妊娠中の痔について

 まず,あなたが痔と思っている肛門の病気が,本当に痔かどうか診てもらう必要があります.妊娠中は,大きくなった子宮の影響で肛門や外陰部に下方への圧力がかかります.そのため,肛門の内側の粘膜が一部外に出てくることがあります.これを脱肛と呼びます.脱肛は出産の時に最も悪化します(赤ちゃんを押し出すための力が肛門にも加わるため)が,通常は出産後自然に良くなります.妊娠中は悪化させないように注意することが大切です.

1. 脱肛の病態:

 肛門管の粘膜が外反して肛門外に脱出した状態で,基本的に感染・炎症はありません.ただし,脱出した部分の下着との接触刺激や,血流障害による疼痛などは生じます.二次的に炎症を起こした場合は疼痛が強くなります.

2. 脱肛の原因:

 妊娠中は前屈姿勢や動作などで腹圧が高くなりやすく,肛門外方への圧力が強まる機会が多いこと,便秘になりやすく,硬い便の排出のために強い腹圧をかけることなどが原因です.血流のうっ滞が状況をさらに悪化させている場合もあります.

3. 脱肛への対処法:

 1)便通の調整,便の軟化,排便時の努責の回避が基本です.
 2)日常生活において,肛門部に外方への力が加わる動作,姿勢を避け,またそのような姿勢を長くとらないようにすします.
 3)局所の感染を防ぐ意味で,肛門周囲の清潔を保ちます.
 4)疼痛がある場合や二次的な炎症がある時は,痔の治療に用いられる抗炎症坐薬や軟膏などを使用します.

4. 痔の種類と病態:

 痔には,1)痔核,2)裂肛,3)肛門周囲膿瘍,4)痔瘻,があります.

 1)痔核:肛門管の粘膜下や皮下の直腸静脈叢が静脈瘤状に拡張したもので,歯状腺よりも口側にできたものを内痔核,外側にできたものを外痔核と呼びます.内痔核の主要症状は脱出と出血であり疼痛は少ないです.外痔核は血栓を形成をして有痛性の腫瘤となり,激しい痛みを伴う状態となることがあります(血栓性外痔核).

 2)裂肛:肛門管皮膚の表層に縦走する裂創であり,それに炎症が加わり慢性化すると肛門潰瘍となります.硬い便を排出する時に肛門管を過伸展させ,上皮の損傷を招くことが主な原因です.排便時の疼痛と出血が特徴であり,疼痛は排便後も持続します.

 3)肛門周囲膿瘍:肛門腺組織に細菌感染による膿瘍を形成したものです.炎症が周囲組織に波及すれば直腸周囲膿瘍となります.肛門陰窩や肛門管の粘膜・皮膚の欠損部分からの細菌感染が原因です.

 4.)痔瘻:肛門周囲膿瘍は,自潰し排膿されたり,切開排膿により急性炎症が消退した後も感染を繰り返すことが多いです.痔瘻とは,肛門陰窩の膿瘍原発部と排膿部を結ぶ炎症性瘻管が形成されたものです.

5. 痔の治療:

 炎症の軽い痔核や急性の裂肛の場合は,便通の調整などの処置と薬物療法(坐薬,軟膏を肛門内に投与する)で対処します.血栓性外痔核や慢性化肛門潰瘍,肛門周囲膿瘍,痔瘻は,手術療法などの外科的処置が必要な場合が多く,専門医に診察してもらいます.

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