性病その4:クラミジア(女性)

はじめに

 クラミジア感染症は,現在最も患者の多い性感染症です.しかしながら,その感染の初期にはきわめて症状に乏しく,臨床的な発症までには長い経過を必要とし,さらに致命的な結果を招くことはありません.したがって,患者が多いにもかかわらず,この疾患が社会的に認識されにくい理由がここにあります.しかし,女性のクラミジア感染症は,広い範囲でさまざまな病態が存在し,決して見過ごしにできない疾患です.

 性行為により感染したクラミジアは,子宮頚管上皮細胞内で増殖したのち,細胞を破壊し頚管管腔内へ放出されます.放出されたクラミジアは,次々と隣接細胞へと感染・増殖を繰り返しながら上行性に,卵管炎,さらに骨盤腹膜炎を引き起こすものと思われます.骨盤腔へ波及したクラミジア感染は,卵管閉塞・卵管周囲癒着による卵管性不妊症に至ることはよく知られているます.さらに感染が,上腹部に及ぶと劇症の急性腹症を呈する肝周囲炎となります.妊婦の場合クラミジア感染は,妊婦に至る以前より感染が継続していることが多く,大部分の妊婦は無症状です.妊娠初期にクラミジア感染が存在すると,絨毛羊膜炎を発症し流早産の原因となります.また流産に至らなくとも無治療のまま分娩に臨めば産道感染による新生児クラミジア結膜炎・肺炎発症の危険性もあります.

子宮頚管炎

 クラミジア性子宮頚管炎の症状は,帯下と不正性器出血です.感染が子宮頚管にとどまっている段階では下腹部痛などの疼痛を訴えることは少ないです.帯下の視診所見は,水っぽい「サラッ」とした白色の漿液性帯下です.他細菌との混合感染を除いて,膿汁の混じった黄色の帯下を示すことは少ないです.不正性器出血は,子宮の入口からの出血であり,ときには頚管内より頚管分泌物に混じった少量の持続性の出血をみることもあります.

子宮付属器炎

 クラミジア感染後,比較的早い時期に発症することが多いです.症状は軽い下腹部痛であり,子宮頚管炎の症状を伴うことが多いです.

骨盤腹膜炎・肝周囲炎

 感染が骨盤腔へ波及すると下腹部痛,性交痛などを訴えるようになります.内診所見でも子宮に痛みを認めます.重症の場合,強い下腹部痛を認めるようになります.

 感染が骨盤腔よりさらに上腹部に波及すると肝周囲炎となります.本症は,激しい上腹部痛を訴えるため,しばしば救急外来へ搬送され,急性胆嚢炎などの上部消化器系の疾患と間違えられることがあります.

不妊症

 クラミジア感染は,卵管狭窄症,卵管閉塞症などを発症します.さらに卵管周囲癒着なども起こしやすく,妊孕性を著しく障害します.

 不妊症患者で腹腔内視鏡下に骨盤所見を検討したところ,子宮頚管でのクラミジア抗原(現在感染している)の有無にかかわらず抗体陽性者(過去に感染したことがある人)の80%に卵管周囲の癒着を認め,60%に卵管閉塞がみられたという報告があります.

妊婦

 妊婦のクラミジア感染は,妊娠成立前より感染は持続し,自覚症状に乏しいことが多いです.しかし,流産の原因となったり,分娩時の産道感染により新生児へのクラミジア感染が問題となります.

治療

 クラミジアと淋菌が混合感染している可能性を考慮しながら抗菌化学療法を行なう必要があります.とくに淋菌では3日間程度の短期療法で治癒しますが,クラミジアは増殖サイクルが長いために7〜14日間の治療期間が必要となります.

おわりに

 不妊の患者さんでも妊婦さんでも同じですが,ご自分の身に覚えがなくても,ご主人が性風俗店からクラミジアを持ち帰り,知らないうちに自分に感染している場合もありますのでご注意を.

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