性病その11:トリコモナス
特徴
Trichomonas vaginalis原虫による感染症は最もポピュラーな性感染症として古くから知られているものの一つです.
単細胞生物であるトリコモナス原虫は,現在腟トリコモナス,口腔トリコモナス,腸トリコモナスが知られており,それぞれの形態学的な区別は難しいですが感染部位に特異的な性質をもっています.生殖器に感染し,また明らかな病原性をもっているものは腟トリコモナスだけです.
新鮮な腟分泌物を顕微鏡検査すると鞭毛と波動膜で活発に運動しているのが観察されます.性感染症のなかでも一般的な疾患であり,典型的なピンポン感染をきたすにもかかわらず男性に比べ女性に強く症状が現われます.
感染経路
トリコモナスが性交によって感染することは明らかですが,感染者の年齢層は他の性感染症と異なり,非常に幅広く中高年者でもしばしばみられるのが特徴です.また性交経験のない女性や幼児でも感染のみられることから他の経路,下着やタオルなどからの感染,便器や浴槽を通じた感染などが知られています.トリコモナスは乾燥には非常に弱いですが,水中ではかなり長時間感染性があるようで,このことが家族内感染にも関係していると考えられます.また妊婦から新生児への垂直感染もあります.
男性の感染
男性では尿道炎症状を起こしますが一般に無症状なことが多いです.尿道への感染だけでは排尿により洗い流される可能性がありますが,トリコモナス感染のある男性には前立腺炎を有するものが多いといわれます.
女性の感染
男性に比べ女性トリコモナス感染症の臨床像は非常に多様です.泡状の悪臭の強い帯下の増加と外陰,腟の刺激感,強いかゆみを訴えます.膣炎ではトリコモナスだけが見られるものではなく,臭いの原因となる嫌気性菌や大腸菌,球菌の増殖をきたし混合感染の形態をとることが一般的で,膣炎の病態,臨床症状はこの混合感染によってつくられているといえます.
診断
多くは新鮮な腟分泌物の顕微鏡検査で活発に運動するトリコモナスを確認できます.