こどもの虫歯について

●虫歯はどこから来るの?

 人間は,生まれた瞬間から種々の雑菌と共存し始めます.口も例外ではなく,オギャーと産声を発した瞬間から,口にはいろいろな菌が住みつき始め,最終的には300種類以上の細菌が生息することになります.その中に虫歯菌もいるのです.

 では,虫歯菌はどこから来るのでしょうか?最近の研究によると,70%以上の確立で,母親の虫歯菌が赤ちゃんに移ることが分かっています.ついでに言うと,父親から赤ちゃんに移ることはほとんどなく,夫婦間で移ることも皆無に近いことが分かっています.

 最近,母親の歯周病菌も赤ちゃんに移っていくことが分かりました.
 このような観点から,北欧では,生まれてくる赤ちゃんの口の健康を守るために,妊婦の口をきれいにすることが強く推奨されています.また妊婦の口を健康にするために,健康保険も使えるようになりました.

 日本では,このような目的で保険は使えませんが,妊娠したことが分かったら,あるいは妊娠する可能性のある女性は,虫歯と歯周病の処置をきちっとして出産を迎えることが,ひいては赤ちゃんの口の健康につながるのです.
※母子手帳をもらう時に歯科検診があるのは,このような意味があるからです.

●虫歯は子供の病気?

 「虫歯は子供の病気」というと大人たちにしかられそうですが,実際虫歯は子供の病気なのです.
 「口の中に歯が顔を出してから,5年間虫歯にならなければ,”その歯”はそれから先虫歯になる可能性はほとんどない」という研究結果が,アメリカをはじめ世界中で発表されています.

 生えたての歯は(乳歯も永久歯も)虫歯菌に対して無防備ですが,5年ぐらいたつと,虫歯菌に対する抵抗性を獲得します.親知らず以外の永久歯は,小学1年生頃から6年生頃までの間に生えそろうので,小学校卒業から5年間,つまり高校生の頃まで1本の虫歯にもならなければ,その人はそれから一生,虫歯になる可能性はほとんどないのです.

 このような意味から「虫歯は子供の病気」と言えるのです.
 大人にも虫歯があるじゃないか,と思われるでしょう.実は,大人の虫歯はやり直しが多いのです.以前に治療(削って埋めたり,かぶせたり)を受けた,まさにその歯が悪くなって,治療のやり直しを受けているのです.虫歯の治療は,平均5年毎にやり直しが必要という統計も出ています.小学生の間に虫歯にならないようにすることが重要なゆえんです.

 ただし,歯周病になって根面が露出してきた成人は,根面虫歯には注意が必要です.
※先日NHKの「ためしてガッテン」でも放送していましたが,大人では歯周病を放置した場合,虫歯でないきれいな歯がポロポロ抜けていくのが問題となります.

●1才半の長女に歯みがきをさせるには?

 子供を虫歯で苦労させたくないと思うお父さん,お母さんは多いでしょう.お母さんとお子さんの”歯みがき格闘シーン”が目に浮かぶようです.一般的には,歯みがきは3才頃までは習慣づけの時期としてとらえ,親が子供の歯みがきをします.そして,3才を過ぎた頃から歯にも関心を向けさせ,習慣的にしかも自分で歯みがきができるように導いていきます.

 1才半ぐらいでも嫌がらないでよくみがかせてくれる子供もいますが,自我の芽生えで親の思うようにみがかせてくれないのが一般的でしょう.無理やり押さえつけてみがいても,苦労した割に十分みがけているか疑問ですし,かえって歯みがき嫌いを助長しかねません.

 それよりも,この年頃は好奇心おう盛で,親のまねごとが好きな時期ですので,子供に危なくないように注意して歯ブラシを持たせ,子供の前で毎日きちんと歯みがきをしてください.歯みがき後に「ほらっ,すっきりした」などと話しかけたり,きれいになった歯を見せていると,そのうちみがかせてくれるでしょう.

 子供が見よう見まねでみがく姿をほめてあげたり,機嫌の良いときは嫌がらない程度に子供の口の中をのぞいて,その様子を話してあげたりして,最後に親が仕上げみがきを試してみるのもよいでしょう.
※私は,わざと子供の前で歯みがきをします.すると自分にもやらせろと言ってきますので子供用歯ブラシを持たせます.最初から親がみがこうとすると反発しますので自由にさせてやります.そのうち飽きてきますので,それからみがいてあげます.

 最初は「ウワー,バイキンマンがいっぱい!」と言って,最後に「きれいになった.バイバイキーン」と言っておしまいです.

 1才から2才の時期の虫歯予防方法は,食べ物をメインに考えてください.砂糖を多く含んだ甘い食べ物は歯垢をつくりやすく,乳歯を溶かして虫歯をつくってしまいます.このころは味覚形成の上でも大切な時期で,薄味が良いとされています.日頃から甘い菓子類などを口にしていない子供は,虫歯で苦労することはありません.しかし,いったん甘党にさせてしまったら後々大変です.
 水分補給には,水が適しています.市販のジュース,スポーツドリンクなどは控えめにしましょう.

●孫におやつをあげる方法は?

 おじいちゃん,おばあちゃんと一緒に住んでいる子供は,虫歯だらけになってしまうという話をよく耳にします.しかし,これはおじいちゃん,おばあちゃんにとっては,とても不名誉なことではないでしょうか.

 かわいい孫が喜ぶものを食べさせたいと思うのは当然ですよね.問題はおやつではなく,おやつの中身なのです.虫歯ができる原因をしっかり理解し,逆に健康な歯を育てるようにすれば,「おやつをやらないで」とは決して言われません

●おやつを与えるポイント

 1)だらだらと与えない.
 2)甘いものや歯にくっ付くようなものは避ける.
 3)ジュース,スポーツドリンク類はなるべく避け,麦茶などにする.
 4)食べたら歯をみがくようにしつける.

 これらのことを考えていれば,おじいちゃんたちが悪者になることはありません.また,入れ歯を使っていたら,自分の経験を通して,孫たちに歯の大切さを教えていけばいいのではないでしょうか.
※私の父は総入れ歯です.ある日,入れ歯を外しているところを見た孫は目を丸くしてビックリしていました.「歯を大切にしないと,こうなるんだよ」と教えて以来,歯をよくみがくようになったとか.かなり説得力があるようです.

●子供の虫歯は放っておいても大丈夫?

 乳歯でも永久歯でも,虫歯を放置するといろいろ問題が出てきます.痛くなくても,虫歯は早く治療すべきです.

 虫歯を放っておくと…
1)治療が難しくなります.
2)食べ物がよく噛めないので消化が不十分になり,十分な栄養摂取も難しくなります.
3)前歯がひどい虫歯になると,発音に影響します.口元が不自然になり,生活に支障を来すこともあります.また,内向的な性格の原因にもなります.
4)虫歯の穴が大きくなると,隣の永久歯がその穴に向かって倒れたり,かみ合う歯が伸びたりして,噛み合わせが狂ったり歯並びが悪くなります.
5)虫歯の穴を放置しておくと,ほかの歯に感染します.また雑菌が繁殖し,口臭の原因になります.
6)虫歯がひどくなって神経が腐ると膿がたまります.膿は少しずつ全身に流れ,抵抗力や免疫力が低下すると,ほかの臓器などに感染することもあります.最も有名なのが,虫歯菌による心臓の病気(細菌性心内膜炎)です.

 乳歯は神経が太く,歯の質が薄いので,小さな虫歯でもすぐ神経にさわり,痛みがよく出ます.また,神経まで届いた乳歯の虫歯は治療がかなり難しくなります.
 虫歯がひどくなると,永久歯への生えかわりがうまくいかず,永久歯の歯並びが悪くなることがよくあります.

●8020運動って何?

 8020運動というのは,「80才になっても20本以上の歯を残し,何でもおいしく食べて健康な生活を過ごしましょう」ということです.
 現在は80才で4.5本しか歯は残っていませんから,8020は決して簡単な目標ではありません.生涯を通した歯科保健の充実が大切です.8020達成のスタートはマイナス1才,つまり赤ちゃんがお腹の中にいるときから始まっているのです.

 丈夫な歯を持った8020運動を達成できる赤ちゃんを出産するために…
1)胎児の乳歯の芽は,妊娠7週目ぐらいから出来始めると言われています.虫歯になりにくい,歯の丈夫な赤ちゃんを出産するためには,妊娠中の食生活が大きなカギとなります.バランスのとれた食事をとるように心掛けましょう.
2)虫歯は,細菌による感染症です.お母さんの虫歯菌と,子供の虫歯菌は,ほとんど同一種のものです.赤ちゃんを産んでからは,歯科医院に通院するのもなかなか大変ではないでしょうか.妊娠中の母体が安定している中期(5〜8ヶ月)に治療や保健指導を受けましょう.
 8020運動は「妊娠中」から,まずは「お母さんの口から」です.

●乳歯の役割とは?
 3才頃から9才ぐらいまでの間に奥歯のレントゲンを撮ってみると,乳歯の根が永久歯の芽をしっかり抱きかかえているのが分かります.永久歯の芽は乳歯の根に守られながら成長し,出番を待っているのです.その様子はまるで,親鳥が(乳歯)が自らの羽(乳歯の根)で,ヒナ(永久歯の芽)を抱え,巣立ちするまでのわが子を慈しんでいるようにも見えます.

 でも,親鳥が病気になったり,いなくなったら大変です.ヒナは大きな危険にさらされてしまいます.

 生えてきた永久歯の形がでこぼこしている,透明感がない,白い斑点がある,黄色や褐色の色がついている―などの症状が現われたときには,その永久歯のすぐ上にあった乳歯が大きな虫歯になっていたことが考えられます.また乳歯がひどい虫歯になって,自然の生え変わりを時期を待たずに早く抜かれてしまうと,その後に生えてくる永久歯は乳歯という水先案内を失ってしまうために,あらぬ方向に生え,結果として歯並びが悪くなります.

 このように乳歯は,永久歯になるまでのつなぎの役目を果たしているだけでなく,永久歯が健康に育ち,正しい位置に生えるための,親の役目もしているのです.「どうせ生え変わるのだから」ではなく,「健康に生え変わるように」親歯としての乳歯の役割を再認識してみましょう.

●6才臼歯って何?
 「6才臼歯」はその名の通り,6才頃乳臼歯の奥に生えてくる”歯の大様”と呼ばれている永久歯です.
 永久歯の中で一番大きくて,がっちりしています.また食物をかみ砕くとき一番多く使いますし,60キロ以上のかむ力が加わっても大丈夫.どうです,まさに歯の大様でしょう.6才臼歯は,一生大事にして使いたいものです.
 しかし,この6才臼歯は,とても虫歯になりやすいのです.どうしてでしょう.
 乳歯に虫歯があれば,そのまま6才臼歯にも虫歯菌がくっついて虫歯になりやすいのです.完全に生えるまで1年から1年半もかかり汚れやすい環境下にあることや,乳歯の一番奥に生えてくるため気付きにくく,かむ面がデコボコしているので食べかすがたまりやすい―といった理由があります.

 では,大事な大事な6才臼歯が虫歯にならないようにするには,どうすればよいのでしょう.
1)6才臼歯が歯の大様であることをよく認識すること.
2)乳歯の時期からしっかりと口の中の管理(好ましい食生活,上手な歯磨き,フッ化物利用,シーラント)をすること.
 6才臼歯を大切にして,8020運動(80才で20本の歯を残す)を達成しましょう.

 以上,出典は「歯の話」鹿児島県歯科医師会編
発行:南日本新聞社,定価1143円 です.

 こどもの歯に関する所を中心に引用しましたが,こどもの歯から老人の歯まで,わかりやすく書かれています.歯に興味のある方も興味のない方も1冊購入して読んでみられては…
 痛くも痒くもない「歯周病」.虫歯が無いからと甘くみてるとあなたもやがて総入れ歯ですよ.

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