妊婦の風疹感染について
病因
風疹は,通常小児期に風疹ウイルスが感染して終生免疫となる軽症発疹性疾患ですが,妊婦が妊娠初期に初感染すると胎児奇形を引き起こします.胎児感染は小児や成人の一過性感染とは異なり,器官形成期では持続感染が成立し,感染細胞での低形成や発育障害のため奇形や障害となります.
病態
風疹ウイルスが上気道に飛沫感染すると局所リンパ節で増殖した後,全身ウイルス血症を生じるため,感染から約2〜3週間の潜伏期間をおいて発症します.ウイルス血症は発疹出現数日前からすでに生じており,感染源となります.発疹出現後ウイルスは急速に消失します.
症状
主な症状は発疹,リンパ節腫脹,発熱です.
発疹は3mm程度の赤色斑丘疹で,顔面から頚部,躯幹,さらに四肢へと広がります.典型的には第3病日にはほとんど消退するので「3日はしか」と称されます.リンパ節腫脹は後頭部,耳後部,顎下部,項部などが有痛性に腫脹します.発疹出現7日前頃から現われ,発疹時に顕著となり,約1ヶ月で消退します.
発熱は発疹とともに出現し,時に高熱ともなりますが,3日以上となることは少ないです.成人では症状が出やすいですが,程度は種々で,10〜15%は症状がでない感染もあります.
診断
血液検査を2回以上行い,風疹の抗体価が数週間で上昇していることを確認します.
先天性風疹症候群
先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome,CRS)の典型的症状は白内障,難聴,心奇形です.一般に妊娠早期の感染例ほどCRS発生率は高く重症ですが,CRS発症は妊娠5ヶ月までです.心疾患は妊娠3ヶ月以降の感染ではまれとなり,妊娠4,5ヶ月では難聴や網膜症などの障害のみとなります.
疫学と予防
風疹は5年ごとの周期で流行を繰り返してきましたが,ワクチン接種により大流行は消失しつつあります.しかし,患者発生は毎年あり,局所的に流行となっているために,常に感染の可能性はあると考えたほうがよいでしょう.日本では1977年から女子中学生へのワクチン接種により,ほぼ95%の抗体保有率がありましたが,1994年の接種法改正後は中学生への接種率が激減したため,1982年から1987年生まれの女子の抗体保有率は50〜90%と低いです.抗体検査は妊娠して初めて行うことがほとんどであるので,出来たら妊娠する前に抗体検査を行い,陰性であれば抗体を獲得させる必要があります.もし妊娠した後に抗体が無いことが判明した場合は,(妊娠中にはワクチン接種が出来ないため)風疹とわかっている人には近づかないようにするといったことぐらいしか方法がありません.