妊婦のインフルエンザワクチン接種について

 妊婦さんから「妊婦はインフルエンザワクチンの予防接種を受けることができるでしょうか?」という質問を時々受けます.

ワクチンの説明書を見ると
「妊娠中の接種に関する安全性は確立していないので,妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には接種しないことを原則とし,予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合のみ接種すること」

と書いてあります. これは妊婦に投与して何か問題が生じても製薬会社としては一切責任はとりません,という責任逃れのための記載であり,ほとんどの薬の説明書に(いわば決まり文句として)書かれてあります.ですから説明書に従えば妊婦に投与出来る薬はほとんど無いことになりますが,実際的には医師の経験と責任において安全であろうと言われている薬を投与しています.

 インフルエンザワクチンの予防接種に関しても,妊娠中にインフルエンザにかかって40度以上の発熱が何日も続くことを考えたら,予防接種した方が良いであろうという話しはありました.しかし明確な回答が無いためこれまで躊躇されてきました.

 これに対して,国立感染症研究所が明確な回答を示しておりますので,抜粋してお示し致します.

 インフルエンザワクチンは病原性をなくした不活化ワクチンであり,胎児に影響を与えるとは考えられていないため妊婦は接種不適当者には含まれていません.しかし,妊婦又は妊娠している可能性の高い女性に対するインフルエンザワクチンの接種に関する,国内での調査成績がまだ十分に集積されていないので,現段階ではワクチン接種によって得られる利益が,不明の危険性を上回るという認識が得られた場合にワクチンを接種する,ということが適切ではないかと考えます.妊娠初期はいろいろな理由で流産する可能性の高い時期なので,一般的に予防接種は避けた方がよいと考えられます.米国の報告では,もしワクチンを受けるならば,妊娠のごく初期(妊娠13週前後まで)を除き,インフルエンザシーズンの前に行うのが望ましい,とされています.現在のところ,妊婦にワクチンを行った場合に生ずる特別な副反応の報告は無く,また,妊娠初期にインフルエンザワクチンを接種しても胎児に異常の出る確立が高くなったというデータも無いことから,予防接種直後に妊娠が判明しても人工妊娠中絶をする必要はないと考えられております.

国立感染症研究所感染症情報センター インフルエンザQ&A 平成15年度版より

もどる