frower2003年  6月のフィールドノートから

6月1日(日) 笠利町大瀬海岸
 
台風4号が去った後なので、なにか珍しい鳥が入っていないかと大瀬海岸に出かける。今日は大潮なの
で干潮時だと遠すぎてバードウォッチングにならない。午前7時15分の満潮に合わせて出かける。到着する
とすでに前野夫妻とその知り合いの姿が。なんでも5時半くらいから待っていらっしゃるとか。頭が下がる。
「コアジサシがいますよ」と教えられてのぞくと、1羽大きめのアジサシが。ハジロクロハラアジサシの第1回
夏羽のようだ。その個体はしばらく干潟で休んだ後、我々が観察していた砂浜のほうへ飛んできた。そし
てコマツヨイグサやグンバイヒルガオが茂る浜の上をひらひらと舞うのだ。すると近くで休んでいたのか、
別のハジロクロハラアジサシが次々と合流。全部で5羽が至近距離で乱舞するのだった。不思議な光景。
 干潟に目を戻すと大きめのアジサシが悠々と飛んでいる。尾の切れ込みが少なく、ハシブトアジサシだと
わかる。夏羽の個体である。なかなか干潟に降りず、右へ左へと海岸上空を飛び回っている。その後ろに
ひと回り小さいアジサシの姿が。遠目からもお腹が黒いことがわかるクロハラアジサシである。さらにその
向こうにはコアジサシの群れに混じって、全身純白のアジサシが。こちらはエリグロアジサシである。あと
はベニアジサシが出たらオールキャストだと、待つこと1時間。遠方から飛来するアジサシの群れを発見。
干潟に降りたのでフィールドスコープでのぞく。嘴は赤くないが、胸のあたりがほんのりとピンクに染まっ
た、まさにベニアジサシではないか。繁殖期直前の嘴は黒くなるとのこと。ついに夏の使者がご到着!
 2時間で6種、アジサシ日和の大瀬海岸であった。


▲ハジロクロハラアジサシは第1回夏羽なので腹が黒くない。

▲クロハラアジサシは成鳥夏羽なので腹が黒い。


*番外篇 6月21日(土) 北海道北見市
 
奄美に暮らして4回目の梅雨であるが、どうしてもこの蒸し暑さにはなじめないので、東京、そして北海道
へと避暑ならぬ避湿に来ている。東京は主に仕事の打ち合わせ&友人たちとの飲み会、北海道は主に自
然観察&友人たちとの飲み会である。さて、本日はぜひ会いたい人がいて北見市へとやってきた。その人
物は徳田バイカダさん。爬虫類・両生類好きのバイカダ氏とは、昨年の秋に彼が身重の奥さんと一緒に奄
美に来島されて以来の知り合い。徳田夫妻はこの「鳥さんのフィールドノート」を見て、来島前に連絡してく
れたのだ。初対面だったその来島の折りに一緒にヘビを探しまわり、すっかり意気投合。その縁あって、北
海道での再会を約束していたのだ。
 北見の駅前でバイカダさんと合流。彼の家に寄って奥さんの愛さんと新生児の虎太郎くんに挨拶したあと、
郊外の富里林道を案内してもらうことになった。バイカダさんにはクマゲラの営巣している場所を探しておい
て欲しいというオーダーを出しておいたのだが、生憎見つけてもらっていた場所では、すでにクマゲラは巣立
ってしまっていた。メインの目的をクマゲラからエゾサンショウウオへと変更し、フィールディングへ出かけるこ
とに相成った。
 初夏の北海道の森は新緑がとても美しい。林道に入った途端、森の中からアオジ、エゾムシクイ、コマドリ
などのさえずりが聞こえてくる。バイカダさんお勧めのルートだけあって、さすがに鳥影が濃い。しばらく進ん
だところで彼が車を止めた。道の傍らに水溜りがあるが、そこがサンショウウオのポイントだという。車から降
りて、観察する。考えてみるといままで一度も野生のサンショウウオを観たとことがない。南西諸島にいない
ことが一番の原因といえるが、以前住んでいた福岡でも東京でも近くに生息地があることは知っていても食
指が動かなかった。黒っぽくてぬめぬめしていていまいちスター性に欠けるサンショウウオなんて観たってと、
たかを括っていたのだ。が、バイカダさんが網ですくったサンショウウオを観て、その印象は一変。この時期に
は成体はいないということで、見せてくれたのはエゾサンショウウオの越冬幼生だったが、こいつが妙にぷっ
くりとしていて愛嬌があるのだ。オタマジャクシを太らせて虚弱な手足と立派なえらをくっつけたようなその姿に、
すっかり見入ってしまった。
 サンショウウオへの認識を改めたところで、再出発。しばらく進むと道の真ん中を歩く鳥の姿を発見。エゾライ
チョウである。双眼鏡を当ててのぞくと、メスのようである。そのメスの後ろにチョコチョコと動く小さな影がふた
つ。ヒナが母親の後を一生懸命追いかけているのだ。これはラッキーと、ビデオで撮影することに。
 エゾライチョウを堪能してまたしばらく車を走らせると、今度はもう少し大きな影が車の前から飛び出し、10m
程前方で立ち止まった。エゾユキウサギの幼獣である。くりくりした目が愛らしい子ウサギが道の真ん中で、撮
影してよと言わんばかりにたたずんでいる。バイカダ氏も幼獣をじっくり観るのは初めてということで、車内は一
気に興奮状態に。
 こうして富里林道ではエゾサンショウウオ、エゾライチョウ、エゾユキウサギのそれぞれの子どもたちの姿を十
分に観ることができ、クマゲラの無念はすっかり晴れたのであった。徳田バイカダさん、どうもありがとうござい
ました。


▲水溜りの底にいるエゾサンショウウオの越冬幼生。

▲林道に出てきたエゾライチョウ。左にヒナの姿も。

▲エゾユキウサギの幼獣。写真撮影は徳田バイカダさん。


6月29日(日) 龍郷町市理原
 
道路工事による影響が気になったので、工事のない日曜日に市理原の山上の池まで出かけることにし
た。梅雨明けしたばかりの奄美大島は朝から絶好のいい天気。ゲンゴロウ日和である。林道を走る途中で
アマミヤマシギの姿を発見。それも2羽。2羽は別々のところにいたが、どちらも成鳥のようである。こんな明
るい昼間にどうして林道に出ているのだろう。不思議である。
 山上の道路工事は随分進んでいる。池も一部護岸工事が施されていて、面積が小さくなっている。だが水
は相変わらず澄んでおり、少し安心する。さっそく長靴で池に入り、ゲンゴロウを探す。しかし、ここにはたくさ
んいた大型種のヒメフチトリゲンゴロウや微小種のナガチビゲンゴロウはさっぱりみつからない。みかけるの
は普通種のトビイロゲンゴロウやオキナワスジゲンゴロウ、ウスイロシマゲンゴロウばかりなのである。やは
り環境が変わったのだろうか。無駄な公共工事により、自然破壊はかくのごとく進む!


▲珍しく昼間林道に出てきたアマミヤマシギ

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