frower2014年  4月のフィールドノートから

*4月2日 龍郷町赤尾木
 昨年末から奄美群島に豊岡から2羽のコウノトリが飛来している。1羽は12月初めに喜界島に来て、奄美大島を経由したあと与路島にしばらく滞在し、徳之島へ
渡ったオスのJ0066個体、もう1羽は12月末から龍郷町の赤尾木を中心に出没しているJ0066と同じ親から生まれたやはりオスのJ0067個体(もしかしたらもう1羽
いるのかもしれないという未確認情報もある)。この兄弟は新聞などのメディアにもとりあげられたせいで有名になり、かなり多くの人がご覧になったようだが、私
はタイミングが合わずにずっと見逃していた。さすがにぼちぼち見ないといなくなるかもしれないと思って車を飛ばしたところ、幸いにもJ0067個体はまだ滞在中だ
った。やはりコウノトリはでっかい。年末に諫早で見たナベコウよりもでっかいし、2月に出水でみたツルと比べても重量感がある。実に見栄えのする鳥だ。草丈の
高い湿地の中を長い脚を駆使して悠然と歩き、餌を探している。J0067個体は2013年4月10日生まれなので、もうじき生後1年となる。このオス1歳のコウノトリは、
今度どのような旅をするのだろう。果たして豊岡に戻るのか、興味津々である。


▲右足に黒と赤、左足に青と赤の足環をつけたJ0067個体


▲餌はいったん放り投げてから嘴でキャッチし、丸飲みする。


*番外編*4月5日 神奈川県相模原市
 関東でウタツグミが出ていると聞き、羨ましく思っていたのはひと月以上前のこと。4月に上京する用事があるのでそのときまでいてくれるといいな、という淡い期
待に応えてくれたかのごとく、まだ滞在中という吉報が届いた。なにはともあれ急がねばと、事前に教えていただいた場所へ向かう。ソメイヨシノが満開の現地に着
くとすでに5名のカメラマンが扇状の陣形で大砲を構えていらっしゃる。そして扇の要の部分にあたる地面にはなにやら動く影があるではないか! いそいそと双眼
鏡を取り出して焦点を合わせると、動いていたのはただのツグミであった。それもそのはず。ウタツグミが出現していれば、もう少し砲弾の音(=シャッター音)がう
るさいはずなのに、あたりはのんびり待機のムードである。もしや昨日までで抜けた? と胸中に暗雲たちこめたそのとき、ツグミの奥にもう1羽、別の鳥が現れた。
のんびりした公園に緊張が走る。再び双眼鏡を合わせるが、草丈が高く、鳥の動きが素早いのでなかなか姿が捕えられない。と、左右から砲弾の音が。ウタツグ
ミの出現に間違いないのに、自分だけ観れていない状況に焦る。が、そうこうするうちにようやく視野の中に白茶けた観たことのない鳥の姿をとらえることに成功。
なるほど、これがウタツグミか。第一印象は地味なツグミ、それに尽きる。名前のとおり囀りは美声というが、姿ははっきり言ってぱっとしない。ツグミに追い払われ
たりネコが近づいたりするたびに奥の竹やぶに逃げ込んでいくが、その後はたびたび姿を現してくれた。おかげさまで花見と同時にライファーの鳥を十分堪能。


▲ビデオで捕えたウタツグミ。背面の色が地面に溶け込んで、意外と見つけにくい。


*4月12日 龍郷町自然観察の森
 奄美の鳥たちは繁殖の最盛期。手軽に観察できる自然観察の森へ足を延ばす。林の中を飛びまわるルリカケスを双眼鏡で追っていると、背後からカツッカツッ
という鈍い音が聞こえる。振り向くとわずか5mほどの距離の目線の高さでオーストンオオアカゲラのメスがさかんに樹皮をはがし、アリかなにかを食べている。しば
らく観ていても、いっこうに逃げるようすがなく、最終的には私のほうがそっと立ち去った。アカヒゲの囀りが美しく響く一帯に移動してしばらく待つが、なかなか姿は
観られない。と、アカヒゲの声にかぶさるように、キビタキの声が。こちらは鳴き声を目安に探せば、姿は観やすい。案の定、すぐに見つかった。沖縄島ではリュウ
キュウキビタキは2月ごろから鳴きはじめるという話を耳にしたが、奄美では毎年だいたいこの時期に囀りはじめる。留鳥としては繁殖開始がかなり遅く、おそらく
かなりの割合で奄美のリュウキュウキビタキは冬場南のほうへ渡っているのではないか、と考えている。


▲至近距離でさかんにエサを探すオーストンオオアカゲラのメス。


▲囀りはじめたリュウキュウキビタキのオス。


*4月21日 奄美市笠利崎
 奄美大島における春の渡りの実態を解明するべく、島の最北端の笠利崎付近でバンディンを行う。前日20日にはリュウキュウキビタキが2羽かかった。リュウ
キュウキビタキは屋久島やトカラ列島では夏鳥なので、おそらくこれからその辺まで渡っていくのだろう。今朝もキビタキのメスのような鳥がかかっていたので近
づいてみると、なんとオオルリのメスであった。奄美群島ではオオルリは春の渡りのときに稀にしか記録されない鳥だが、もしかしたら少数が静かに渡っている
のかもそれない。ぼちぼち撤収しようかなと考えていると、今度はなにやら大きな鳥が棚に落ちている。ツミのメスだ。翼式や計測値から考えて、亜種ツミで間違
いないと思う。


▲オオルリのメス。尾羽の基部がこんなに赤茶ぽいとは初めて知った。


▲ツミのメス。小さいとはいえ、しっかり猛禽の面構え。

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