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「共に学び高め合う生徒を育てる学級づくり」(7)

            川端 成實(鹿児島市立西陵中学校)
            k-narumi@po.synapse.ne.jp

<6つの柱 その3「班日誌の利用」(1)>

 今回は、学級づくりの取り組みを通した具体的な子供の姿と教師の関わりや、変容していった子供たちの姿を、「班日誌」を中心にお話したいと思います。

 次の班日誌は、公立高校入試と卒業を間近にした一人の班長の班日誌です。ふだんは、班日誌1ページ(B5用紙の半分程度:17行)なのですが、この日は2ページにわたって書いていきました。
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【2月22日(火) 記録者(H)】
「今日から『朝勉』もはじまり、1班はいいなあと感じました。時間はバラバラでも、しっかり集まったし、真剣に取り組んでいるし、すごく良いと思いました。昨日は班日誌で、Kさんが書いてくれた通り、これからは「仕上げ」です。Kさんの勉強のしかたを真似するなり、自分で考えるなりして、これからの2週間を過ごしてはどうでしょうか?ちなみに私は、ずっと前の第3期の1班だったとき、Kさんが班日誌に書いてきてくれた勉強法を真似しました。すると、思ったより効果が出て、勉強がはかどりました。2週間いっぱいいっぱいなき持ちになりすぎないように、せめて、帰りの学活で歌をうたうときは、思いっきり歌ってストレスを発散すればいいと思います。
 そういえば、昨日から、帰りの歌の声が前より大きくなったと思います。6班の班長も喜んでいました。きっとこれは、卒業合唱の練習を始めたからだと思います。4組は、女子も男子もやるときはしっかりやっているから感心します。この前も音楽の時間も、男子がバラバラなのをKくんが「まじめにやろうよ」と声をかけてひとつにまとめていたし、私はそれを見たときとてもうれしかったです。だから、班日誌でKくんのことを紹介したいと思っていました。
 こうやって、4組はどんどん成長していっていると思います。最初は、みんな嫌がっていた班活動だって、今では班活動がないと淋しいくらいのものになっています。それに、班活動をやっていたからこそ、お互いに勉強を教え合ったり、お互いに元気づけ合ったりすることができると思います。
 こうやって考えると、すべてのことに「お互いに」という言葉が入ります。これこそ、川端先生が、ずっとおっしゃってきた「共に学び高めあう」ということだと思います。私は4組になってから「一人じゃないんだ」って考えたことが今まで何回もありました。
自分が苦しいときに、班日誌や生活の記録にそのことを書けば、先生やみんなから、答えが返ってきます。その度に、元気をもらって「また頑張ろう」という気持ちになれるし、自分もみんなが苦しいときに、助けてあげられる人になりたいと思うのです。自分はいろんな人に支えられて生きているってことも、このクラスになったから分かったことの一つだと思います。
 初めて川端先生と会った日、先生は「人」という字について話をされました。支え合って生きているなんて考えたこともない私にとっては、わけの分からないことにしか聞こえなかったけど、今の私には、十分その意味も分かり、納得することができます。卒業式で先生が何と言う言葉を送ってくださるのか楽しみでもあるし、その言葉を私がいつ理解することができるかというのも考えます。最後の学活で話されることは、きっと卒業してから、ずっと生きていく上での課題だと思います。川端先生が私たちに与える課題はいったいなんでしょう……?」
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 入試前、卒業式を前にしての班や学級の姿、生徒の深い思いが綴られています。この1年間を振り返り班活動を柱に据えた「共に学び高めあう学級づくり」が、一人一人の生徒の中に息づていることを実感できる班日誌です。 

 この班日誌にも「最初は、みんな嫌がっていた班活動だって、今では班活動がないと淋しいくらいのものになっています。」とあるように、ここまで行き着くまでには様々な壁や生徒とのぶつかり合い、生徒同士のぶつかり合いがありました。けれども、それらを乗り越えて学級のみんなの心が一つになっていくことが見られました。
 この班長の班日誌に対して、私自身も2ページにわたってコメントを書きました。そのときのコメントは次の通りです。

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 今日の卒業式の歌の練習を、感動の思いでみつめていました。私たちが1年間築き上げてきたものが、この場に「形」となって表れているとはっきり見てとることができたからです。「歌う」という目標にむかって、リーダーを中心に自分たちの力でまとまり、協力し合い、事を成し遂げていく。そこにすべてが凝縮(ぎょうしゅく)されていたように思います。
 H班長が、1班の雰囲気や帰りの会での歌のこと、そして音楽の時間での出来事を通して感じたこともまた、それと一つにつながります。そして、その基盤に「班活動」があったということもです。
 人は互いに信頼があって始めて共に行動することができます。班活動では、信頼できるリーダーをみんなで選び、信頼する班員を班長が選びます。そこにある信頼関係こそが人を動かす原動力となるのです。そして、信頼によって結ばれた人間関係があるからこそ、「一人ではない」と感じるし、「互いに助け合い、声を掛け合える」のです。
 今世の中は、人間関係が大変希薄になり、人との心が通い合わない社会になりつつあると言われています。けれども、そんな社会では人と人が互いにけん制し合い、争いの絶えない世の中になってしまいます。戦争はその窮極の状態です。人が人として生きることができなくなる、そんな世の中だけにはしてはいけません。「大人になれなかった弟たちに……」で、私たちが多くの人に与えた感動や涙は決してそんな世を生まないためのものであるのです。 
 班活動の中には、もう一つ大切なことが隠されています。それは、『民主主義』の原則です。今、社会において頑張っているリーダー(政治家)の方々もおられます。けれども中には「自分のためだけに」「自分たちさえ良ければ」といったリーダーが存在し、実際に法に触れる事件を起こすこともあります。わたしたたちは、真のリーダーをみんなの手で生み出さなければ、かつて、ヒトラーという独裁者が登場してしまったのと同じ過ちをおかすことにもなりかねません。
 より良いリーダーを選んでこそ、より良い社会が生まれる。選んだ以上は協力していく。(リーダーが法に背かない限り、あるいはまちがっていない限り)このことを、社会のよりよいあるべき仕組みをも学んでいるのです。
 「たかが『班活動』されど『班活動』」という言葉が合う気がします。ここから学んだことは、人としてよりよく生きる、よりよい社会を創るという人間の永遠の課題につながっていくのです。そのことを考えて、この1年間を振り返るときさらに多くのことをまなべるのではないかと考えます。また、そうなってくれることを期待します。
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 さて、このように学級の生徒が「共に学び高め合う学級づくり」を意識し、「よりよい集団(環境)の中でこそ一人一人も生かされるという視点」で様々な取り組みをさせることが「自分だけでなく他と共によりよく生きていこうとするものの見方考え方」を持たせていくことにつながっていくと確信します。

 次回は、この学級のスタート当時からの取り組みを、一つの班の班日誌を通して見ていくことにします。

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「共に学び高め合う生徒を育てる学級づくり」(8)

            川端 成實(鹿児島市立西陵中学校)
            k-narumi@po.synapse.ne.jp

<6つの柱 その3「班日誌の利用」(2)>

 前回は、公立高校入試と卒業を間近にした一人の班長の班日誌と担任のコメントを紹介しましたが、今回は、学級のスタート当時からの取り組みを、一つの班の班日誌を通して見ていくことにします。

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【4月15日(木) 記録者(A)】
「席替えをして、今の班になり、何日かがすぎました。私が選んだ3班のメンバーは、みんなまじめで明るくいい人達ばかりでした。でも、今日1日を過ごして、少しとりかかりが遅かったような気がします。机を並びかえるときも時間がかかったり、しっかりとくっつけていなかったりしました。それで、これからは、とりかかりが早くなるように頑張っていきたいと思います。そして、まじめで明るいところは、今のままのようにできればいいと思います。そのためには、班長の私がきちんと声をかけながらしていかなければいけないと思います。それに、班全員がきちんとまとまってきたら、自然にとりかかりもはやくなり、まじめで明るい班になると思います。みんなが選んでくれたからには、私は最後まで責任を持ってがんばっていきたいと思います。6月にある今度の席がえのころには、3班全員が『3班は楽しかった』『3班で良かった』を思えるような班にしたいです。」
<担任コメント>
「A班長が、今の3班の姿と、これからがんばっていきたいことについて書いてきてくれました。班長として一番うれしいことは、選んだ班員ががんばってくれることです。3班はそれがあるのですね。その中で課題として『とりかかり』について、3班のみんなによびかけています。また、『私がきちんときちんと声をかけながらしていかなければ』と言ってくれています。こういう心構えが、班長として大切なことですね。『みんなが選んでくれたからには』という思いを3班のみんなも大事にして、班長が言ってくれているように、『(次の班編成の時には)3班全員が、3班で良かった』と思える班につくりあげてくれることを期待します。」

【4月17日(土) 記録者(Y)】
「今日は、土曜日なので3時間の授業と少なめでした。(中略)先生がよく言う「とりかかりを早くする」ということが、教科連絡・体育の授業の整列の面で守れなかったと思います。なので、僕なりに『とりかかり』について考えてみました。『タイム・イズ・マネー』というように時間は貴重なものです。取り掛かりを早くするというのは、無理して時間をつめるのでなく、無駄な時間を省くだけだと思います。そして、無駄にしている時間を貴重な時間に変えた分だけ自分が得をし、他の人にいろいろな差がついてくるんだと思います。やはり、受験生としては時間が大切です。つまり、取り掛かりを早くすればいい、それだけです。これからも班での行動が中心だと思います。だから、班長の期待に応えてすばらしい班、そしてクラス、学年・学校をつくりたいです。
<担任コメント>
「Y副班長が、A班長の考えを受けて「協力的で居心地のいい班」を創り上げていくための大切なことを考えてくれました。特に『取り掛かりを早くする』というこの大事さを、タイム・イズ・マネーになぞらえて、よびかけてくれました。この考え方(=生き方)は、どんな場でも大事ですね。班長や副班長のよびかけに3班のみんなが応えてくれ、Y君のいうように、すばらしい班、学級、そして、学校を創り上げてくれることを期待します。」

【4月20日(火) 記録者(W)】
「今日、家庭訪問で3時間授業でした。3年4組になり、まだ、クラスになれないうちにこの3班のグループに入りました。1年、2年のとき忘れ物が多く、先生に注意されたことがたくさんありましたが、3年生の目標として忘れ物を少しでも減らしたいです。
 私の性格として少しのんびりのところがあるので、とりかかりと色んな面で班の人たちに迷わくをかけるかもしれませんが、その時は注意してください。
 この班に入ってよかったです。」
<担任コメント>
「Wさんが、今のありのままの思いを書いてきてくれました。自分自身の1、2年の時を振り返って、3年生の目標を立てるということは大変前向きな姿勢であり、考え方です。そして、『色んな面で班の人たちに迷わくをかけるかもしれませんが、その時は注意してください。』とありますが、これが一番大事なことですね。このように、自分を向上させるために、みんなの注意を素直に受け入れる姿勢がその人を成長させる大きな要素であり、考え方です。3班のみんなが、Wさんと同じように、他からの注意を受け入れるようになった時に、『3班でよかった』という班に必ずなります。これからのWさんと3班を期待しています」
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 「班日誌」は、自分の班内で互いに意見や主張を書いていく日誌です。
 班日誌は、基本的に家に持ち帰って書かせます。書くことで、自分のもの見方考え方を高め、ひいては自分の生き方を高めていけるようにする大きなねらいがあります。これは、いわゆる「生活綴り方教育」の考え方もとにしています。そのことをふまえた上で、班日誌は次の3つのねらいを持って取り組みます。

ねらい
(1)班や学級の問題に目を向けさせ、他との関わり方を学ぶ機会とする
(2)互いの信頼関係、協力態勢構築の機会とする
(3)あわせて、広くものの見方考え方を鍛え、生き方を高める

 一番最初は班長が書きます。その中には「どんな班をつくりたいか」「そのためにどんなことに力を入れていきたいか」「班のみんなへの思い」等を入れて書かせます。その後は、副班長、班員と続きます。

 また、書く内容は次の通りです。
(班日誌に記載してあるものより)
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<内容>自分の意見や主張を書こう
・一日でもっとも心に残ったこと(うれしかったこと、感心したこと、腹の立ったこと、悲しかったこと、これだけはやめたいと思ったこと)
・人の話を聞いたり、前の人の日誌や先生の書かれたことなどを読んで、思ったこと、考えたこと
・読書やニュース(新聞・テレビ)を通して思ったこと、考えたこと

*班、学級、学校でのことなどなんでもありのままに書こう。
*単なる事実を書くのではなく、その事実に出会ったとき自分はどう思い、どう感じたかを書こう。
*自分の意見が、他の人の意見とどのように同じで、どのように違うかを考えて書いていこう。
*その行動や行為がどんな意味を持つのかを考えながら書いていこう。
*お互いが、共に向上し高まり合っていくことを目指して書いていこう。
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 さて、先に挙げた3班ですが5月の中ごろに班全体に停滞気味のムードがあり、帰りの会の点検で3回連続で、日直班から指摘を受けたため、その日の放課後「班会議」を開いて解決作を話し合いました。そして、その結果次のような班日誌がでました。

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【5月18日(火) 記録者( I )】
「今日は、とてもうれしいこがありました。それは、3班の点検記録にマイナス点が1個もなかったことです。今までは、必ずだれかが学習準備や1分前着席が守れず、マイナス点が減らないでいました。この前、「一番悪かった班」が3回続いたので初めての班会議をしました。マイナス点がつけられていた人はみんな素直に反省して、私は班会議をして本当によかったと思います。班会議をして次の日から、班長が前よりよく呼びかけをするようになり、班のメンバーもちゃんと守るようになりました。特に、忘れ物が全くと言っていいほどなくなったと思います。班のみんなが協力して3班を高めていこうという姿勢が、私にはとてもうれしいです。そして、3班の人たちは、みんな一生懸命がんばっています。授業もまじめに取り組むことができています。私は3班になって本当によかったです。これからも班会議で言われたことをよく思い出して3班をもっといい班にしていけるように班長に協力してがんばっていきたいです。」
<担任コメント>
「 I さんの班日誌から、3班の向上が、そして、3班にいる一人一人の向上がうかがえます。これを読むと私もまたうれしくなります。それも、『次の日から、班長が前よりよく呼びかけをするように』なったことの成果が大きいのではないでしょうか。班長がみんなのためにがんばる、その姿を見て班員も協力する。そこに信頼関係をもとにしたすばらしい人間関係が生まれます。」

【5月19日(水) 記録者(A)】
「私は I さんと同じで最近とてもうれしいです。今まではいつもマイナス点が多かったのに最近では2、3回続けて優秀班です。本当にうれしいです。こんなにいい思い出が増えてとてもいいことだと思います。
 私は、本当に3班でよかったと思います。みんなすごくおもしろくていい人たちばかりです。このまま3班が終わってしまってはもったいないと思うくらいです。国語の授業での点数も始めはあまりいい点数がとれていませんでした。が、最近はみんな忘れ物も、服装もきちんとできていて、最初に比べればだいぶまとまりができてきたのではないかと思います。もう少しで文化祭もあるので、3班だけでなく、学級、学年、学校が一つとなって、いい文化祭になるようにがんばっていきたいです。
<担任コメント>
「A班長の視点である『3班だけでなく、学級、学年、学校が一つとなって』というところが、リーダーとしてすばらしいと考えます。小さな集団から大きな集団へ、身の回りから全体へと広い視点で考えています。全体の環境が良くなると、その中にいる一人一人も向上していく。足を引っ張ったり、バカにしたりする雰囲気がなくなる。一人一人も生かされる。このことが大切なのですね。全体に目を向けるこの見方考え方を、3の4みんなが持ってもらえればと考えます。」
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 第6回で、6つの柱の中の「3 生活班を単位とした日直活動」と「6「帰りの会」の工夫(位置づけと会順の工夫)」をお話しましたが、その取り組みが、班日誌に具体的に表れてきています。この3班のような取り組みを担任がしかけ、学級にある身近な課題を解決していく中から、子供たちに力をつけていくのです。