山形県のオキナグサ呼び名方言の由来(その3)

鹿間廣治著・山形県「植物方言」誌より
(このページの掲載については著者から承諾を得ています。多謝!)

                むすのごだんま

 昆虫図鑑をみていた小学校二年の子が ″怪獣みたいだ と言う。何のことだろうと思ったらそれは 「シラミ(虱)」であった。今の子どもたちは虱(シラミ)も蚤(ノミ)も知ってはいない。怪獣と思ったとしても無理は ないが、私のような年代の人にとっては懐かしい(?)生き物であった。なかなかしぶとく、DDTなるものが出現する までは、嫌われ者ではあったが家族のように幅をきかした時代があったのだ。

 「むすのごだんま」の ″むすのご″とは、「虫の子」、それは「シラミの卵」のこと、″だんま″は「毬(マリ)」のことで、 「むすのごだんま」は、キンポウゲ科の「オキナグサ」の方言名の一つである。

 この植物は、葉にも茎にも白く長い毛が密生し、長いメシベも有毛で、果時には沢山の長い花柱が丸みがかってまとまり、 ちょっとタンポポに似た状態になる。その丸い形を毬にみたて、一本一本の花柱の根元についている種子を「シラミの卵」 と見、この名前が付けられたものである。よく子どもたちはメシベを集めて木綿糸を使って毬を作り、遊んだりもした。

 まだ若草も萌えでない早春に、枯草の中でうつむきかげんに咲く「オキナグサ」、以前はそちこちでざらに見かけることが 出来たのだが、今はほとんど見ることが出来なくなった。心ない人たちが採りつくしたからだ。私が好きな花はいっぱい あるが、その中でもオキナグサは特に好きな花の一つである。

 20年も前のこと、写真を撮るために山の斜面の一株のオキナグサに三回も通ったことがあった。齋藤茂吉がこの花を 好きだったことは有名で、沢山の歌を残している。

 ◎おきなぐさに唇ふれて帰りしがあはれあはれいま思ひ出でつも
 ◎おきなぐさ口赤く咲く野の道に 光ながれて我ら行きつも
 ◎最上川ながれゆたけき春の日に かの翁ぐさも咲きいづらむか
 ◎おきなぐさここに残りてにほへるを ひとり掘りつつ涙ぐむなり
 ◎われ世をも去らむ頃にし白頭翁 いづらの野べに移りにほはむ
 ◎たたかひにやぶれし国の高野原 口あかく咲くくさをあはれむ

 オキナグサはその土地土地でさまざまな方言で呼ばれているが、花よりも、白い毛が見事な実の時期のオキナグサの 印象から付けられた名前がほとんどで、しかも、「しらがぼうず」「しらひげ」などと、″老人の白髪 とか白いひげ  に見立てたのが多い中で、「むすのごだんま」は特異な存在である。そしてそれには、シラミに苦しめられた時代の 人たちの思いが込められているようで、やはり ″シラミ に悩ませられた私にとっても忘れられない名前の一つである。


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