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■「共に学び高め合う生徒を育てる学級づくり」(9)

            川端 成實(鹿児島市立西陵中学校)
            k-narumi@po.synapse.ne.jp

◆「5 生活班を単位とした・給食活動・作業活動」◆

 前回は、班日誌を利用して

(1)班や学級の問題に目を向けさせ、他とのかかわりの在り方を学ぶ機会とする
(2)互いの信頼関係、協力態勢構築の機会とする
(3)あわせて、広くものの見方考え方を鍛え、生き方を高める

取り組みをお話しました。学級にある身近な課題を解決していく中から、子供たちに力をつけていく。そう考えると学級の生活の一つ一つに子供たちを成長させるための材料が転がっていることになります。何を成長の材料としていくのか、それは、担任が学級活動のどこに柱をおいて、学級づくりをしていくのかとつながっています。

 私自身は、以前お話したように
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 1 班長選挙と班長による生活班の編成
    〜生徒相互の信頼関係を柱とした生活班〜  
 2 リーダー育成の場の設定
 3 生活班を単位とした日直活動
 4 班日誌の利用
 5 生活班を単位とした・給食活動・作業活動
 6 「帰りの会」の工夫(位置づけと会順の工夫)
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 を学級作りの6つの柱として、おいています。

 これまでの8回のお話の中で、1、3、4、6について述べさせてもらいました。そこで、今回は子どもたちの共に学び高めあう力が大きく現れる「5 生活班を単位とした・給食活動・作業活動」についてお話したいと思います。

 学級担任の、日々の指導の中で最も労力のいるものとしてこの給食指導と作業指導があるのではないでしょうか。また、手を抜こうと思えば限り無く手を抜ける分野の指導でもあります。

 「人間的な成長にとって大変重要な位置を占める活動」として、この給食と作業をとらえるか、それとも、たんなる「なくても良い付属的な活動」ととらえるか、それで、担任の働きかけも全く別物となります。担任が、これを前者としてとらえ、学級全体でその在り方を考え、そこを通して学び合いや高め合いを仕掛けていく時、大きな教育的価値を生み出すことになるのです。いわば、担任としての「勝負の場」となるのです。
 事実、学級崩壊をしてしまった学級の多くが、まずは、この奉仕的作業である給食と作業がうまく機能しなくなっています。それは、繰り返しになりますが,生徒にとって給食活動と作業活動が「奉仕的活動」であるからです。そして,「奉仕的活動」であるということは生徒にとって「自分でなくてもだれかがしてくれるもの」とか「めんどくさいもの」というとらえ方になるからです。
 
 ところが、案外この給食や作業は、学年当初の「名簿順」による当番を、ローテーションで行なっているところが多いのではないでしょうか。その中では、子ども同士の偶然による義務的なつながりしかなく、そういうつながりでは、自分たちでより良い学級を作っていくという視点は弱くなります。結果、奉仕的な活動に対して、担任一人が孤軍奮闘する結果となりがちです。
 それでも「教師は背中で教える」とだれもしなくなった教室作業を、担任が黙々と一人でやっている姿を目にすることもあります。以前は、その担任の姿に心打たれて行動を起こす生徒も多く見られたようです。が、ドライな生徒が増え、「先生」に対する見方が変化してきている今は、どうもそれだけでは通用しなくなってきているようです。
 そもそも、生徒にさせて「なんぼ」なのが教師。その意味からは、授業参加ともつながる多きな課題ゆえに、ここが崩れると、授業へも影響が出てくるのです。

 そこで、給食活動や作業活動に、生活班を当てていくことで給食や作業を「学級づくり」の大きな柱としていくのです。給食、作業当番のメンバーが、学級の班づくりの中で「この人を信頼して選んだ」という信頼関係の中で結ばれていることを生かして、ひとり一人の活動に責任感を生むものへとつながげていくのです。

 私の場合は、具体的に次のように当番を決めています。
<給食当番>
1 生活班が決まった段階で一班から六班まで一週間交代で当番を行なう。
2 当番における係について、班会議を開き(通常一番最初の帰りの会)、男女差や力差を考慮 させながら決めさせる。
3 準備遅れ等、当番内での諸問題が生じた場合、班長を中心に帰りの会での話し合いや班日誌 での紙上討論で解決を図らせる。
4 給食着については、週の終わりに当番だった班に持ち帰らせる。専門部長及び班長からその ことを呼び掛けさせる。
5 給食着忘れについては、予備の給食着を着用させ、持ってくるまで次の班の手伝いをさせ 
 る。

<作業当番>
1 生活班が決まった段階で、班長が自分で作業場所の立候補を行ない、決定する。その際、あ らかじめ校内における作業分担を学級の班の数に分けておく。
(1)自分がやりたい作業場所への立候補
(2)複数重なった場合は、自分の班はどのような作業をしたいのかや何を頑張るのかを発表さ  せ、班長会での支持が多い班に決定する。
(3)支持に破れた班は、次の機会まで今の決まった作業場所で頑張り、三週間後の最決定の場  で改めて立候補する機会を与える。
2 当番における係について、班会議を開き(通常一番最初の帰りの会)、男女差や力差を考慮 させながら決めさせる。
3 当番内の係の変更については班内での作業状況によって帰りの会等で随時考えさせる。
4 三週間後の班長会によって、作業場所を再決定する。継続もある。
5 三週間内に作業に関する問題が生じた場合は、班長を中心に帰りの会での話し合いや班日誌 での紙上討論で解決を図らせる。また、状況によっては学級全体で話し合わせる。

「卒業文集より」(Y.S.さん)
 3年の作業時間。
 私にとってこの時間はとっても想い出に残っています。
 1、2年のときの作業といえば「えー。」というのがあたりまえでした。でも、3年のときの作業は何かたのしみなものがありました。
 教室そうじのときのことが、いちばん想い出があります。床をふくのに、みんなで競争したりして、たのしく教室そうじができました。そして、床がピカピカになるほどきれいになりました。そのたびに、先生が学活のときに、ほめてくれました。その時の気持ちは、何か自分が偉い人にでもなったような気持ちでした。
 たった、15分の作業時間がなぜか、私の3年間のいちばんの想い出です。それだけ、3年の作業時間は私にとって、とってもたのしいものでした。

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■「共に学び高め合う生徒を育てる学級づくり」(10)

            川端 成實(鹿児島市立西陵中学校)
            k-narumi@po.synapse.ne.jp

◆6つの柱−その6「リーダー育成の場の設定」

「共に学び高め合う生徒を育てる学級づくり」の6つの柱の最後として、「リーダー育成の場の設定」を今回はお話したいと思います。

 お気付きの方もおられると思いますが、6つの柱である
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 1 班長選挙と班長による生活班の編成
    〜生徒相互の信頼関係を柱とした生活班〜  
 2 リーダー育成の場の設定
 3 生活班を単位とした日直活動
 4 班日誌の利用
 5 生活班を単位とした・給食活動・作業活動
 6 「帰りの会」の工夫(位置づけと会順の工夫)
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 のうちに、これまでに触れてきた「1、3、4、5、6」は、すべて、リーダーを中心に取り組んでいく活動です。つまり、学級の運営に子どもたちの決めたリーダーが大きく関わっており、そのすべてがリーダー育成の場であるといってもいいでしょう。

 つまり、学級づくりの柱はリーダーなくしては進まないのです。
 逆に言えば、リーダーをいかに育成するかとうそのものが学級づくりであると言えるのです。「共に学び高めあう生徒を育てる学級」を創り上げるためには、そういう考え方を持ち行動できるリーダーを育てることが大事なのです。

 そういう意味で、学級づくりは「リーダーづくり」であると言えると思います。担任が、どれだけの意識でリーダーを育てるか。そのリーダーも、担任の思いを理解し、ある意味担任と同じ方向性を持って発言したり、行動したりできる生徒を育てられるかにかかっていると言えるのです。

 ところが、よく「最近はリーダーになる子どもがいない」とか「うちの学級にはリーダーがいない」などという言葉をよく耳にします。確かに、ギャングエイジ集団が存在し、子ども自体が自治的な力をまだまだ持っていた時代と比較すればそれも一理あることと思います。また、現在の指導要領下において、小学校では「輪番制」といった視点のリーダーしか経験しておらず、子どもたち自身に身につけてほしい「自治的にな力」を創造していくために必要なリーダーの視点を持っている生徒が大変少ないということもまた事実です。

 けれども、そういう育ちがなくなり、ある意味リーダー性の高い子どもはへってきたかもしれませんが、学級内には必ずリーダーとなる生徒がいます。ですから「リーダーがいない」ということではなく、「リーダーを育てていない」ということになるでしょう。また、そういう育ちがなくなってきたというのであればなおさら、昔以上に「育てる」という意識がなければ「育たない」ということになるでしょう。「いない」ということではなく「育てていない」このことを強く意識して、リーダー育成に取り組むことが必要でしょう。もう一歩論を広げるならば、リーダー育成は、先を見ていけば我が国の民主政治の根幹にも通じることであり、よりよいリーダー育成はそういう意味でも欠くことができないものだと考えて臨む必要があります。

 それでは、そのリーダー育成をどんな場で行なうのか。

 リーダー育成の場といっても、その場は様々です。広くとらえるならば、学校生活のすべてがその場であり、様々な生活場面での一つ一つが、リーダー育成の重要な場と言えるでしょう。
 まずは、担任として、すべての場がリーダー育成の場となりうるのだという視点を持って臨むことが大事です。

 次に、私自身がその場として特に大事にしている場があります。それは、次の3つです。

 1 班長会
 2 帰りの会
 3 班日誌

<1 班長会>
 まず、1についてですが、これは週1回の定例の会と、その場に応じて臨時でもたれる会の2通りがあります。定例の会では、学級内での出来事の情報交換や学級内イベントの企画、問題点の解決に向けての話し合いを行ないます。また、その場に応じてもたれる会は、緊急に話し合いが必要な場合にひらかれます。
 この中では、学級で起った様々な事例について、班長として君ならどうするかという問いかけ等を通じてリーダーとしての見方や考え方を鍛えていく場を設けています。

<2 帰りの会>
 次に、帰りの会です。以前、帰りの会と学級づくりの視点については第6回でお話しました。
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【帰りの会会順】
 1 開会のあいさつ
 2 日直点検の発表
 3 日直への点検
 4 班会議
 5 班反省発表
 6 班日誌の発表
 7 各係、専門部、学級委員より
 8 先生より
 9 帰りの歌
10 閉会のあいさつ

 この会順は、それぞれの次の視点でつながっています。

(1)生徒の主体的・自治的な活動の場として
   →日直点検の発表・日直への点検・班会議
(2)学級の連帯感・所属感を培う場としての帰りの会として
   →班日誌を読む・班長より・帰りの歌
(3)自分たちの問題を解決する場、討議作りの場としての位置づけ
   →班会議・係専門部、総務より
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 この中の4番にある「班会議」についてですが、次のような会順になっています。
 1 開会のあいさつ
 2 班の努力点・各人の反省
 3 反省への意見
 4 班長より
 5 班日誌を読む
 6 明日の計画
 7 閉会のあいさつ

 このなかで、次のような点に留意しています。
(1)司会は基本的に班長がする……班のリード
(2)班や個人の反省等について「班長より」ということでまとめをさせる場を設けて、全体や個を見つめさせる視点を持たせる
(3)「班日誌を読む」では、班長が班員の日誌を音読させることで班長のリーダーシップを高める
(4)明日の計画では、忘れ物等がないように班長が声をかける

 また、帰りの会の7番目にある「各係、専門部、学級委員より」の項目では、それぞれの学級のリーダーがみんなに声を掛け、たり呼び掛けたりする場も設定してあります。

 つまり、班や学級において自分たちが決めたリーダーが、みんなの向上のために力を尽くしてくれているということ、リーダーの存在価値を、しっかりと認識させる配慮をする。また、リーダー自身に班や学級といった視点で物事見させ考えさせる場を、毎日の活動の中に置くことでリーダー性の育成を図っているのです。

<3 班日誌>
 班日誌については、7回と8回で紹介しましたが
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(1)班や学級の問題に目を向けさせ、他とのかかわりの在り方を学
 ぶ機会とする
(2)互いの信頼関係、協力態勢構築の機会とする
(3)あわせて、広くものの見方考え方を鍛え、生き方を高める
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という3つの視点で、教師がコメントを書いていくことで、リーダーへの意識を高めていきます。リーダーとしてどう関わるかだけでなく、リーダーをどう支えていくかという視点で、班長をバックアップすることも大切なリーダー育成の視点です。

 リーダー育成の場といっても、その場は様々です。広くとらえるならば、学校生活のすべてがその場であり、様々な生活場面での一つ一つが、リーダー育成の重要な場と言えるでしょう。
 しかし、ここで述べたように、学級リーダーと担任が連携して学級内の前進的なトーンをつくりだすために、つまりよりよい学級を創り上げるためには、「班長を始めとした学級リーダーをしっかり見つめる姿勢」と「彼等を育てる担任としての場づくりをすること」が必要であるのです。
 よく言われる言葉をあえてここで繰り替えさせてもらいたいのですが、「リーダーは育てることによって始めてリーダーとなる」ということなのです。
 そして、育てたリーダーが、担任が言わなくてもその意を汲み取り言葉を掛けたり行動したりできるようになった時、自治的な力を持った学級、すなわち「共に学び高めあう生徒が育つ学級」の土台ができあがるのです。