坊津の春はツワブキがいっぱい 豊麗田 巖根 坊津は、もう春がいっぱい。 南に押し戻されていた黒潮が、 北風が弱ってきたのに合わせて北上し始める。 すると、海岸線は、一挙に春の海辺に装いを変える。 いつも冬将軍は坊津を占領する事が出来ない。 坊津を捕らえた春は、もう坊津を手放さない。 春の海は暖かい。 磯辺は、春の匂いが漂い、生命の息吹が満ちてくる。 たゆとう水面は、磯辺の隅々まで命を育む。 水面は陽光を煌かせて、憩うものの心を掻き立てる。 暖かい日差しを受けながら、水面を見つめる瞳は、 希望の輝きに満たされる。 岩陰に憩うもの、しばしのまどろみを得て 磯を満たす波の音に安楽の時を楽しむ。 船影は、波の間にまに陽炎を引きつつ行き交う。 水平線を飾る島々は、背伸びして陽炎う。 全ての時も立ち止まり、歩みを忘れる。 ただ、影のみが時を進める。 山々に春の芽吹きあり。 憩いの時を満たしたものはツワブキや蓬の香にむせ返る。 土地の者はツワブキの茎一本の恵みを喜ぶ。 他所より来る者は根引きしてこれを絶やす。 山と共に生きる者の心は優し。 盗人の心を持て山の恵みを絶やすなかれ。 時は来たり、時は去りゆく。 行く時の恵みを、年々に愛ずる喜び。 岬の春を訪れる楽しさ。 同じき時を共に生きる喜び。 坊津の海が最も優しさに満ちた春。 上村 巌