運動と健康について

 運動不足は心身の機能を低下させ,さまざまな疾病を発生しやすくします.一方,適度な運動は疾病を防ぎ,心身を良好な状態にする効果を持っています.

■運動不足による健康阻害

 車をはじめとした社会の豊かさが運動量を減少させ,また食生活も豊かになり,現代人はエネルギー摂取量の過多と運動によるエネルギー消費量の減少を来し,肥満をはじめとした運動不足によるさまざまな疾患や症状を有する人達が多くなっています.

■運動不足によって生じる疾患や症状

 ●心臓疾患(狭心症や心筋梗塞など)
 ●高血圧症(血管の硬化などによる)
 ●動脈硬化症(コレステロールなどの沈着による)
 ●糖尿病(肥満,エネルギー代謝のアンバランスなどによる)
 ●胃/十二指腸潰瘍(精神的ストレスなどによる)
 ●腰痛症(筋力の低下やアンバランス,不良姿勢などによる)
 ●ノイローゼ(精神的ストレスなどによる)
 ●肥満症(中性脂肪の沈着などによる)
 ●自律神経不安定症候群

■運動不足と冠状動脈硬化

 血中脂質の増加により,血管内壁は粥状にコレステロールが沈着し,動脈硬化が引き起こされます.このような血管の変化は10歳代より起こり,40歳代ではほぼ100%の人が何らかの変化を起こしています.

■肥満度の算出

 肥満度(%)=(その人の体重-標準体重)÷標準体重×100
 標準体重(kg)=22×身長(m)×身長(m)

■運動が身体諸機能・器官に与える影響

 有酸素的運動は,大量に摂取された酸素により脂肪をエネルギーとして消費します.そのため血中脂質は低下し,コレステロールの沈着を防ぎ,循環器系疾患の予防に役立ちます.心拍出量は増大し,毛細血管の新生も促し,血流も促進します.また筋細胞内のミトコンドリアの数・サイズともに増大され,酸素摂取能力は向上します.

 瞬発的運動やレジスタンストレーニングに代表されるような無酸素的運動は,筋繊維の肥大,筋力の増加,骨密度の増加などを起こし,活動的な生活を保障する身体づくりに効果的です.

 ストレッチングなど各種の柔軟運動は,筋の柔軟性を高め,関節の可動域を広げます.十分な可動域のある関節はダイナミックな運動を保障し,障害も予防しやすくなります.

 また各種のスポーツや運動は神経系の働きを促し,敏捷性や巧緻性,身体支配能力を高めます.スポーツや運動効果は身体面にとどまらず,精神的なストレスを軽減し,”肩凝り”や”疲れやすい”いったさまざまな自覚症状の改善をももたらします.その結果,運動は循環器系を中心とした疾患などを予防するだけでなく,死亡率や寿命にプラスに働き,しかも行動的でアクティブな生活を保障してくれます.

■クーパー博士のエアロビクス

 米軍の軍医であったクーパー博士は,呼吸循環器系疾患を予防し,これらの機能を改善する運動プログラムを開発し,これをAEROBICS(エアロビクス)と命名して1967年に発表しました.日本では「有酸素運動」と訳されています.
 クーパー博士は,体力を向上させるための運動について約5,000人のデータをもとに研究し,その結果,12分間走テストと呼ばれる体力測定から体力区分を行い,それぞれの区分に応じた運動プログラムを開発しました.

■12分間走テスト

 エアロビクス・プログラムの中で用いられる体力テストです.屋外あるいは屋内のランニングトラック(走路)や距離の分かる平坦な道路などで,12分間に走って到達できた距離を測定するもので,五つの体力区分に分けられます(表1).このテストでは有酸素的な能力を評価し,また最大酸素摂取量を推定するためにも利用されます.通称「クーパーテスト」とか「クーパー走」とも呼ばれ広く行われています.

表1.12分間走テスト体力区分表  単位:m(クーパー,1968)

体力区分 年齢(歳)
30未満 30〜39 40〜49 50以上
I.非常に悪い
II.悪い
III.やや悪い
IV.良い
V.非常に良い
1600以下
1600〜1999
2000〜2399
2400〜2799
2800以上
1500以下
1500〜1799
1800〜2199
2200〜2599
2600以上
1400以下
1400〜1699
1700〜2099
2100〜2499
2500以上
1300以下
1300〜1599
1600〜1999
2000〜2399
2400以上
I.非常に悪い
II.悪い
III.やや悪い
IV.良い
V.非常に良い
1500以下
1500〜1799
1800〜2199
2200〜2599
2600以上
1400以下
1400〜1699
1700〜1999
2000〜2399
2400以上
1200以下
1200〜1499
1500〜1799
1800〜2299
2300以上
1000以下
1000〜1399
1400〜1699
1700〜2199
2200以上

■エアロビクス・プログラム

 エアロビクスでは,12分間走テストによって評価された体力区分と年齢に従って,それぞれの能力に応じた運動プログラムが実施されます.実施される各種の運動・スポーツの量は得点化され,軽い運動では点数が低く,激しい運動では点数が高くなっています.エアロビクス・プログラムの中では,最終的に1週間当たりに到達すべき合計得点の最低が30点と設定されています.

■エアロビクスの歴史

 1967年に発表されたクーパー博士の『エアロビクス』は,その後,ジョギングやサイクリング・水泳を中心としたトレーニングとして広まりました.さらにその後ジャッキー・ソレンセンが音楽を用いたエクササイズとしてエアロビック・ダンスを開発し,1980年代にはジェーン・フォンダの始めたスタジオ「ワーク・アウト」によって彼女の知名度とあいまって”エアロビック・ダンス・エクササイズ”として爆発的に広まり,現在に至っています.

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