・本文「プロローグ  世に聞こえた三太郎」より
   おおげさな表現のように聞こえるかもしれないが、わたしは前世からこのテーマを背負わされて生まれてきたのではないかと、宿命とも思えるほど強い使命感さえ抱くようになった。
   家族の年忌の法事を介して、わたしは位牌の三太郎夫妻に出会った。いまは亡き父母や妻が結んでくれたこの縁をよすがにして、柳田国男が紀行文のなかで書いた「世に聞こえた三太郎」とはいったいどんな人物だったのか、再び取材の旅に出かけることにした。
   三太郎峠に立てば、きっと奄美の"心の風景"も眺めることができるだろう。たとえ取材の途中で迷路の森に足を踏み入れることがあっても、わが家の仏壇のなかに納まった位牌の主たちがそっと後押しして目的地へ導いてくれるに違いない、と願いながら腰をあげた。


[ルポルタージュ]
奄美の森に生きた人
前橋 松造 著

奄美の森に生きた人・表紙

解説 今をさかのぼる百年以上昔。
薩摩の一農業技術者が、奄美大島南部の山深
い峠に住みついた。
そこは、三太郎峠。
森を切り開き、見事な農園を造り上げた伝説の
人、畠中三太郎の実像を追う渾身のルポである。
カバー及び口絵写真・・・越間誠
発行 南方新社(2001年4月刊)
頁数 322P
価格 2,000円(税込)