奄美点描 今週の奄美 

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■2001_6_18 「雨に咲く花」ゲットウ 名瀬市小宿」 [ホームへ戻る]

今回は龍郷町・名瀬市小宿を回っての花の便りです
ゲットウ ゲットウ
ゲットウ 庭極楽鳥花がさりげなく咲いています
ハーフ系花の名は? ネムノキ
ネムノキ 花の名前は?
時計草 パッションフルーツの花
時計草 時計草の実
タンカン タンカン
時計草畑
 「雨に咲く花」
  五日下旬から六月上旬にかけては梅雨の最盛期で、降り続く雨のうっとうしさと退屈さの嘆きの季節である。
 梅雨は山野の衣をかえ、新録のもえ黄も、いつしか深緑となり夏のきぎしは雨の晴れ間の強烈な日射しの中にうかがわれる。

 雨好みのヌマガエル(当地方でもっとも普通のカエル、方言ビッキャ)や、リユウキュウアカショウビン(方言コファル、コッキャル)、リュウキュウサンコウチョウ(方言、ズナギャ)の小鳥などがにぎやかな自然の交響楽を奏でる山野に、サネンの花がほころびるのはこの頃である。和名をゲットウと言い、ショウガ科、ハナミョウガ属である。

 多年性常緑草本で、茎は束生直立し、高さ1.5〜3メートル内外、葉はだ円状皮針形(先端がとがり中央より少し下部に最大の幅をもつ葉などの形)長さ約40〜70センチ、幅約7〜12センチぐらいで両端とがり、両面なめらかであるが縁には白色の細毛がある。質厚く光沢があり、特有の香気があるので、次に述べるクマタケランの葉とともに餅や握り飯の包装に使われた。

 茎頂に花穂をはらむ紡錘形の変形葉から押しだされるようにして花枝を垂れ、通常30〜40個ぐらいのつぼみをつけるが、その外面は瀬戸物のような光沢があり、白色で先端が紅ぼかしの包につつまれ、一つの包の中に多くは2個の花があり、1個は開かずに終る。
 下向きにぶらさがるつぼみは雨を受けてつやを増し、あでやかなその姿は「雨の花」と呼ぶのにふさわしい。このつぼみを少女達がほうずき代用にかむならわしも、島の田園ならではの情緒の一つであった。

 花は付根から順に包を裂くようにして開き、長さ約6センチ、特におしべの変形である唇弁は大きく発達し、ほら貝状の口を下向き、または斜め下向きにして咲き、外面は帯黄色である。内面をのぞくと左右相称、炎状のしま模様があるのが印象的である。

 花後球卵形、径約2センチの果実をつけ赤熱する。インド、マレーシア、南中国、台湾、沖縄群島、奄美群島、屋久、種子と北上し、佐多岬を北限とする南方系の植物である。

 本土ではほとんど見られないが、当地方では到るところの山野に自生し、包装用の他縄の材料等にも使われた。また新民謡の中にも「…そてつのかげで、泣けばゆれますサネン花よ」という句があるように親しみ深い植物である。方言ではサネン(北大島、住用、瀬戸内、与論)の他、サニン(奄美、沖永良部)、サンニン(与論)、サニ(沖永良部)などと呼ばれている。

 同属のクマタケランはムチガサ(奄美)、ムチザネン(笠利)、カサ、カシヤ(加計呂麻)、サヌイン(大和)などと言われ、ゲットウとよく似ているが主な相異点をあげると、茎高約l〜2・5メートルでやや低く、葉は長だ円形またはだ円状皮針形で長さ50〜70センチ、特に幅が8〜15センチと広く、軟かで丈夫である。また茎頂に生ずる総状花序(主軸に多数の柄のある花をつける花のつき方の形)は半ば直立し、先端付近が垂れ、花は小型で長さ約3.5センチ、唇弁は開き僅かに外曲することなどである。                         
 葉の芳香は一段とすぐれ、餅、団子などを包むと、その移り香が特有な風味となる。
 四季折々の節句(旧暦三月、五月、八月の種子おろしなど)などのかしゃ餅や日常でも握り飯などの包装などによく利用されたものである。また茎をたたいて縄を作ったり、もっこの材料としても用いたようである。

 日本列島における分布はゲットウと同じである。外国では台湾に産する。ゲットウの園芸変種に黄白の斜めしまのあるフイリゲットウがあり観賞用として栽培される。
 山林樹陰によく見られるものに同属のアオノクマタケランがある。クマタケランと似ているが、かなり小型で茎高1〜1.5メートル内外、花も小さく長さ2センチぐらい、分布も前記二種とほぼ同様である。

 方言もゲットウやクマタケランと混用されるが、さほど利用もされないのでクスザネン(笠利)と言うありがたくない方言もあるようである。(クスはくその意)
 同属のハナミョウガは関東南部以西の本州、四国、九州に分布し、屋久、種子を飛んで奄美にまれに産し、沖縄群島を飛んで、台湾、中国と飛石的分布を示すことが注目される。奄美では湯湾岳山頂付近に見られる40〜60センチぐらいの多年生草本である。以上ハナミョウガ属4種と1園芸変種について記した。

 特にゲットウとクマタケランについてはその効用を活かすべきであろう。
特産の餅や菓子の包装、料理の盛り付けの飾りや仕切りなど、郷土の個性を活かすという面から昔の人々のささやかな生活の知恵を、もう一度見直すべきではないだろうか。
栽培は簡単で幼苗の移植や株分けでよく繁殖し、その花にも捨てがたい風情がある。
雨に咲き雨にしぼむサネンの花、それは南の島々への慕情と郷愁を槌める花であろう。
奄美の四季と植物考 大野 隼夫 より

2001年度バックナンバー

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■2000_2_ 4
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