日本人の健康問題について

 社会構造の変化,医療の進歩によって,日本人の健康課題も次第に変化しています.

■日本人の疾病傾向

 第二次大戦後,日本人の死因の上位を占めていた結核や腸炎などの感染症は激減しました.その理由は
1.医療の発達 2.栄養の向上 3.衛生環境の改善
などです.また同時に乳児死亡率も低下し,そのため日本人の平均寿命は飛躍的に伸び,世界的にも長寿国となりました.

 これら感染症にかわって,がんや脳血管疾患・心臓病などによる死亡が増加し,現在の日本人の10人に6人はこれらの病気によって亡くなるというように疾病傾向は戦前とは大きく異なってきています.これら疾患は成人になると発病することが多いことから成人病とも呼ばれてきましたが,その発生原因は生活習慣によるところが大きいことから,『生活習慣病』と呼ばれるようになりました.

日本人の死因順位の変化

日本人の死因順位(1950年)
1位 結核
2位 脳血管疾患
3位 肺炎・気管支炎

日本人の死因順位(1996年)
1位 悪性新生物
2位 脳血管疾患
3位 心臓疾患

現在,日本人の6割は上記の疾患のどれかで死んでいます.

■高齢社会の到来

 現代の日本人の平均寿命は,男性は約76歳,女性は約83歳に達し,世界最長寿国となっています.西暦2025年には65歳以上の国民は全体の25%に達すると推定され,かつてない高齢社会がこれから到来します.

 しかし,長生きはできるようになったものの,高齢者の増加とともに何らかの健康問題を抱える国民の数は増加し,「無病息災」から「有病息災」の時代ともなっています.また近年は,500万人とも1,000万人とも推定される骨粗鬆症(骨がスカスカになり骨折しやすくなる病気)の増加,脳卒中や骨折による「寝たきり」の人達の数も増加し,保険制度や高齢者介護の問題も新たな課題となっています.

■国民医療費の増大

 1994年度の国民医療費の総額は約26兆円近くに達し,国家総予算の約3分の1にも相当する額となっています.国民医療費は増加の一途をたどっており,国民一人当たりの医療費も20万円を越えています.対国民所得の割合でも約7%に達し,医療費の増大は,日本の重大な課題の一つともなっています.

■今日的健康問題

 高度経済成長とともに,地球環境における自然破壊が進み,生活周辺の化学物質は多種多様に増加し,環境医学的側面からみた健康問題が近年は出現してきています.そのような変化とともに,アレルギー性疾患に代表されるような現代病ともいうべき疾病や健康異常が増加しています.また,社会構造や労働形態の変化にともなって,心身症をはじめとする精神・神経的疾患や健康異常も増大し,これらも新たな今日的健康問題ともなっています.

 循環器系疾患や悪性新生物の原因ともなる喫煙は,過去より減少しているとはいえ,全体では3分の1を越え,諸外国と比べても決して少なくありません.今後に残された健康問題の一つです.

 また,わが国はまだその蔓延が顕著ではありませんが,世界的にはAIDS(エイズ)患者は現在1,000万人を越え,感染者の数は3,000万人を越えています.今後も増加すると予測され,重大な医療問題の一つとなっています.

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