不妊の原因・検査・治療


不妊症とは

 妊娠を望み2年以上夫婦生活を営んでいても妊娠に恵まれない場合を不妊症と呼びます.避妊しなければ2年以内に約90%の方が妊娠しますから,約10%の方が不妊症ということになります.
 女性は30歳を越えると毎年3.5%ずつ妊孕性が低下すると考えれています.35歳では25歳の女性に比べ生児を得る機会は半分になります.また,結婚年齢が高くなると不妊症の頻度が高くなりますし妊娠したとしても,年齢とともに流産の頻度も増加します.20歳未満の女性では流産率は12%ですが,40歳を越えると26%という報告があります.これは加齢とともに胎児の染色体異常の頻度が増加するためと考えられています.
 近年,晩婚化が進んでおりますので,高齢(35歳以上)の方は2年も待たずに早めに検査を受けた方が良いと思われます.

不妊の原因

 精子が射精されてから妊娠に至るまでには,さまざまなハードルをすべて越えなければなりません.つまり,それらのハードルのうちの1つにでも引っ掛かると妊娠に至りません.

<不妊となる状態>
1)腟内に十分な運動精子が射精されない場合
    ↓
2)精子が子宮頚管内へ進入しない場合
    ↓
3)精子が子宮腔内,卵管の中を遊泳出来ず,腹腔側の出口に達しない場合
    ↓
4)卵巣内で卵胞が順調に育たない場合
    ↓
5)卵胞の破裂(排卵)が起こらない場合
    ↓
6)排卵後に残った卵胞の細胞から正常な黄体が形成されない場合
    ↓
7)卵子が卵管の口に吸い込まれない場合
    ↓
8)卵子と精子と融合しない場合
    ↓
9)受精卵(胚)が順調に分割しない場合
    ↓
10)胚が子宮腔内に運ばれない場合
    ↓
11)胚が子宮内膜に着床しない場合

 これらをまとめると以下のようになります.
1.排卵障害
2.卵管性不妊
3.子宮性不妊症
4.免疫性不妊
5.子宮内膜症
6.男性不妊症
7.原因不明不妊

 大きく分けると上記のようになりますが,不妊の原因は1つとは限らず,同時に複数の原因を有する症例も多く,各病態の種類や程度も多種多様です.また,特に男性側の要因の存在は全不妊患者の50%を占め,女性側だけの検査,治療で済む問題ではありません.したがって,ご主人の協力なくして検査や治療方針をたてることは困難です.たとえどちらの原因が優先していても,夫婦がともに協力することが大切です.

主な不妊検査

 不妊の原因を見つけるため,以下のような検査をいたします.
1.基礎体温表:排卵の有無や排卵日がわかります.
 器具:微細な温度変化を測定できる婦人体温計を用います.デジタルの婦人体温計も市販されています.

 測定法:朝,目が覚めたら布団から出る前に舌下体温を測定します.体を動かし始める前の体温測定が重要で,必ずしも同一時刻である必要はありません.

 体温表作成:基礎体温表(薬局や病院に置いております)に測定値を記載し折れ線グラフにします.

 排卵の有無
  一相性:基礎体温が一相性の場合には,排卵がないことが考えられます.
  二相性:基礎体温が低温相と高温相の二相性を示し,両相の温度差が0.3℃以上であれば一般的には排卵があると考えてよいです.

 排卵日の推定:個人差がありますが,低温相最終日と高温相初日の間に集中しています.

 黄体機能の評価:高温相が10日未満のときに黄体機能不全と診断されます.受精卵が着床する場所である子宮内膜の環境が悪い可能性があります.

 妊娠:基礎体温高温相が約15日以上持続している場合には妊娠を疑いますが,その確定は尿の妊娠反応で行われます.


2.精液検査:精液の量,精子の数,運動率など,異常がないかを調べます.
 1回射精しますと精子濃度,運動率に影響がでますので,精液検査の前には4〜7日の禁欲期間が必要です.採取の方法は用手法(マスターベーション)で行いますが,採取後3時間程度で検査できるようであれば自宅で採取してから持参していただいて結構です.採取容器は専用の物が当院に準備してあります.遠方で持参するのに時間がかかるようであれば,当院の採精室(プライバシーが保て,エアコン,エッチビデオ完備の専用の部屋)で採取していただいても良いです.

精液検査の正常値(WHOマニュアル)
精液量2.0ml以上
精子濃度2000万以上/ml
総精子数4000万以上/射出精子
精子運動率前進運動精子50%以上
精子正常形態率30%以上
精子生存率75%以上

精液異常の種類(WHOマニュアル)
精子減少症(乏精子症)精子濃度2000万以下/ml
精子無力症精子運動率50%未満
奇形精子症正常形態精子30%未満
無精子症精子が存在しない
無精液症精液量が0


3.卵管疎通性検査
 卵管は単に卵および精子が通過するストローの様な管というだけではなく,卵管采(UFOキャッチャーのようなもの)による卵のキャッチ,受精の場の提供,受精卵の保持ならびに発育促進,受精卵の輸送といった妊娠成立過程において非常に重要な機能を持っています.このように多様な機能を持つ卵管の異常による卵管性不妊症は頻度が高く,そのスクリーニング検査は不妊症の診断に重要な役割を担っています.卵管因子のスクリーニング検査は,その通過性を検討する卵管疎通性検査法である通気,通水,子宮卵管造影法が一般的に行われています.
卵管通気法:子宮を通して卵管の中に空気(CO2)を注入して疎通性を調べます.
卵管通水法:子宮を通して卵管の中に水(生理食塩水)を注入して疎通性を調べます.
子宮卵管造影法:子宮口から子宮,卵管に造影剤を注入してX線撮影を行い,子宮,卵管の形態および卵管の疎通性を知ると同時に,骨盤内の癒着の状態の評価も行います.

4.超音波検査
 婦人科領域の超音波検査法には経腟法(腟を通して見る超音波)と経腹法(お腹から見る超音波)の2種類があります.経腟法では経腹法に比べ,至近距離から子宮,卵巣の観察が可能となるため,より細かく鮮明に画像を得ることが出来ます.
 子宮筋腫や卵巣腫瘍の有無,子宮内膜の厚さや卵胞径の計測,排卵日の予測,排卵の確認などに用いられます.

5.性交後検査
 排卵日頃性交し,来院していただき頚管粘液中に精子が進入したことを確かめる検査です.いかにたくさんの運動性のよい精子が腟内に射精されても,子宮の中に進入出来なければ妊娠は望めません.また,精子の進入が認められても粘液中で精子の運動性が悪い場合があります.難治性不妊の一部の女性は体内に,精子と結合しその働きを障害する抗精子抗体という特別な物質を保有していることがあり,これを免疫性不妊といいますが,本症の可能性のスクリーニングとしても有効です.

6.子宮内膜検査

7.内分泌機能検査
 血液検査で,妊娠に必要な各ホルモンの値を調べます.
8.子宮鏡検査
 子宮の内部を観察し,着床の妨げとなるポリープや筋腫がないかを調べます.直径約3mm程度の内視鏡ですので痛くも痒くもありません.外来で行える検査です.

不妊治療

一般不妊治療の目的と方法
1)良好精子を卵管へ送ること→人工授精
2)良好な卵胞を育てること→排卵誘発剤(内服,注射)
3)排卵と性交のタイミングの指導→基礎体温,超音波卵胞測定,尿検査
4)精子と卵子の出会いの確立を上げること→排卵誘発剤+人工授精
5)良好な黄体機能を維持すること→HCG療法,黄体ホルモン療法
6)着床の障害となることを取り除くこと→子宮内膜ポリープや子宮筋腫の手術
7)卵子や精子の捕捉や移送の障害を取り除くこと→卵管形成術

不妊治療の手順
6ヶ月間
  ↓
不妊症についての解説,検査,治療の説明
不妊一般検査
性交のタイミング指導
6ヶ月間
  ↓
薬物療法による排卵誘発と黄体機能不全の是正
クロミフェン療法:経口の排卵誘発剤で排卵障害や黄体機能不全症に使用
ブロモクリプチン療法:高プロラクチン血症に伴う排卵障害に使用
黄体ホルモン療法:黄体機能の維持
HCG療法:排卵の促進,黄体賦活
6ヶ月〜1年間
  ↓
排卵誘発:HMG-HCG療法(注射による排卵誘発剤)
人工授精:洗浄濃縮精子による人工授精
一般不妊治療で2年以上妊娠しない場合は体外受精-胚移植

 一通りの検査によって原因が判明すれば,それに対する治療を初めから行っていきます.明らかな原因がない場合でも上記のように,ある一定の期間毎に治療内容をステップアップしていきます.同じ治療を繰り返しても,妊娠という結果が得られなければ,時間だけが過ぎていくからです.
 ただし治療内容によっては経済的負担の大きなものや”自然”でない方法もあるため,どの段階まで治療を行うか,いつまで治療を行うか,を医師を交え夫婦間でよく話し合う必要があります.

保険適応外治療

人工授精:前述のように,精子の数が少ない乏精子症,精子の運動率が悪い精子無力症など精子に異常がある場合が主な適応となります.精液と培養液を混合し遠心分離することによって,精子のみを試験管の下層に集め0.3mlほどに濃縮された精子を注射器で子宮内腔に注入します.外来で出来る治療です.
体外受精:夫婦間で,これ以外の医療行為によっては妊娠成立の見込みがないと判断されるものについてのみ行います.
顕微授精:体外受精で受精しない場合や,精子が数えるほどしかいない場合に行います.

保険適応外治療の費用

人工授精:7,000円
体外受精:45,000円
*排卵誘発剤にかかる費用は,使用量の個人差が大きいため,別料金としています.
胚移植:5,000円
受精卵凍結保存:10,000円
受精卵融解:20,000円

顕微授精

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