五十肩・腱板断裂 Frozen Shoulder,Rotator Cuff Rupture 玉井和哉  獨協医科大学教授・整形外科 -------------------------------------------------- 診断のポイント  五十肩と腱板断裂は,ともに中高年に好発する軟部組織の退行性変化を基盤とした疾患である.前者は肩の疼痛と関節拘縮,後者は疼痛と筋力低下を特徴とする.五十肩の病因として腱板の変性や微小な断裂が考えられているが,検査によって腱板に断裂を証明できれば,もはや五十肩とは呼ばず,腱板断裂と診断する. 【1】発生頻度:五十肩は人口の2〜5%にみられ,女性にやや多い.腱板断裂は剖検例の20〜50%にみられ,男性のほうが多い. 【2】外傷の既往:五十肩では明らかな外傷の既往はない.腱板断裂では外傷後に発症する例が多いが,自然断裂も稀でない. 【3】運動制限:五十肩では疼痛(初期)または関節拘縮(後期)のため,すべての方向に運動制限がある.腱板断裂では疼痛と筋力低下によって自動運動は制限されるが,拘縮はないことが多い. 【4】筋力:五十肩ではほぼ正常であるが,腱板断裂では挙上および外旋筋力が低下することが多い. 【5】画像所見:五十肩ではほぼ正常であるが,腱板断裂では関節造影,超音波,MRIなどで腱の連続性が絶たれた像がある. 症候の診かた 【1】肩関節痛:両疾患とも夜間痛が起こる.五十肩(後期)では関節拘縮のため可動域の限界近くで痛みがある.自動挙上が可能な腱板断裂では,ほぼ60°から120°の間で痛みが生じる(有痛弧徴候:painful arc sign). 【2】筋萎縮:腱板断裂では棘下筋の萎縮がみられる. 【3】圧痛点:五十肩では肩周囲に多くの圧痛点があるが,特異的なものではない.腱板断裂では大結節の棘上筋腱付着部に圧痛があり,腱の欠損を触れる. 【4】肩関節の挙上運動:両疾患とも肩甲上腕関節の動きに比べ,胸郭上での肩甲骨の動きが過大である(肩甲上腕リズムの異常). 【5】可動域:五十肩ではすべての方向で制限されるが,特に外旋と内旋の制限が目立ち,典型的には結髪,結帯の障害として現れる.腱板断裂では他動運動は制限されないことが多いが,部分断裂の一部は関節拘縮を生じ,五十肩と区別できない病像となる. 【6】筋力:五十肩では可動域の範囲内では筋力低下はみられない.腱板の全層断裂では外転力,外旋力の低下がみられる.典型例では患肢を90°外転位に保持できない(腕落下徴候:drop arm sign). 検査とその所見の読みかた 【1】単純X線像:五十肩では明らかな異常のない例がほとんどである.広範囲の腱板断裂では上腕骨頭が上昇し,肩峰との距離(肩峰骨頭間距離:acromiohumeral interval;AHI,正常では7mm以上)が5mm以下となる(図1[図]). 【2】関節造影像:五十肩では関節腔の狭小化がある.腱板(全層)断裂では,関節腔内に入れた造影剤が肩峰下包に漏出する. 【3】超音波,MRI:五十肩では明らかな異常はない.腱板断裂ではいずれの検査でも腱の不連続性がみられる.MRIのT2強調像で断裂部は高信号を呈する(図2[図]).部分断裂の診断にはMRIが有用である. 確定診断のポイント  五十肩では,@年齢が40〜60歳代であること,A明白な外傷歴がないこと,B疼痛とともに肩関節拘縮があること,C腱板断裂を除外できること,が診断根拠となる.  腱板断裂では,関節造影またはMRIで腱の不連続性を証明すれば確定診断となる.その他,大結節部で腱欠損を触知できる場合と,X線写真で肩峰骨頭間距離が5mm以下の場合は腱板断裂があると考えてよい. 鑑別すべき疾患と鑑別のポイント 【1】石灰性腱炎 @しばしば激痛のため運動制限が著明で,石灰沈着部位に圧痛がある. AX線像で腱板に石灰沈着をみる. 【2】上腕二頭筋長頭腱腱鞘炎 @結節間溝部に圧痛を認め,肘屈曲位での前腕回外で痛みが増強する(Yergason徴候). A腱板断裂に合併することがある. 【3】肩峰下インピンジメント症候群 @有痛弧徴候があるが,真の筋力低下,関節拘縮はない. A肩峰下包への局所麻酔薬注入で疼痛が軽減する. 【4】肩手症候群 @片麻痺,心疾患,上肢の外傷などに続発する. A肩の運動制限とともに手の腫脹や拘縮がある. BX線で手の骨に萎縮がある. 【5】陳旧性肩関節脱臼 @中高年の陳旧性脱臼は疼痛が少なく,ある程度の可動域があるため,五十肩と誤診されうる. AX線検査で診断する. 予後判定の基準  五十肩は1〜2年で自然治癒する傾向が強いが,糖尿病患者では経過が長い.腱板断裂のうち部分断裂は自然治癒がありうるが,全層断裂は治癒することはないとされ,見かけ上挙上ができる程度までは回復しても筋力低下は消失しない. 治療法ワンポイント・メモ 【1】生活指導:両疾患とも肩用サポーターの使用や,仰臥位で寝たとき肘以下にクッションを入れることにより,痛みが軽減される. 【2】理学療法:両疾患とも急性の痛みには冷庵法,慢性的な痛みには温熱がよい. 【3】運動療法:五十肩(後期)では積極的な自・他動運動を行う.腱板断裂では新鮮期には自動的挙上は避ける. 【4】薬物療法:両疾患とも非ステロイド性抗炎症薬は有効.夜間痛の強いときは副腎皮質ステロイドを関節内に注入する.五十肩ではヒアルロン酸ナトリウムの注射も有用. 【5】手術療法:五十肩では手術を要することは稀である.腱板断裂では腱板修復,肩峰形成術を行う.術後の社会復帰の目安は軽作業で2〜3か月,重労働で4〜6か月. 手術適応のポイント  65歳以下の腱板断裂で,痛みまたは筋力低下が明らかな場合は手術がよい.高齢者では,断裂範囲などを慎重に評価して手術適応を決める. さらに知っておくと役立つこと―肩関節の機能解剖  肩関節は解剖学的には球関節に分類されるが,骨頭は関節窩に比して不釣り合いに大きく,関節の安定性は悪い.しかし一方で,そのような構造が人体で最大の可動域を有する関節であることにも関連している.不安定な肩関節がスムーズに動くためには,運動の支点が定まる必要があるが,腱板を構成する棘上筋,棘下筋,小円筋,肩甲下筋は,共同して上腕骨頭を関節窩に引きつけ,安定した支点をつくる役割をしている.このうち棘上筋の腱は烏口肩峰アーチ(肩峰,烏口肩峰靱帯,烏口突起)の直下にあって,肩関節の運動に際して常に機械的刺激を受け,変性や断裂を起こしやすい.こうした解剖学的特徴が五十肩や腱板断裂の発生に関連しているのである. 今日の診療Vol.13 (C)2003 IGAKU-SHOIN Tokyo