妊娠とわかる前に,お酒を飲んでいましたが大丈夫でしょうか?

1. 胎児アルコール症候群(fetal alchohol syndrome:FAS):

 1973年Jonesらが,慢性アルコール依存症の妊婦から障害児が生まれたことを報告し,これをFASと命名しました.その後,1980年にFetal Alchohol Study GroupがFASの診断基準を作成しました.FASとは,出生前後の成長障害,顔面異常,中枢神経障害の3項目をすべて満たした場合に診断されます.

2. 妊婦の飲酒:

 母体内に摂取されたアルコールは容易に胎盤を通過しますが,胎児にはアルコール代謝能力がほとんどないため,母体の血中アルコール濃度がそのまま胎児に影響を及ぼす可能性があります.

3. アルコール摂取量,時期とFASとの関係:

 アルコールの摂取量の安全域はまだ確立されていません.大量飲酒(アルコールとして1日2.2g/kg以上常用,ビールなら毎日2000ml以上)によりFASが起こる確立は高くなると考えられますが,それ以下でも起こることが知られています.また器官形成期なら形態異常を,妊娠中期以降なら成長障害を起こしやすく,妊娠のどの時期のアルコール飲用もFASを起こし得る可能性があります.したがって,妊娠中はできるだけアルコール飲用は控えるべきです.しかし,妊娠に気付く前に飲酒があったとしても,アルコール依存症になるほどでない限りFASの発生率は低く,このことにより人工妊娠中絶まで考慮する必要はないものと考えられます.

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