きょうだいのちから

きょうだいができた

 初めての子どもは,親の愛情を一身に受けて育っていきます.親の目がいつも一人に注がれているのですから,子どもにとって,これほど満足なことはありません.
 ところがそこに二人めの赤ちゃんの誕生となると,上の子どもにとっては一大事です.
 ひとり占めしていたお母さんが,目の前で知らない赤ちゃんにおっぱいを飲ませたり,おむつをとりかえたり,何となく自分から離れていく感じです.その上お父さんまでが,赤ちゃんをあやしたりするのですから,「これは一体どうしたのだろう」と驚いてしまいます.
 そこで,二人めの赤ちゃんを妊娠,出産したときには,上の子の心情を,できるだけくみとってあげてください.時には今まで以上に優しく接してあげることも必要でしょう.親のちょっとした気配りが,何よりも子どもに安心感を与えることになるのです.そのうちにだんだんと,上の子は赤ちゃんが好きになり,いつの間にかお兄ちゃん,お姉ちゃんらしくなって,仲よしきょうだいが誕生していきます.

人間に広がりを与える

 2〜3才ころまでの子どもは,どうしても自分中心ですから,自分の気がすむように遊んだり食べたりします.しかしきょうだいがいると,いつも好き嫌いばかり言ってはいられません.心ならずも何でもしたり,何でも食べたりするようになっていきます.
 また,きょうだいが多いほど,お互いの遊びをいつも身近に見ていて,遠慮なくそれにかかわれますから,見習うことも多く,興味の対象も自然にふくらみます.そのため,生活体験が豊富になり,行動が広がっていきます.
 こうして養われる人間としての広がりは,豊かな心をつくることにつながっていくのです.

子ども同士のかかわりはゆとりある目で

 おとなが子どもと遊ぶときには,たいてい子どもの欲求にそうような相手の仕方をします.ですから子どもは,お父さんやお母さんが遊んでくれると嬉しくて,ご機嫌です.
 どころが子ども同士の遊びは,お互いが自分中心なので何かとぶつかりあい,けんかになります.取りっこをしたり,たたいたり,投げ出したり…….
 きょうだいともなればいつも一緒ですから,なおさらです.お母さんを困らせることも多いでしょう.しかし子どもにとっては,けんかも自己主張をしたり,気持ちを思いきり発散させたりできる,遊びの一つと考えることもできます.
 そしてそのようないろいろなぶつかりあいを通してこそ,子どもはたくさんのことを学び,自分の要求の限界を知って,ほどほどのけんかができるようになるのです.

子どもそれぞれが全力投球

 きょうだいには,当然年齢差がありますが,生活を共にしているので遠慮がありません.
 遊びでは,下の子は上の子のしていることに興味を誘発され,何でもその仲間入りをしようとします.反対に上の子は,うるさがって払いのけようとしたりするでしょう.遊びを通して背のびをしたり,掃除をしたり…….その繰り返しが,お互いにどうしたらよいかを考えさせ,相手との気持ちの調整を工夫させることになります.
 きょうだいがいると,毎日のさまざまなかかわりの場で,子ども一人一人が,全力投球で力をだしきっていくために,そこで身につけたものは,子どもの心に大きな成長をもたらすことになるのです.

先輩……後輩

 子どもは生まれながらに,無限の力を持っています.しかしそれが引き出されていくためには,ふだんの生活のなかで,人とのふれあいと,いろいろな体験の積み重ねが必要です.
 身近にきょうだいがいるということは,いつでも「子どもの世界」を持つことができるということで,それは叉,「おとなから開放された時」でもあります.
 上の子は,下の子にとって何かにつけて良い先輩であり,身近なモデルですし,上の子にとって弟や妹は,いとおしみ,いたわるという心を引き出してくれる,またとない存在です.
 実は,お兄ちゃんらしく,お姉ちゃんらしくなるということは,親の口で教えられるよりも,下の子の存在が引き出していることなのです.

自分を抑える

 子どもが一人だけだと,親は,知らず知らず子どもの要求に負けてしまっていることがあります.それはおとなと子どもという関係での,当然のことともいえるでしょう.しかし子どもは,成長していく段階で,「世の中はいつもわがままが通るものではない,自分を抑えることも必要だ」ということを,覚えていかなければなりません.集団に入ったとき,お友達と仲よくするために基本となることだからです.
 「自分の気持ちを抑える」ということは,言葉で教えてもなかなかできるものではありません.しかしきょうだいがいると,絶えずいろいろなかかわり方を体得しますから,時には気持ちをグッと抑えなければならないことも,年齢に応じて,自然に身につけるようになります.上の子,下の子それぞれが体験する,相手への,さまざまな感情と同時につくられる「がまんする心」は,やがて,集団のなかでうまくやっていける力となっていきます.

思いやりの心

 思いやりの心も,わがままを抑える心と同じように,言って聞かせれば育つというものではありません.また,自分を愛し大切にしてくれる親への愛情が育まれたからといって,必ずしも,他人への思いやりの心も芽生えてくる,というものでもないでしょう.
 考えや主張が異なる相手へも,その立場に立った思いやりの心が育っていくためには,温かいきょうだいのかかわりとうい,幼い体験が大きな力になるのです.
 いまけんかをしているかと思えば,すぐに仲よくなり,仲よく遊んでいるかと思えばまたけんか…….
 こんなきょうだいの関係がもつ,思いやりの心を育てる力に,もっと注目してみてください.

育自をしながら

 子どもを育てることはあなた自身を育てること.育児の”児”は,自分の”自”と置きかえることもできる(育自)といわれます.
 お母さんは,どんなに眠くても夜中に授乳もするし,赤ちゃんを抱いたうえに,大きな荷物を持つこともあるでしょう.育児をすると,赤ちゃんがいなかったときに比べて,自分を抑えたり,ときには強く積極的に行動しなければならないことも,多くなるものです.
 それはやさしい女性から,たくましさをも備えた母親へと,大きく変わっていくことで,言うまでもなく,子どもの幸せに通じることでもあります.
 第二子からの子育ては,言わば一度大きな変身を遂げたあとですから,初めての子育てに比べて,子どもの成長を見守る余裕もでてきます.
 お子さんに,さまざまな体験と心の豊かさをもたらすきょうだいの力,それは,お母さんの力を何倍にも育てつつ,子どもの心をも育てる,ふしぎな力なのです.

提唱者
(社)日本母性保護産婦人科医会
(財)母性衛生研究会

もどる