産業医とは

産業医の仕事

 私事ですが,去る7月28日より8月2日まで産業医科大学へ日本医師会認定産業医の夏期集中講座というものを受講して参りました.朝8:30より17:00まで,実習のある日は19:00まで1週間びっちりの講義です.朝から夕方まで,こんなに集中して真面目に?講義を受けたのは学生時代以来でした.医師なりたての若い先生方から定年前の年配の先生方まで女医さんも含め400人,1つのホールに缶詰状態です.自分の専門分野と全く違う世界の話しなので新鮮身があり興味深く,非常に充実した1週間でした.受講された先生方のほとんどは,臨床医として活躍されている方々だと思われ,同様に熱心に受講されているように見受けられました.では,産業医とはどのような仕事をしているのでしょうか?

 産業医とは労働安全衛生法に定められているもので,労働者を50人以上有する事業所は産業医を選任しなければならないという決まりがあります.その仕事は,作業環境管理,作業管理,労働者の健康管理,この3つを柱とした管理を行うもので,職場巡視や労働安全衛生委員会に出席しなければなりません.我々臨床医が患者さんの病気や怪我の治療を行う立場であるのに対し,産業医は労働者を労働災害や職業病から守るために指導,アドバイス,時には勧告を事業主に行う立場の医師であると言えます.職業といっても事務的な比較的安全な仕事から,土木,林業,化学工場や原子力発電所に至るまで,一つ間違えると死に結び付くような危険な仕事まで様々です.死に至らなくても社会復帰出来ないような大きな事故に巻き込まれる可能性もありますし,事務的な仕事でも過労死してしまう人もいるでしょう.それらを,事が起こらない前に未然に防ぐのが産業医の腕の見せどころと言えます.日本で交通事故で死亡する人が年間約1万人であるのに対し,労働が原因で死亡する労働者は年間約2000人ということですので,意外と多いのではないでしょうか.

 しかしながら,すべての労働者がこの産業医から恩恵を受けているわけではありません.なぜなら我が国の労働者の6割は,産業医を必要としない50人未満の事業所で働いており,産業医を必要とする50人以上の事業所で働いている労働者は,たったの4割だけだからです.たったのそれだけ?と思われるかもしれませんが,これにはカラクリがあります.労働者50人以上というのは,職場ごとの人数だからです.例えば,3K株式会社という大企業の全従業員数が10万人だとしても鹿児島支店の従業員が30人ならば,そこには産業医は選任されなくてもよいのです.それが死ぬような危険な仕事であったとしてもです.

 今後,我が国の制度上の問題ですが,すべての労働者が労災や職業病から守られるべきだと考えます.少子化,高齢化により労働人口が減少している現代,労災で労働者を失うのは事業所の損失だけではなく,国益にも響いてくるかもしれないからです.しかしながら,産業医はまだまだ不足しているのが現状です.また,名ばかりの産業医(給料だけもらって何もしない)がいても,”意味ナーイジャン”ですし,産業医から指導される事を迷惑と考える事業主がいても同様です.東海村の動燃の事故ですが,産業医がしっかりと職場巡視をして,マニュアル通りに作業が行われているかを確認していたならば,事故は未然に防げたのでは……?と,思ってしまいました.

 今回の集中講座でわかった事.産業医のプロになるには,10年かけて手術が上手くなるのと同じくらい大変だということでした.

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