妊婦の水痘(水ぼうそう)感染について

病因

 水痘は,水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus,VZV)感染により発症します.VZVは,初感染として水痘を発症した後,三叉神経節や脊髄後根神経節に潜伏します.その後,本人の免疫状態により再活性化し,帯状疱疹を発症します.我が国における,水痘発症のピークは8〜9歳の小児で,成人の95%以上は,VZV抗体を保有していると考えられています.

病態

 抗VZV抗体を保有しない妊婦が水痘患者と接触した場合,飛沫感染により体内に侵入し,10〜21日(平均14日)の潜伏期間を経て,水痘を発症します.ウイルス血症は,発疹出現2日前にピークとなり,発疹出現後には,血中ウイルス量は急速に低下します.

症状

 一般的経過は,発熱(38.0〜38.5℃),倦怠感,食欲不振など不定の前駆症状があり,およそ24時間後より発疹が出現します.発疹は,通常顔に始まり有毛頭部,躯幹,四肢へと広がります.はじめ直径3〜4mmの紅疹ですが,数時間で丘疹,水泡に変わり,その後3〜4日のうちに暗褐色の痂皮を形成します.病状の最盛期には,丘疹,水泡,痂皮など種々の段階の発疹が混在することも特徴の一つです.他者への感染可能期間は,発疹出現1日前から,すべての発疹の痂皮化までの6〜7日間です.成人が水痘に感染した場合,一般に小児よりも重症化することが多いですが,特に妊婦では,水痘肺炎を合併しやすく重篤化することがあるので注意を要します.

診断

 診断は,通常臨床症状により可能です.その他,血液検査を2回以上行い,抗体価が上昇していることを確認します.

先天性水痘症候群(Congenital varicella syndrome,CVS)

 先天性水痘症候群(以下CVS)の特徴的な臨床像は,皮膚瘢痕,発育障害,神経系の異常,眼球の異常,骨格の異常などです.ただし妊婦が水痘に感染する頻度は,1000妊婦に対して0.7と低率であり,感染したとしても妊娠20週までに感染した妊婦の内,CVS発症は1%程度です.妊娠21週以降の初感染と妊娠中の帯状疱疹からのCVS発症はありません.

新生児水痘

 妊娠末期に母体が水痘に感染すると,VZVが胎盤を通して胎児に感染し(経胎盤感染),生後10日以内に新生児水痘を発症します.経胎盤感染では,潜伏期間は通常の水痘に比し短く,8〜14日(平均10日)です.また,分娩前後に水痘に感染した妊婦の児が感染する頻度は24〜51%です.新生児水痘の予後には,母体の感染成立後から分娩までの期間が強く関係します.つまり,母体の抗VZV抗体の産生とそれが児へ移行しているかどうかが新生児水痘の予後を左右します.

 1)母体のVZV感染から,ウイルス血症のピークとなる以前の潜伏期間中に分娩に至った場合,つまり,母体水痘の発症が産褥3日目以降(母体の発症の3日以上前に分娩)である場合には,児への経胎盤感染はないものと考えられます.ただし生後,母体から感染される可能性があるため,母体水痘の感染可能期間(6〜7日)は母児隔離が必要です.

 2)母体の発症2日前から発症後4日目までに分娩した場合では,児への経胎盤感染が考えられ,さらに母体の抗VZV抗体はいまだ十分に児に移行しておらず,このため児は重症水痘になる可能性が強いです.通常,生後5〜10日に発症し,肺炎,脳炎などを併発することが多く,死亡率も30%に及びます.

 3)母体発症後,5日以上経過してからの分娩では,児への経胎盤感染が考えられますが,母体由来の抗VZV抗体がすでに児に移行していると考えられます.このため,生後0〜4日に発症しても重症化しません.

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