバコの吸い殻などもありました…」
(そりゃ,イケマセンよ。中学生がタバコなんて…)

再び15秒程度の沈黙である。
(しかし,どいつが犯人なんだ!)
(この後,校長先生…ぶち切れるんだろうな…)


「これを,全部皆さんが落とした,捨てたとは思いません。」
「学校には様々な人が出入りしています。」
(そうかそうか,犯人は中学生とはかぎらないもんな…)

「学校の御近所の方や,品物を納める業者の方々」
(タバコは近所のオッサンか…大人はワルいよね。最低!)

「それに,皆さんのお家の人たちですね。」
(オトッツァンかもしれない…ワケね…)

「まさか,タバコの吸い殻は,当然君たちが捨てたハズはないですよね。」
(それは,わかりませんよ〜…アイツらかもしれないしね…)

「もしも,そうであればこれは大変な事だというのはわかりますね。」
(あ〜…なんだか,説教が長くなりそ〜…)

「この凸凹中学校には,そんな不心得な生徒はいない…と私は信じています。」
(はい,そうですそうです。私たちじゃありません。)
(だから,早めに話を切り上げていただけませんでしょうか…。)


「しかし,授業で使ったプリント類は,明らかに君たちの中の…」
「誰かが…捨てた,又は,落としたわけですよね。」
(お〜…今度はソレか…それは言い逃れできませんよね…)

「お菓子の包み紙はどうでしょう…近所の小さな子どもかもしれませんよね。」
(そうそう,放課後に結構たくさんの子どもが遊んでるからね…)

「ここで,私がお話したいことは…」
(おっと,ここで第1話の「まとめ」のようですよっと!)

「君たちにゴミを捨ててはイケマセンよ…ということではありません。」
「そんなことぐらい,小学生でもわかっていますね。」
「今さら,君たちにお話する必要はないでしょう。」
「一部の人を除いたらね…。」
(そうそう,その通り!罪もないオイラに説教しても意味ないジャン)
(集団責任…ってか?あんまりだよ〜…)


「私が言いたいのは…。」
(お,二度目だね。「私が言いたいコト」って)
(要するに,お話のサビの部分ね!)


「なんらかの事情で校内に散らばったゴミが…」
「ずっと,そのままになっていたことなのです。」
(だ〜れも拾わないからに決まってんジャン!)

「これだけの多くの生徒の皆さんがいながら…」
「本当に誰も気付かなかったのでしょうか。」
(そんなワケないでしょ。気がついてんでしょ。)
(でも,メンドウだから拾わないダケでしょ。)
(そんなコトもワカンナイのかねぇ…)


「私は,それが残念でなりません。」
(エ…「残念」って,何?)
(何が「残念」なのよ。この辺,意味不明!)


「本校の校訓の一つに…」
「時を守り,場を清め,礼を正すという言葉がありますね。」
(はいはい,確かにありますが…それがなんでしょうか?)

「これは,時と場と礼をキチンとすることで…」
「相手の信頼を得るような人間になって欲しいという願いから」
「今から30年前に校訓として定められたモノでしたね。」
(はいはい,そう聞いておりますが,それが何かぁ〜。)

「コツコツとした小さな誠実の積み重ねは…」
「いつか相手の心に大きな信頼となって現れるものですよね。」
(「信頼」って,ダレの信頼よ?)

「さあ,今朝私が拾った,このゴミは…」
「今の本校の本当の姿を現しているのではないでしょうか。」
(え,何? またまた「意味不明」!)
(ゴミと校訓と信頼と,どう関係があんのよっ!)


「このようなゴミが散乱したままの学校が…」
「保護者や地域や卒業生の方々から信頼される学校になっているでしょうか」
(ゴミのある学校は信頼されない…ってことでしょうか?)

「皆さんは,どう思いますか?」
「今一度,一人一人が,よく考えて欲しいと思います。」
(え〜…わかんないよ。ゴミと校訓と信頼が,どうつながんのよ〜。)
(わかんないよ…わかんないよ…)


ゴミ袋を演壇の下に置き,再び全校生徒をサッと見渡す。
「え〜,次に…」
(…って,もう第一話おわりかいっ!)
(結局,意味不明ジャン。何言ってんかワカンナイジャン)


…<以下省略>…である。



…というワケで
この中学生は,
「校長先生のお話」の間中
「お話」に「ツッコミ」を入れながら聞いたのである。

残念ながら…校長先生の「思い」は
「意味不明」だったようである。
結果から言えば
「校長先生のお話」の
KO(ノックアウト)勝ちであり
中学生のKO負けである。
嗚呼無情…のようである。



しかし…である。

話の間中,ツッコミを入れながら聞いたお陰で
どうやら
「話の流れ」をとらえるのには成功している。

さらに,
「話の要点」も把握できているのだ。

今回の要点は…
「ゴミと校訓と信頼の関係」である。

その要点の中に
きっと
「校長先生の思い」が存在しているのだ。
そのことをキチンととらえるのに成功したのだ。



校長先生の
「今一度,一人一人が,よく考えて欲しいと思います。」
というお言葉は
後でゆっくりでいいから
「ゴミと校訓と信頼の関係」について
「よく考えて欲しい」
という意味なのである。

「校長先生のお話」の中に「問題」を見出す。
そういう意味では
今回の聞き取りは
「大成功」と考えてよいのである。



そして,「ツッコミ聞きとり法」の最大のポイントは
「意味不明」や「ワカラナイ」になったら
ソコがお話を読み解く
「最重要ポイント」である…

ということなのだ。

ぼ〜〜〜〜っと聞き流していたら
絶対に聞き取れない「最重要ポイント」なのである。



さあ,次回から…

「校長先生のお話」に耳を澄ますのである。
プロボクサーが左腕で繰り出す
カミソリのような「ジャブ」の如く
鋭い「ツッコミ」を入れながら
「お話」を聞くのである。

もちろん…
「絶対に声に出さないで」である。

小さな声でも
ささやくような声でも
実際に声を出したら
学級担任や生徒指導の先生から
のようなジャブ(お説教)
繰り出されることとなる…。

十四分にも十五分にも
注意されたい…。



そして…次の事柄も大事なポイントである。
「校長先生のお話」で聞き取ったコト
すなわち,校長先生の「思い」が
どんだけ考えても「意味不明」の場合は…
ある日ある時,勇気を出して
校長先生本人にたずねるとよい。


「校長先生,この前の朝会でのお話ですが」
「私なりに一生懸命に考えたのですが…」
「お話の内容がよくわかりませんでした。」
「ぜひ,教えてください。」

きっと校長先生は
「そんなコトもわからんのか!!」
な〜んて,絶対に言わずに教えてくれるのである。

それも…涙を流しながら…喜んで
(実際に涙を流すワケではないが)
(それくらい嬉しい気持ちで)

アナタに
詳しく解説してくれるハズである。

そうして…アナタは
聞き取りのテクニックはレベルアップするわ…
校長先生のお話の意味の深さに勉強させられるわ…
校長先生と仲良くなれるわ…

ホラ…イイコトだらけ…なのである。


というわけで「初級編」のスパーリングは
これにて終了なのである。

か〜〜〜〜ん
ゴングの音なんだなぁ…

次回は「中級編」だ…ね。



  

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