(虫歯や歯周病にならないで、頭も良くなる方法を教えます)
秘伝「かむ健康術」 その3




@ 強い咀嚼力のおかげで健康生き生き
ナイジェリア人子供の歯と食生活


1980年から1991年の間に、3回にわたって、西アフリカのナイジェリアの学童と成人の歯科疾患の実態調査が、

東京医科歯科大学と当地の医学部歯科学部との共同で行われました。

ナイジェリアの子供たちのむし歯罹患率は日本の子供たちよりはるかに低く、しかも噛む力は強力でした。

当時の資料によると、日本の子供たちは約95%がむし歯をもっていましたが、ナイジェリアでは多くても約15~20%です。

また、加工されていない生の食べ物やかたいものを噛み続けているせいか、歯の摩耗が多く見られました。

50歳までに彼らが平均何本くらい歯を失うかというと1本以下(!)です。

しかし日本では、50歳で8.5本も失っています。

また、ナイジェリアでは50~75歳までに失われる歯の数は4本以下です。

しかも、親知らずまで加えて32本の歯を、完全に保持している老人も多いのです。

しかし日本では50~75歳では17本もの歯を失い、80歳で20本の歯が残っている人は約9.9%しかなく、

平均5~6本の歯しか残っていません。

これらの違いはどこから出てくるのでしょうか?

ナイジェリアの子供たちはかたい食物をよく噛んで食べているため、これが歯周組織を健常にし、

強い歯やあごの発達を促進していると考えられます。

高齢になっても歯周病に対する抵抗力が強く、健康な歯を持ち続けられるのです。

日本とナイジェリア人の咬合力(こうごうりょく・噛み合う力)を比較した結果、ナイジェリアの、9歳の子供の場合は、

1平方センチメートル当たり平均28.6キログラムで、特に農山村部では31.6キログラムに達していました。

同じ年齢である日本人の子供の25.9キログラムと比較すると、いかにあごの力が強く、

かたいものをよく噛んでいるかがうかがえます。

ただし、ナイジェリア人の口腔内の清掃状態はよい状態とはいえなかったようです。

食卓にのぼるメニューは、魚の干物や燻製、肉は放し飼の牛やニワトリのかたい肉で、焼くか、

あるいは煮たものを丸かじりするだけでした。

おやつとして何を食べているかを調べたところ、豆類48%,米42%,ヤムイモ31%、グランドナッツ15%、

手作りの穀類から作られたビスケット15%という順序でした。

彼らのこの食事内容と、強い咀嚼力のおかげで健康が保たれ、

熱帯という劣悪な環境下でも健全な生活が維持されているのでしょう。

しかし、当地、西アフリカのナイジェリアの、現在の状況は分かりませんが、でも、この地方にも世界文明の悪い食文化が入り込んで、モンゴルのように砂糖が多く入った甘いお菓子や清涼飲料水の洪水に会い、むし歯が多く発生しているかもしれません。
 さて、私が当原稿を校正するうちに、推察していた私の予想は現実のものになりました。それは、現在の、ナイジェリア中都市一地区の一データが入ってきたからでした。
1990
年頃は、上記のとおり東京医科歯科大学と当地の医学部歯科学部との共同で行われた時の状況でしたが、今入手した12年後、2002年のナイジェリアのオバフェミ・アウロウオ
(Obafemi Awolowo)大学の歯科の調査結果を見てみましょう。              
当大学の歯科を訪ねた患者さんの歯を失った原因を種々の原因から比較したデータでした。
すると、1996年度では歯周病が原因で歯を失うことの方がむし歯よりも多かったのでしたが、2002年の12年後には反転して、むし歯で歯を失う人が歯周病よりも2倍近くに増加したといいます。一番考えられる原因は、従来から引き継がれてきた自然の食べ物や本来の粗食で硬い繊維食から、社会的経済的生活様式が変化し、むし歯になりやすい炭水化物(糖質)への食生活に変わったこと、つまり「食物」が人間の手が加わり加工された
工場製品の「食品」になったことだと言われています
 以上のことを証明してくれるモデル的な例が、これから紹介する南アフリカの現状です。

WHOは、南アフリカは砂糖摂取を控え、6〜10%の地域の水道水にフッ素の添加を示唆 
(2003年8月WHOレポートより)
2002年8月28日に南アフリカの研究者が、
「当地では砂糖添加食品の大量消費のために、むし歯と肥満が著しく増加し慢性疾患の危険性が高まっている」との医学論文を発表しました。
そのデータをもとにWHOは、さらに都市部と地方の両地域を追加して「慢性疾患に及ぼす食事の影響」と題してWHOの広報誌、「Bulletin of the World Health Organization」に掲載し、証拠としての膨大なデータを示しました。
報告によれば南アフリカにおける成人の全歯の喪失は35%にも達し、成人の20%と黒人女性の30%が肥満ということでした。7〜9歳の子供たちでさえも、9%が過体重と肥満です。その研究は、青年と成人(10歳以上)における砂糖の消費量が、都市部では地方の2倍以上に上ることを示しました。
総エネルギー摂取量に占める砂糖の割合は、都市部では12.3%、地方では5.9%でした。
地方の人々は主に調理用の白砂糖と非炭酸飲料から砂糖を摂取しますが、一方、都市部では非常に様々な食品と飲料に砂糖が添加されているので当然莫大な摂取量となってしまいます。
都市と地方における栄養の推移の例として、都市部では33%が炭酸飲料を消費しているが、
地方ではたったの3%であるということも示しました。WHOの結論として、南アフリカは、
砂糖の消費は、総食事摂取量の6〜10%を超えるべきではないと勧告しています。
さらに、ガイドラインは「砂糖を控えた食べ物と飲み物を食べたり飲んだりしましょう。
食間は避けましょう」と提案しています。
共同編集者のニュージーランド、オタゴ大学のJim Mann栄養学教授は「食事ガイドラインに比較可能な勧告を取り入れていない国々は、取り入れるべきです」と、コメントしています。
さらに、ケープタウンの、二人の研究者の研究も、栄養不良の子供達と栄養状態良好な子供達の砂糖消費を多くの事例比較した結果、砂糖がタンパク質摂取を低下させ、鉄、亜鉛、そしてチアミン摂取を減少させることをも発見しました。
栄養不良の子供の食事は「砂糖を多量に添加した食品では改善されない」ということを示しました。
これにはまた、WHOやFAOの研究者たちも、南アフリカの6〜10%の地域の水道水にフッ素を添加して、激烈にむし歯を予防する必要性があると示唆しました。さらに「この論文は、食事における砂糖の影響と、低栄養と過栄養が混在する発展途上国の栄養について重要な展望を与える」。
また、「食事に関連する慢性疾患の流行に対処する公衆衛生部門の対応にとってとても
大事な情報である」とのコメントもありました。


A むし歯も歯周病も驚異的に少ない
チベットの子供たちの食生活と歯


大工原弥太郎氏の書かれた、『明るいチベット医学』(情報センター出版局)という著書によると、

チベットでは歯科医師が少なく、歯科治療の技術も発達していないので、歯周病やむし歯になったら大変だといいます。

チベットで歯の治療というと、痛む歯をただ抜くだけです。

日本のように悪いところを削って詰める治療法はまだ不可能です。

痛い思いをするのに、歯医者に行くのはよほどのことで、たいていは、むし歯は放置されたままであり、そのため、むし歯の悪化のために脳炎や敗血症を起こして死に至る人が少なくないといいます。

そういうことにならないように、チベットの人たちは、生涯、歯の健康に注意してむし歯にならないようにしているといいます。

健全な歯づくりのために、彼らは、乳児が乳離れするころからもう歯を丈夫に育てることを考えて、いろいろなことを実行しているそうです。

そのひとつが離乳(乳離れ)の時期で、肉の丸ゆでをおやつ代わりに与えているといいます。

生まれてから2〜3カ月の乳児では、まだ歯が生えていないので食べ物を噛み切ることはできませんが、

乳を断たれておなかのすいた子供は、与えられた肉のかたまりにむしゃぶりついて、

しきりにジュージューと肉汁を吸うのだそうです。

まだ歯の生えていない歯ぐきで肉のかたまりに噛みつき、あごをしきりに動かして噛む運動をくり返します。

そのために歯ぐきは自然に鍛えられるし、顎を動かす機能も自然に発達します。

しかも、自分の手で食べ物をつかんで飢えを満たさせるという親の配慮が、

心理的にも頭脳の発達にもよい影響を及ぼし、自立を促すといいます。

2〜3歳になると、肉の筋のところを噛めるだけかませて、あとは捨てさせたり、

皮の切れ端をチューインガムみたいに噛ませたりしています。

そのためか、丈夫できれいに整った歯並びの人たちが目立つといいます。

歯みがきは、その土地でとれる岩塩を使って行っています。

自然の状態で採取された岩塩の中には、カルシウムはもちろんヨード、フッ素などのいろいろなミネラルが含まれています。

それらは歯をかたく丈夫にしてくれるし、歯ぐきにもよいものです。殺菌作用などもあります。

そのためにチベットでは、むし歯や歯周病が非常に少ないといえます。

B 日本の悪い状態を再現してくれた
草原の国、モンゴルの子どもたちの歯


私は、平成77月の15日から一週間モンゴル政府から要請のあったモンゴルでの歯科奉仕活動に参加しました。
そこはモンゴル高原です。海抜1500メートルに広がる大地で、どこまでも果てしなく続く草の大海原で、

国土の80%が草原といいます。国土は日本の約4倍の広さがあり、訪問した平成7年当時で人口は
2102千人ありました。現在の人口は約220万人ということです。

モンゴルの現役の歯科医師は354人で、ほとんどが公共の施設や医科大学に属していました。

私たちの歯科奉仕活動団には、現地の歯科医師も加わり、首都ウランバートルの郊外や、

汽車で12時間も要するドルノゴビ県(南東ゴビ砂漠地帯)などにも出かけたりしました。

そこにある子供の収容施設(キャンプ)を訪ねて活動をしたり、地域住民の歯の検診や衛生教育、

地域の保健関係者などに対しても衛生教育や保健指導をしたりしました。

なぜ私たちが、歯科奉仕活動班を結団してまでモンゴル政府からの要請に応えたかは以下のような理由からでした

モンゴル人のほとんどは2000年来、遊牧生活をして肉類と乳製品を主食に、
そして野菜はほとんど食べずに生活をしてきました。

人口の30%が皮でおおった丸い、ゲルと呼ばれる移動型住居に住み、馬、牛、羊、ヤギ、ラクダを駆って緑の大草原を
求めて、さまよい歩くという遊牧生活を送っていました。
野菜は口に出来ませんでした。それは家畜が食べるということだからです

モンゴルでは、ずっと昔から家畜の肉を主にする民族的食物の食べ方もいろいろとあり、

彼らは大草原の中で大いに食生活を楽しみ、そして大いに食物を噛んで食べることができました。

遊牧民が野菜を食べずに健康に生活できたという理由は、野性味あふれる羊料理と家畜の乳はお茶がわりに飲み、

チーズはお茶菓子や副食として食べていたからでした。

特に、家畜の腸や血液、乳汁には300種類もあるという牧草の中のビタミンやミネラルや繊維素などが豊富に含まれていて健康にとてもよかったからです。
羊を押さえ込んで、ナイフで腹を裂き、手を入れて大動脈を絞めて殺します。器用な手つきで皮を剥ぎますが、
大地に一滴の血も落としません。

もしも羊を1頭解体すると、毛皮を除いてそれらは捨てることなくすべてを食糧として利用していました。

しかもこれらの食生活は丈夫な歯とあごがなければ食べられません。

食事には砂も混入しています。私たちもそれを体験しました。

砂漠に近い場所での食事にはほとんど毎回、砂が混ざっていました。
口の中で何回ともなくジャリッとこまかい砂を噛みました。

ゴビ砂漠では遊牧民の口の中を見る機会がありましたが、誰もがきれいな歯をしていました。
歯を磨いたことがない人々がほとんどだと聞きました。でも、むし歯が無いのはどうしてでしょう?
また、モンゴル人の歯は、年齢を追うごとに擦り減りつぶれて咬耗(こうもう)が起きていました。

この砂は、みがき粉の役目をして歯垢の停滞を許しません。

万一むし歯に犯されてもすぐに歯がすり減ることで、むし歯はとりつく間がありません。

また歯がすり減るくらいよく噛んで食べていたことも考えられました。

また、よく噛むことは唾液の分泌をうながすし、唾液が混ざり合った食物は歯の表面をよく流れ、

唾液には殺菌作用もあることなどで、たえず歯をきれいにしてくれるので歯垢もたまりません。

また、咬耗のために歯の溝もすり減って平らになっているので汚れがたまる場所もありません。
ゆであがった骨付き肉も、前歯で引きちぎって食べていますし、前歯は食べ物を切る包丁の代わりです。
そして、、奥歯で何回も噛んでいました。これがきれいな歯の秘密だったのです。

ですからむし歯の治療は必要とせず、むし歯治療専門の歯科医師はいなくてもよかったのです。

しかし、1990年のペレストロイカ革命以降の現在は、急激に変化したロシアの影響が大きく、

世界中からの進んだ文明が急激に入り込んできました。

そのために都市生活を送る人は72%に急増して、遊牧生活を送る人はわずか28%になってしまったといいます。

しかも、都市生活者はパン食を中心にした欧米食が増えてきました。

そして都市部には、至るところどこでも砂糖がたっぷりと含まれたいろいろな種類のお菓子類(キャンデー、ガム、ケーキなど)も清涼飲料水も豊富に出まわりました。むし歯予防に対する知識の無いままに彼らは生活をていったのです・・・・・・。
 しばらくすると、首都のウランーバートルに住む6歳児の口の中は、むし歯だらけになりました。

このようにしてモンゴルは現在、急激に入ってきた食生活の変化や、歯科保健の取り組みや歯科衛生教育が全くといってよいほどなされていなかったのも災いして、むし歯は子供たちの口の中に急増しました。

しかも歯科治療にも恵まれず、口の中はガラガラの悲惨な状態です。

特に、都市部に住む若年者ほどむし歯が急増して、それは非常に深刻な状態であるといいます。

 学校や子供の公共施設などで行った子供たちの検診では、歯科保健教育が全くなされていないので、ブラッシングや口の中の清掃観念がうすく、歯垢をいっぱいに付着させた子供が目立ちました。

聞くところによると、歯ブラシは一家に1本や、まつたく家庭にないか、

        個人で持っている者はほとんどいないといいます。

                   歯も抜かれてもそのまま入れ歯もない歯抜けの状態でした。

以前のモンゴルの人は、歯が丈夫でむし歯もほとんどなかったから

抜く歯もなくて、入れ歯など必要でなかったのでしょう。

現在のモンゴルでは、特に20歳までの若年者においてのむし歯の激増は

国家的な社会的問題だといいます。

日本が戦争後安定期に入り、高度成長に向かうとともに、甘いものやグルメの食べ放題というような食生活の変化から、口の中の環境は最悪化したというように、現在モンゴル人は、まさにいま、日本の悪い状態を再現しているのではないでしょうか。


(日本のボランティア団によって作られた啓蒙冊子より)

モンゴルでは、大学での歯科治療室があっても、歯に詰める材料は先進国から入ってくるので、高級品のために
歯一本の治療費が、3ケ月分の給料に相当するといいます。
例えば、モンゴルの物価は日本の100分の1ですから、日本で1ドルの歯ブラシが、モンゴルでは100ドルに
なる計算です。ですから金持ちでない都会に住む人はお金が無いので、痛い歯は抜くしかありません。
それが今の歯科治療の実情でした。しかし、数年前からは、岡山大学の小児歯科を中心にして、
神戸市民病院の先生や歯科衛生士などが、ボランティア的な熱意で、立派な歯科医院を設立してあげ、
歯ブラシ工場までも作ってあげました。



(筆者の私とモンゴルの子どもたち)



C 寅さん顔からラッキョウ顔へ
食生活の変化で顔が変わる


私の診療所には66歳のアメリカ人男性が歯の治療に通っていました。

彼は英語学校の講師で、日本に来てから30年近くになるそうです。妻は日本人だといいます。

彼の話によると、来日後しばらくすると、口の中に大きな変化が起こったといいます。

それは、むし歯の発生でした。その後、むし歯や歯周病の多発で歯を失い、ほおはこけて、口のまわりにしわも発生して、

顔の老化がアメリカにいる友人よりも大いに早まったといって嘆いていました。

アメリカで生活している間は、政府のむし歯の予防対策の、水道水フッ素化(水道水フッ素濃度

調整法)などと、ホームドクターの管理を受けていたため、歯の健康には全く心配なく、

日常の歯の手入れを実行して暮らしてきたといいます。

しかし、来日してからしばらくたつと、食環境の変化からも原因したのでしょうか、

口の中にむし歯が発生しだしました。歯が痛んだり、歯ぐきの腫れたり、

腫れがひどかったときには近所の歯科医院に飛び込んで治療を受けていたといいます。

32本全部そろっていたはずの歯は自然に抜けたり、抜かれたりして、とうとう18本までになっていたのでした。

彼の口の中を診察してみますと、口の中の清掃状態も非常に悪く、歯周病におかされて、

ほとんどの歯には多くの歯石が付着していました。

18本の歯のうち、歯周病が重症でどうしても残せない歯を2本抜くと、彼の歯は結局16本になってしまいました。

治療は、歯みがきの指導と歯石のとり去りから始まりました。

驚いたことに、彼は確実にブラッシングをマスターして、みるみるうちに歯ぐきは回復に向かっていきました。

むし歯も治り、歯周病も早期に回復して、歯のない場所にはりっぱな義歯が入って治療は終了しました。

むし歯によって老化したと訴えていた顔の変化は、入れ歯を入れることで十分に回復できました。

以上のように、歯を失うことによって、容貌に変化が起こることはほとんどだれでも知っていますが、

食生活の変化によっても顔が変わるということはご存じでしょうか。

あごの形は、両親からの遺伝ばかりではなく、生まれたときからの食生活によって大きく変化します。

それは食べ物のかたさや形、あるいはよく噛んで食べているかどうかによっても左右されます。

時代はずっとさかのぼって江戸中期、徳川家5代将軍綱吉のころから食生活が変わってきたといわれています。

この時期は元禄時代で、町人が台頭し、文化的にも栄華を極めた時代でした。

そのころから砂糖が庶民の口に入りだしたし、米が精製米になりました。

食事は、12回食が3回食となったと記録にあります。

なぜこのようなことがわかるかといいますと、

代々の将軍が埋葬されしているお墓を調査して、その頭の骨やあごや歯の研究から

当時の生活や食物を割り出したり、残されている当時の記録を分析したりすることができたからです。

徳川家康はエラがはった四角い顔立ちでした。

彼は将軍になる前は三河の地方武士であり、食事は質素で、しっかりと噛んでいたようで、

特に「148回噛んだ」という記録が残されています。

彼は頭脳明晰で、冷静で常に粘り強く、戦国時代に勝利を上げました。

以後、徳川家は代々長年にわたって天下を手中におさめていましたが、代を経るごとに食生活はぜいたくになり、

そのために頭骨と顔に変化が見られるようになってきました。

12代将軍家慶の歯を見ると、歯は全くといっていいほどすり減ってはいません(咬耗がない)。

つまり、食物をよく噛ん食べてはいなかったのです。

毎日毎回よく噛めば、歯の上下のかみ合う表面は少しずつすり減ってくるはずです。

彼は60歳で死にましたが、いわゆるうりざね顔でした。

遺骨の歯を調べてみても、いかに彼がやわらかいものばかりを食べていたかが推測できます。

14代将軍家茂は、さらにうりざね顔が進み、貴族的な顔立ちとなり、

下顎骨が弱々しく、歯がすり減っていないと同時に、むし歯も多くありました。

彼の好んだ食べ物は常にやわらかいもので、魚の小骨まであらかじめ全部とり去られました。

おまけに甘党であったといわれています。

残っていた歯31本の内30本がむし歯でした。

彼は脚気(かっけ)で亡くなりました。

いよいよ最後を迎えるとき、宮中と諸大名から届けられたお見舞いの品は、

精製された砂糖、五色まんじゅう、最中など非常に甘いものばかりであった

との記録が残されています。

芝増上寺に家茂と仲睦まじく埋葬されている皇女和宮(こうじょかずのみや)にも、

同じくむし歯が7本もありました。

悲劇の政略結婚と騒がれましたが、二人は愛し合っていたといいます。夫婦生活は45カ月でした。

家茂は通算3回上洛(じょうらく)していますので、正しく計算すると実質は26カ月という短さです。

「江戸と大阪に別れた20歳の若夫婦が、むし歯の痛むたびに互いの身の上を案じ合ったかと思うと、

いじらしさが先に立つ」と、綱淵謙錠は『歴史と人生と』で述べています。

さて、現代人の顔形の傾向はどうでしょうか。

最近、エラの張った顔が少なくなり、口元が細いうりざね顔が増加しています。

つまり、ラッキョウ顔がだんだんと目立つようになってきました。

最近は少なくなりましたが、エラがはって顔が四角いというと、映画『男はつらいよ』のフーテンの寅を演じる、故渥美清さんや、野球の桑田投手のイメージがわいてきます。

また、ホームランの61号記録を塗り変えたアメリカのマクバイヤー選手のように、エラが張った四角い顔は、よい歯をしているということ、歯を使って物をしっかりと噛んでいる、瞬発力の原点を思わせるということを直感的に想像できます。

いつも使っているあごの噛む筋肉だけが発達すると、あごの骨はその強固な筋肉に負けて折れてしまいますが、そこはちゃんと釣り合いがとれるようになっていて、同時にあごの骨もしっかりと発達して頑丈に大きくなります。そのためエラがはった四角いあごができてくるのです。

現代人に増え続けているといわれるうりざね顔、あるいはラッキョウ顔は、顔全体が細く、小さく、逆三角形の顔立ちです。

そのため口が小さく、ほとんどが歯並びの悪い乱杭歯(らんぐいば)となっています。

そういう顔かたちの人は、やわらかい食べ物だけを食べて育ったか、子供時代にむし歯が多くてよく噛めず、

噛むための筋肉やあごの発育が遅れたかで、口元の細いタイプの顔ができあがってしまったのです。


D かむ必要のない文明食で
現代人の顔が変わってきた


人類が、狩猟・漁獲・採集によって食べ物を得ていた縄文時代は、焼畑農業による雑穀やイモ類を栽培するほかは、

食用にする作物は山や野原や川辺、海辺で見つけたものを採取して食べるしかなかったし、

また、それが可能な時代でもありました。

もちろん食べられそうなものをさがし出しては、試し食いをして中毒することもあったでしょう。

しかし、経験によってしだいに賢くなった彼らは、食用にする品目を増加させていきました。

魚介類は主に、はまぐり、カキ、マダイなどであり、獣肉はシカ、イノシシ、タヌキ、犬など、木の実はクルミ、

くり、しいの実、野の草とそれになる実(自生の米、ヒエ、アワなど)でした。

稲作農業が定着したのは弥生中期以降であったといわれています。

以後、近年(今から約40数年前まで)に至るまで、

和食文化の特徴といわれる「現状維持生産」(自給自足や、地域の要望に足りるだけの生産。同じ田畑をそのまま何百年も利用したから、もちろん自然系も破壊されない)がずっと続けられてきました。

しかし日本は、昭和30年代からの高度成長時代に入ると、

人々の食べ物は生産手段をベースにした、つまり「拡大生産」(販売網を広げんがための生産。当然、自然系も破壊する)の中の食生活となり、世界中からグルメといわれる多くの食物が集まってきました。

そしてしだいに日本人の食事内容は欧米化され、現在、高脂肪、高たん白質、低食物繊維の食事が多くなってしまいました。

その結果、日本人は世界中の魚を乱獲したり、動物や植物の生態系を破壊したりするような食べ方さえするようになりました。

しかも、粉食、軟食の傾向から噛む機会がだんだんと少なくなり、口の中や周辺(歯・歯ぐき・あごなど)が退化していったのです。

さて、再び古代にもどしましょう。

人間は他の動物と違い、考える動物です。

道具を使っていろいろな工夫をしたり、新しい発明をしたりしました。

その最大の発明が、火をおこすことでした。

森の樹と樹とのこすれ合いで、樹が熱をため、ついには発火して火をふき、

それが拡大して山火事が起きることを見たり経験したりしました。

そういうとき、逃げ場を失って丸焼けとなったイノシシの肉などを試しに食べてみました。

初めて焼肉を口に入れた古代人は、そのうまさに驚きました。

そして古代人は見よう見まねで木と木をこすり合わせてみました。

こすり合わすうちに木からだんだん煙が出てきました。

その上に枯れた草をのせると、草は引火して燃え出しました。

そして、狩猟で捕ってきた獣肉をその火で焼いて食べることができました。

古代人は、やっと火をおこすことを発明したのでした。

彼らは火をいろいろなことに使って生活を便利にしていきました。

火を使うことによって彼らの食生活も大きく変化していったのでした。

さて、自然を利用して便利になり理想を実現することを「文化」といいます。

古代人はその後もいろいろな文化や食文化を作り出していきました。

鋭く加工した石をやじりに使って狩猟をしたり、石を使った斧で木を切って家を建てたり、

肉や野の草などを切り刻んで調理することができる石器という便利な物を発明したのでした。

自然物を加工・改良して物質的生活を発達させた状態を「文明」といいます。まさに石器は文明です。

古代人の文明は止まらず、次に粘土をこねて、物を入れる状態に形づくり、火で焼いてかたくし、ついには土器を発明しました。

その土器に、捕ってきた獲物や採取した野の草などを、石器で細かく切断して入れ、

さらに、まだ塩味が残っている海産物を入れて、下から火を炊いて煮ました。

それはやわらかくて適当な塩味がつき、うまいものに変化して食べやすくもなりました。

これが「文明食」というものの起源となりました。

しかし、この文明食の進歩がその後、人類のあごを退化させることにつながっていくのです。

前のページの、「食生活で顔やあごの形が変わる」の項でも述べましたが、

現代食、つまり進歩した文明食は、加工したり調理したりして食べるのでやわらかく、強く噛む必要がありません。

そして、あごをあまり使わないでも食べられます。

動物のあらゆる器官は、使わないと退化します。あごも歯も同じ運命をたどることになります。

人間は、使わなくなったしっぽが退化したと同じように歯の種類の中で、現代人には親知らずが生えなかったり、

子供たちで、あごの骨にそのつぼみもなかったりという現象が起こっています。

現代の子供は、さらに、“進歩”した文明食の中で育っていますし、噛まないで食べる習慣が身についた子供も多くなりました。

しかも、水や牛乳、ジュースで食べ物を胃の中に流し込む、流し食いの状態もふえています。

その結果、乳歯よりひと回り大きな永久歯(乳歯の約1.5倍)が

すべて生えそろうだけの大きさにあごが成長しきれないということになります。

歯が生え変わる時期になっても、ほとんどの子供が乳歯の生えていたときと同じあごの大きさのままで、大人の歯が並びきれません。

せっかく生えてきてもお互いが押し合って、力の弱い歯や、後から生え出てくる歯のほうが押しやられ、歯並びが乱れてしまいます。

それを専門用語でディスクレパンシー(叢生、でこぼこ生え、乱杭歯)と呼んでいます。

このようなディスクレパンシーあごが多いのも、食文化の変化から起きた現象です。

さて、古代から人類の前歯は、爪切りの刃のように、上下の歯(刃)が先端で合わさっていました。

そして頑丈で強大なあごの中に歯はしっかりと根を下ろしていました。

かたくて容易には食いちぎれそうもない獣の生肉のかたまりを、

あるいは砂がついたままの肉でも、前歯の全部を使って食いちぎり食べていました。

また、木の根や実、草の実のような硬いものも前歯を使って粉砕しなければならなかったからです。

彼らは火を発明して、焼いたり煮炊きしたり、やわらかくして口の中に入れることを知ったので、

強力なあごとそれを動かす筋肉が必要でなくなり、しだいに退化しだしました。

そして、強力な前歯の働きまでも必要でなくなって、だんだんと下のあごのほうが小さくなり、下の前歯は内側へ入り込んでいきました。

だから、現代人は上の前歯が外に出て、下の前歯が中のほうに隠れた形になっているのです。

野生のゴリラもチンパンジーも猿人も、前歯は先端ががっちりと合わさっています。

これは、彼らは料理した物も、軟らかい加工食品も食べないからです。

猿人と現代人のあごと歯の大きさを比較すると、あごと歯は猿人のほうが約4倍大きいし、

猿人の奥歯はすり減って平らになっています。

現代人の歯はあまり使われないので奥歯もすり減って平らになったりもせず、歯の表面にある溝も山も谷もそのままです。

その凹凸の溝や谷間に食べ物の食べかすが停滞して、容易にむし歯が発生します。

現代人にむし歯の多い一つの原因もここにあります。

このように、現代の噛まないでいい文明食というのは、歯にとっては悪いことづくめです。



E ここまで変わった子供の食習慣
軟食し好、水洗式食事法


食物をよく噛まない子、噛みごたえのある食物をきらう子どもの増加が指摘されてから、

もうすでに20年近くが経過してしまいました。

私が案じていたとおり、これらから生じる悪影響は子どもたちの顔にさまざまな問題を起こしてきたのでした。

あごの骨の動きや、噛むことに使われている数種の筋肉の発達・発育が遅れて、

あごが細くなったり歯がきれいに並びきれない不正咬合になつたり、唾液の分泌機能などに悪影響を及ぼしたりしています。

これらの現象は、今後ますますの悪化をたどっていくものと思われます。

鹿児島大学歯学部病院の歯科矯正科では、19898~11月までに治療室を受診した小・中学生94人と、

その母親らにアンケート形式で、家庭の食生活について調査しました。

それは、治療に訪れてくる矯正患者にも、食物をよく噛まずに飲み込んだり、噛みごたえのある食物をきらったりする、

また、小食や、食事中によく水を飲む、片側だけで噛むなどの悪い習慣をもっている者が多く、よく目立ってきたからでした。

アンケートの質問項目は、「家族の中でたくさん食べるほうですか?」、「ごはんひと口を、何回かみますか?」、

「好き嫌いは多いですか?」、「水、お茶、牛乳などを、食事の前・間・後のいつとりますか?」などの食習慣にかかわる15項目でした。そしてさらに、その背景要因と考えられる、「授乳の方法は?」、「離乳食は特別に作ったか?」、

「“さっさと食べなさい”と言っていたか?」、「嫌いなものでも、何でも食べさせているか?」などの7項目の質問が追加されました。

回収した回答を、あごとの発育と関連づけて、「問題がある」、「中間型」、「望ましい形態」の3種類に分類してみました。

すると、94例中3例を除くすべての対象児に問題のある習癖を持っているということが分かりました。

問題のある習癖で最も多かったのは、食事中に水、お茶、牛乳などを飲むというもので、

小学校13年生では、「食事中に水物を飲んで食べている」が最も多く,男子67%、女子は87%でした。小学46年生でも、

食事中に水物をとるが最も多くめだちました。中学生でもこの「食事中の水物」が最多という結果が出ました。

次に多かった問題のある習癖では、「片側でよく噛む」、「やわらかいものを好んで食べる」でした。

すべての生徒のほとんどが、早めし、偏食、よく噛まない、軟食し好ということで生じてくる

咀嚼の量、噛む回数、食事の時間が足らないということもはっきりとわかりました。

さらに、陰にかくれて表面からは見えない背景要因も照らし合わせてみたら、

乳児期の哺乳の仕方、幼児期の授乳量の少なさ、食事を急ぎたてる、偏食に追いやる、

食事マナー伝達の不足、安易な食習慣づけ、団欒(だんらん)、または一家との夕餉(ゆうげ)の消失など、

親のかねてからの行動が引き金となり子供たちのあごの発育は阻害されていたということも分析できました。

奈良県立医科大学口腔外科の川上哲司歯科医師は、大学生564人分の歯の石膏模型(歯型)を使って、

歯の大きさや、歯ならびと奥行きを計り、信州大学が行った約35年前のデータとを比較して、

現在の若者はあごが小さくなっているということをずばり証明しました。

結果は、犬歯の後ろにある小臼歯の幅が小さくなり、特に下の小臼歯は約10ミリから7ミリにまで縮んでいたといいます。

歯並びの奥行きも、女性の下あごで平均約34ミリから32ミリ小さくなっていたといいます。

このことは、軟らかい食物中心の現代の食事によって、噛む回数が減り、あごや歯の発育が悪くなったのが原因であるとしています。

川上先生は、よい歯並びを作るためにも子どものうちによく噛むことが大切だと述べていました。

さて、以下のデータは、愛知学院歯学部の公衆衛生学教室が1990年に、数園の幼稚園児722人を調査した結果、

噛めないと診断された園児を、さらに調査して以下のような結果が出されたのでした。

このことも現代の子どもたちが良く噛まない、良く飲み込めない、そしてあごが小さくなっている、

歯並びが悪くなっているということの大きな証となつたのです。

あまり噛まないで飲み込む    34(4.7%)

口にためて飲み込もうとしない  29(4.0%)

口にためてクチュクチュト吸う   6(0.8%)

 ここでは、園児722人の内の約10%が噛めないという結果が出たのでした。

この調査結果から分かるように、噛むことがへたな子どもは、噛みこまずに飲み込んだり、

食べ物をいつまでも口の中に残していたり、ひと口を食べるのに非常に時間がかかったりしています。

これらの研究のほかにも、幼稚園児の25%が噛めないというデータ出している他の大学の研究もあります。

以上のように、現代の子どもたちが食物をよく噛めない、飲み込めないという問題は、

生活習慣病の一つとしても大いに指摘でき、社会的にも大問題です。

さて、なぜ、現代の子たちはどうして、「噛むこと飲み込むことがへた」になったのでしょうか?

これらの子どもたちには、次のようなことが考えられます。

@口という器官の、形態的な成長発育が不充分であった

A口の動きの発達(筋肉、神経機構、感覚)の遅れ

B食べる意欲に欠けていた

上の@〜Aをもっと詳しく説明をしますと、

@の場合は、その原因は、口の中にむし歯などがあって痛くて噛めなかったり、

A 乳歯の生え変わりの時期に永久歯との交換がスムーズに行われなかったりして食物が食べにくくなり、

Bそのために使われなかった歯や口のまわりの、それぞれの器官の成長と発育が阻害されたことにあるということです。

C口の動きの発達遅れは、これらの最大の原因だと言えます。というのは、

噛むという行為は生来だれでも備わっている“本能”と思われがちですが、実は“学習”だったのです。

その学習をさせなかったために口の動きが発達しなかったのです。

幼児は、生まれてからお乳を飲むことに始まって離乳食に、時を経て固形食に移行していきます。

それらの「食べる」という一連の動作を経ながら、初めて噛むことを学習して覚えていくのです。

ですからこの学習がしっかりとできていないと“噛めない子”“飲み込めない子”になってしまいがちです。

これらは明らかに親の責任で、この学習がおろそかにされていたということになります。

特に、噛むこと吸うことの学習は、出産直後の一番初めに母乳を飲むという動作のときから始まっています。

そして、最初、乳児は歯が生えていないドテであごをリズムカルに動かし乳房をかむようにしながら母乳を吸います。

口先だけでただ吸っているだけではないのです。このときはもう噛むことの学習をしているのです。

ですから、お乳はできるだけ母乳にしてもらうことにして、何かの要因で母乳が絶対にやれない場合には、

次のような哺乳ビンを使うことにも心がけて欲しいと思います。

先にも述べましたが、母乳は一般的に、“吸って飲む”と思われがちですが、

それだけでなくて、あごを動かして噛む動作のようなことをしながら飲んでいます。
ですから、哺乳ビンは“吸って噛まないとミルクが出てこない”というタイプのものがよいと思われます。

その後も、絶えず、子どもの食物の噛み方、飲み方を観察して、やはり、噛む、飲むがへたのようであれば、

その原因に応じて対策をたてるようにします。

ただ個人差があるので、その時期はそれほど厳密に考えるのではなくて、自分の子供に合わせていきます。

しかし、年齢が上がるにつれて悪い食べ方を矯正すのは、いちだんと難しくなりますので、

そのときには専門の歯科医師や歯科衛生士に相談することにしましょう。

参考に、小学生以降の場合の注意点を以下に羅列しておきます。

日常このことに留意して、子どもの健全育成のために気をつけて欲しいと思います。

@歯の生え方、歯の状態に注意をする。

A十分に食事時間をとり、空腹感を持たせて食事を取らせるようにする。

B食べ物の硬さ、大きさに注意する。

C食べる姿勢、食器類に配慮をする。

また、水やジュースなどの飲み物で、口に入れた食物を流し飲みする食い方(水洗式咀嚼)が子供たちの噛むことを阻害しています。

これは、後で述べますが、現在流行している感染病のO-157の感染にも関係しています。

きれいな整った永久歯列になるためにも流し飲みの食べ方はやめて、じっくりと食物をよく噛んで食べることが必要です。

乳歯が全部生えそろった最初の時期は、乳歯の11本は全部寄りそい、お互いにくっついてすき間はありません。

しかし、子供が成長していくにつれて,あごは当然発育していくので、乳歯の11本の間にすき間が出はじめます。

それは次に生えてくる大きな永久歯の場所を確保するためです。

この乳歯と乳歯にすき間があることが、永久歯がきれいに生えそろうための重要なポイントとなります。

噛むことに注意を払われず、あごの成長もかんばしくないために乳歯と乳歯にすき間が出なかつたら,

やがて叢生、つまりでこぼこ生え(ディスクレパンシー)の歯並びになってしまうことでしょう。


F あごの関節に異常が起こる
顎関節症にも注意が必要だ


最近、小児や若い女性を中心に現在、顎関節症(がくかんせつしょう)が増加しています。

顎関節症は、あごを動かす関節部分の機能障害です。

あごの周囲の関節や筋肉に何らかの異常が起きて、普段はスムーズに動いていたあごがぎこちない動きになったり、口をあけるときに痛みを感じたり、雑音が出たり、ひどいときには口が開かなくなってしまうというように、とても不愉快な症状が現れてくる病気です。

顎関節症が重くなると、慢性の肩こり、偏頭痛が起きたり、腰が曲ったり、耳の疾患の症状を訴えるようになる人もいます。反対に、一見正常でなんでもないように生活している人で、本人にはほとんど自覚症状がなく長時間そのままになっている人も多くいます。

顎関節の場所は、ちょうど耳の穴の少し下前方に存在しています。

口を開けたり閉めたりするとき、飛び出したり引っ込んだりする関節の、頭の部分の突起(関節頭)は、四本の指先で軽くさわってみると良く分かります。

顎関節症は、むし歯や歯周病などの歯の病気によるかみ合わせのずれ、治療を受けた後の詰め物や被せ物によってのずれ、食生活やストレスなどが引き金になって現れることがあります。

小児の顎関節症の発症には、現在の食生活の変化がその引き金になっていることが多いようです。

それは、食生活の軟食化とその傾向のために人々が良く噛まなくなってきたこと、

あるいは、ストレスも大きな原因になっているようです。

鹿児島大学歯学部矯正学教室の伊藤学而教授らの研究で、女子高校生400人の顎関節を診断しました。

その結果、顎関節症と診断された学生は、以前顎関節症にかかったのも含めて43%がいたということです。

これらが起こる原因として伊藤教授は、

@歯ぎしりやほおづえなどをするくせがある。

A口の中に入れた食物を片方のあごを使ってよく噛む。

Bストレスによるあごの筋肉の緊張などをあげています。

また、教授は、Cよく噛まなくなったために、あごの関節自体も弱くなっているということも指摘しています。

あごの動きは、下顎骨の両先端(関節頭)を軸にして、骨全体にわたって着いている多くの筋肉の働き

(私たちがあごを動かすためには、頭の横部分の、側頭部からあごの部分、のど、肩、胸部にかけて

20種類以上の筋肉の束が関係して働く)によって上下、そして左右に動きます。

若い女性の、顎関節症の発症の原因を、もっと分かりやすく説明しましょう。

それは、小児期からの食生活影響も大いに尾を引いている場合もよくあります。

その他に、むし歯や歯周病が炎症を起こし痛くて、痛くない反対のあごの方を使うことが続いたり、

あるいは、抜けた歯の部分に入れ歯などを入れないで放置したりした場合に起きる場合がよくあります。

それは、噛む機能のバランスがくずれた結果です。

また、口腔内やその周辺の構造は、心理的な影響を受けやすいと言われていますから、

いろんな心理的ストレスで歯を強く噛みしめて、長期間のその負担が顎関節にかかった場合にも起こっている場合も多いのです。

子どもの顎関節症が起きてしまう原因で、是非とも注意したいのは、

私たち歯科の専門家が、「良く噛まなければなりません」、「硬い食物を食卓に用意しましょう」と話したり書いたりします。

すると、母親は、これまでは軟食であつた子供に、すぐに硬い食事に切り替えて、あるいは極端に硬い食物を与えて、

かえって顎関節症を起こしてしまう場合があります。これまで続けてきた食生活の習慣を変えるのですから、

顎関節に無理が起きないように、じょじょに硬いものを噛む訓練をしていく必要があります。

まず、3度の食事ごとに根菜など多くの種類の野菜を献立に入れたり、また、本来の和食の大事さを見直したりして、

和食スタイルも大いにとり入れることから始めたほうが自然に無理なく導入できると思います。

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