frower2006年  9月のフィールドノートから

*9月05日(火) 龍郷町長雲
 
ちょうどオオトラツグミの一斉調査が行われる3月、4月頃、沢筋からヒュー、ヒューというイシカワガエルの鳴き声をよく耳にする。
この貴重なカエル、その時期には沢近くで繁殖するのだが、非繁殖期には照葉樹林の中に分散しているようだ。ということで、林
の中へイシカワガエル探しに出かける。昼間はシイの樹洞の中などでじっと休んでいるが、夜となると起き出して活動するので、
探しやすいはず……という目論見通り、あちこちのシイの大木の又の上にいる。親指ほどの小さな個体から掌を超える大きな個
体までサイズはまちまち。夜の森はカマドウマ、サソリモドキ、オオゲジ、ムカデなど、異形の者たちがひしめく世界である。そんな
中でこのイシカワガエルなどは強力な捕食者なのだろう。この美しいカエルがオオゲジなどを飲み込んでいるところを想像すると、
ちょっと幻滅してしまうが、生きるためにどの生き物も必死なのだ。


▲夜の森で起き出したイシカワガエル。


*9月06日(水) 瀬戸内町篠川
 
沢沿いの茂みからリリリリリリと美しい声が聞こえる。南西諸島に生息するマツムシの一種リュウキュウサワマツムシである。
コオロギの仲間はすべてそうだが、鳴き声はすれど姿は見つからない、ということが実に多い。今回は粘って探してみることに。
懐中電灯を当てて目を凝らすも、見つかるのはマダラコオロギばかり。マダラコオロギもマツムシの仲間であるが、こちらの鳴き
声はいたって地味である。すぐ近くでリリリリリリリと聞こえるのに、近づけば近づくほど音源を定位しづらい。何度もあきらめ、次
の虫、次の虫と探すうちにようやく一頭、葉の上で鳴いているオスを見つけた。よほどメスが恋しいのか、光を当てても、フラッシ
ュを焚いても逃げようとしない。そのおかげで無事、撮影に成功!


▲一心不乱に鳴き続けるリュウキュウサワマツムシのオス。


*9月09日(土) 瀬戸内町ハンミャ島
 
ハンミャ島にてオオミズナギドリとアナドリの繁殖状況の調査を行う。昨年は10月に実施し、アナドリは確認できず、オオミズナ
ギドリについては巣立ち間際の幼鳥を確認という結果だったので、今年はひと月早めて渡ることにした。夕方島に着き、タープと
テントを設営して、ゆっくり夕食。完全に暗くなった20時に調査を開始する。
 最初にアナドリの営巣地へ行く。するとかすかにアナドリの特徴的な鳴き声が聞こえてくる。まずは例年営巣している岩の隙間
を照らすと、案の定成鳥を1羽発見。その後も次々と穴の中の成鳥や飛び回る成鳥、さらに鳴き声などを確認。そうこうしているう
ちに調査員のひとりがアナドリのヒナを発見。全身黒い綿毛に覆われた見るからに幼いヒナだが、体重はすでに親をしのいでい
る。このあと換羽してひと月以内には親鳥とともにここから飛び立っていくのだろう。その巣の近くにはもう1羽ヒナがいたので、
一腹卵数は2ではないかと思われる。確認した巣は19。実際にはもう少し多いと思われる。
 続いてオオミズナギドリの営巣地へ。アダンの茂みをかきわけて斜面を登ると、木の根元に巣穴があいている。巣穴は深く、中
はなかなか見通せないが、入り口近くに新しい羽毛や糞が落ちているのは今年使用中の巣穴だと判断する。ときには穴の奥に
成鳥やヒナの姿が見える巣もある。こちらのヒナは親に比べてまだまだ小さく、巣立つまでまだ当分時間がかかりそうだ。確認し
た巣穴は約20。未調査斜面も残ってしまったので、実際にはこの倍程度の巣穴があるのではないだろうか。


▲アナドリの成鳥。嘴の形が実に個性的。


*9月20日(水) 奄美市朝戸峠
 
台風13号が去ったあとからにわかに空が騒がしくなってきた。アカハラダカの渡りである。9月にずっと朝戸峠で観察を続け
られている岩元さんのアシストにでもなれば、と時間のある日にはカウントを手伝っている。今朝は8時過ぎくらいからアカハ
ラダカが舞いはじめ、あちらこちらに鷹ボールや鷹柱が出現した。下の画像はその一瞬をビデオで撮影したもの。約500羽程
の群れが旋回しながら上昇するところである。今季最大の群れを観察でき、いつもより早めに峠を降りた。今日は月に一度の
通院の日だったのだ。ところが、先ほどの群れは前座に過ぎず、本日のメインイベントは10時を過ぎたころから開演されたら
しい。なんでも1000を超える群れ、2000を超える群れが立て続けに通過し、さながら空は鷹の川のごとくであったとか。観ら
れなくてまことに残念。持病の痛風がこんなときに足を引っ張るとは……。


▲小さな斑点が約150個見えるが、すべてアカハラダカ。このときは全体でこの3倍ほどの群れだった。


*9月21日(木) 奄美市金作原
 
いつか観てみたいと思いつつ、自分で探すのは面倒なので観るのは難しかろうと思っていた昆虫にひょんなことから遭遇
できた。環境省のモニタリング調査のために設置しているピットフォールトラップにかかっていたのだ、マンマルコガネタマキノコムシが!
1990年に日本産甲虫として新しく科ごと加わった微細な珍虫である。名前の通り、ダンゴムシよろしく体を折り曲げて丸まる
ことができるのが、この虫の最大の特徴である。日本から発見されたのは最近だが、いるところにはいるらしく、図鑑による
と、フレーク状の枯れ木にシロアリとともに生活していることが多いという
。なんでまたピットフォールにかかったのかなあ。


マンマルコガネタマキノコムシが丸まった体勢から触角と脚を伸ばしはじめたところ。

*2015年10月26日追記。ある方から、この昆虫はマンマルコガネではなく、タマキノコムシの一種だというご指摘をいた
だいた。調べてみると、まさにそのとおり。不勉強で、タマキノコムシを知りませんでした。訂正いたします。


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