frower2015年  6月のフィールドノートから

*番外編*6月1日-2日 台湾玉山
 奄美野鳥の会の仲間と一緒に台湾探鳥ツアーに行ったのが2年前。ミカドキジを観るために阿里山から塔塔加のヴィジターセンターまで上がった際に、いずれは玉
山に登りたいねという話が出た。それをさっそく実現することになった。奄美大島と台湾は距離的にも近いし、鹿児島か空港から台北行きの飛行機が飛んでいること
もあって、国内旅行気分で手軽に行くことができる。今回は4泊5日の日程で3952mの台湾の最高峰を目指すことにした。
 奄美を出た日のうちに阿里山まで行き、宿泊。翌朝は阿里山の樹齢1000年級のタイワンベニヒノキ(台湾紅檜:Chamaecyparis formosensis)が林立するご神木の森
で軽くウォーミングアップをしてから、車で東埔駐車場まで移動。ガイドである高地先住民のゼンさんと合流してから、管理等で入山手続き、さらにシャトルバスで登山口
である塔塔迦鞍部まで運んでもらう。ここの標高はおよそ2600m。登山1日目は標高3400mの地点にある排雲山荘までの道のりである。梅雨のさなかとあって、登りは
じめからずっと霧の中。足元のスミレや沿道のツツジに癒されながら、高度を稼ぐ。ときおり霧が晴れると右手に広がる谷が姿を現す。その深いこと、広いこと。ともす
ると足がすくみそうになる。2時間半ほど歩いて、休憩場所の西峰観景台に到着。早めの昼食をゆっくりとっていると、おこぼれを狙ってキンバネホイビイやオーストン
カオナガリスが近づいてくる。前回も感じたことだが、キンバネホイビイの人懐っこいこと。どんどん近づいてきて、同行者の靴の上に乗ってしまうほどなのだ。ここまで
警戒心をなくしてよいのだろうか。英気を養ったあと、登山を再開。ゼンさんに従い、よく整備された登山道をたどる。針葉樹の巨木が目立つようになる。ニイタカトドマ
ツ(台湾冷杉:Abies kawakamii)の巨木である。登山道には所々自然を解説する看板が立っており、それによると台湾の針葉樹の垂直分布は低い方からタイワンベニ
ヒノキ、タイワンヒノキ(台湾檜:C.obtusa var. formosana)、タイワンツガ(台湾鉄杉、Tsuga chinensis var. formosana)、ニイタカトドマツの順になっているらしい。その後
は難所もなく、目的地の排雲山荘へは14時頃二番乗りで入ることができた。夕食までの長い午後はタカサゴマシコやニイタカキクイタダキ、アリサンヒタキなど、山荘の
周りに次々とやってくる鳥たちの姿を見ながら疲れを癒やすうちに、雲がどんどんなくなり、青空が雲間から顔をのぞかせた。明日晴れてくれますようにと祈りつつ、17時
に夕食、18時に就寝。


▲エサをねだって同行者の靴に乗ったキンバネホイビイ。


▲オーストンカオナガリスもおこぼれを狙って近づいてくる。


▲山荘の周りではタカサゴマシコのオスが至近距離までやってきた。

 2日目の朝はなんと1時半起床。軽い朝食をとってから2時半にスタート。なんと幸運なのだろう。雲ひとつなく、月齢13.9の明るい月が天頂近くから明るい光を投げか
けている。なかなか寝つけなかったせいで少々寝不足ではあるが、いきなりテンションがあがる。標高3400mの排雲山荘から標高3952mの山頂までは結構な急登であ
る。空気も薄くなっているので、一歩一歩確実に高度を稼いでいく。振り返ると月明かりの下、遠く嘉義の街の灯が確認できる。休憩をはさみつつ登ること2時間。4時半
についに山頂に立つ。西の空が次第に明るくなり、5時5分にご来光を拝むことができた。山頂には50人ほどの登山客がいる。玉山は入山規制がされており、1日の登
山客は92人、うち外国人は24人までだという。際限なく人を受け入れている日本の最高峰とはひと味違い、それだけ大切にされているということだろう。見習うべきであ
ろう。陽が登るとたちまち明るくなってくる。いつの間にかイワヒバリが足元をちょろちょろしている。高山鳥はどれも人との距離が近くてすてきだ。復路は排山山荘で十
分に休憩したあとは一気に下山。シャクナゲの花やニイタカトドマツの巨樹を愛でながら、11時半には塔塔加鞍部にたどり着いた。


▲嘉義の街明かりを遠くに望む。


▲標高3952mからのご来光。


▲イワヒバリが遊びにきた。


*6月13日 奄美大島北部
 アジサシの季節がやってきた。ここ数年、奄美大島近辺ではベニアジサシの繁殖が確認されていない。今年はどうだろうと思い立ち、北部のアジサシ事情を確認し
てみることにした。まず名瀬大熊漁港をのぞいてみる。カツオ漁船のある大熊漁港には漁に使用するためのエサの生け簀があり、その小魚を狙ってアジサシ類が集
まるのだ。今朝はエリグロアジサシとベニアジサシの20羽ほどの群れを確認。エリグロアジサシのほうが数が多い。次に訪れた赤尾木湾ではエリグロアジサシが群れ
ている岩礁を発見。まだ産卵はしていないようだが、繁殖してくれる可能性は大きい。続いて土盛海岸へ移動。かつてはベニアジサシの繁殖地だったが、人が入った
り、ハヤブサがいついたりしたからか、最近は姿さえ見かけない。残念ながら今日もベニアジサシは確認できず。ここではコアジサシも繁殖しているが、今年もいくつか
巣を発見した。無事に育つまで台風が来ませんように。総じてアジサシ類の数は少なく、特にベニアジサシは多くない。今年もまた繁殖はなしかなあ……。


▲エリグロアジサシのおりている岩礁。まだ卵は産んでいないもよう。


▲青空に白いアジサシ。これぞ奄美の夏の風物詩。




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