「砂の道のむこう」脚本   作者/柳田 一郎


シーン1
カメラは最下部から知林ヶ島方面を狙っている。
ゴミ拾いのために集まった子供達の足がフレームインしてくる。めいめい手が伸びて空き缶や、弁当の空等を拾う。

シーン2
カメラは一人の女の子(美咲)と足元を狙う。
美咲はペットボトルを拾おうと手を伸ばす
その先にあるのはコンクリートの残骸。カメラは美咲の顔にパン。

シーン3
引きのカメラがもう一人の女の子(みゆう)も拾う。
美咲はペットボトルがあった付近を見つめている。みゆうも同じ様に見つめ合わせ、首をひねる。
何故海中にコンクリートが沈んでいるのか?と言う顔。

シーン4
別の角度から美咲とみゆうがアクティブレンジャーの優子と恭子の元に走っていく。
優子にペットボトルを渡し、何か言おうとするが、優子は別のことをみんなに向かって話す。
優子 「みんな、ココはもう綺麗になったから今度は島のほうに渡って拾いましょう」
真美 「遊歩道ができて人が沢山来ているから、島をもっともっときれいにしなきゃね」
何か聞こうとする美咲は、まぁ、たいしたことではないと言う顔で島のほうへ向かう。

シーン5
離れたところで観光客カップル(まみと恭平)がその話が聞こえたようで、
まみ 「知林ヶ島に遊歩道ができてるんだって、凄いね」
恭平 「うん。どんな風になってるのか楽しみだね」
そういって、仲良く島に向かって歩き出す二人。

シーン6
カメラは美咲の歩いてきた方角を再度写す。

シーン7
靖恵と志保がやってくる。志保は靖恵の手を握り、ゆっくりカメラに近づいてくる。

シーン8
コンクリートの近くまで来て、写真を出し、志保と靖恵は話し始める。
志保 「おばあちゃん、久しぶりの海はどう?」
靖恵 「気持ちいいね」
心地よい風に目を閉じる靖恵。少し風を感じてから目を開ける
靖恵 「本当に久しぶりだわ」
志保 「そうだね。3ヶ月も入院してたんだもんね」
靖恵 「毎日退屈だったよ」
志保 「入院する前はココまで毎日散歩に来てたもんね」
靖恵は、久しぶりの散歩で自然と笑みがこぼれていた。それを見て志保も嬉しくなる。

シーン9
木陰を見つけて、二人で座る。靖恵は写真を取り出し見る。
靖恵 「また毎日ココにこられるようにならなきゃ」
志保 「そうだね。そのためにもリハビリ頑張らなきゃだね」
靖恵 「うん」力強く笑う靖恵。海(知林ヶ島)を眺める靖恵。
その様子を嬉しそうに見守る志保。

シーン10
カメラは靖恵の手元の写真に寄る。写真には砂の道をバックに若い頃の靖恵と直行のツーショット写真。
どこからともなく鈴の音が聞こえる。

シーン11
ディゾルブして写真から砂の道に変わる。しばらく砂の道を写してから、靖恵が独り言を言う。
映像は砂の道のまま
靖恵 「直行さん、約束の道ですよ・・・」
小さめの声で言うのだが、近くにいる志保には聞こえている。
志保 「おばぁちゃん、約束の道って、砂の道のこと?」
「おばぁちゃん」のセリフの後からふたりのアップに切りかわる。
靖恵 「そうだよ。ほら、この写真をごらん」

シーン12
そういって、孫娘に写真を渡す靖恵
志保 「これ、おばあちゃん?」
写真に写る若い頃の靖恵を指差す。
靖恵 「そうだよ。おばあちゃんだよ」
志保 「それじゃあ、この隣に写ってる男の人は、おじいちゃん?」
靖恵 「そう。直行さんと・・・志保のおじいちゃんと約束したの」
志保 「何を約束したの?教えて、おばあちゃん」
そういって、靖恵を覗き込み、目をきらきらさせる孫娘
それを、微笑み見つめかえし、靖恵の昔話が始まる。
靖恵は目を閉じて、昔を思い出すように話し始める

シーン13
((昭和十七年五月))知林ヶ島からディゾルブ(映像が重なる)して、昭和十七年、指宿高等女学校音楽室に映像が移る。
元気よく、しかし、歌い上げる様子で「花」を歌っている女子高生たち。
生徒たちを左から舐めていくカメラ、ピアノを演奏する靖恵の手のアップ、音楽室全体が映る。

シーン14
歌は既に最終の小節にさしかかっている。歌が終わると級長の湯ノ口が
湯ノ口 「起立」
と号令をかけ、全体が立ち上がる。
湯ノ口 「礼」
の声で、お辞儀、先生もピアノのところから礼を返す。席を立ち上がって音楽室を出る生徒たち。

シーン15
中村、五反田、前田の3人、靖恵のところに小走りに歩み寄る。
中村 「先生、ベートーベンって聞いて良いんですよね?」
五反田 「えっ、敵性音楽じゃないの?」
前田 「ばっかねえ、ベートーベンはドイツ人よ、同盟国でしょ」
靖恵、笑いながら
靖恵 「音楽に敵性も何もないわよ、良いものは良い、好きなものな好き、でもやっぱり時代が時代だから、 気は付けた方が良いかも」
中村 「そうかあ。ジャズは?」
五反田 「ジャズはアメリカだから全然だめ!ね、先生」
靖恵 「そうねえ、でも私は好きだけど、戦争前は良く弾いてたんだけどね」

シーン16
そういって、静かに(かすかに)ジャズを引いてみる靖恵
幸恵 「まだ誰かいるの?」
ガラッと教室のドアがあく。そこには靖恵の同僚である幸恵が立っていた。
ビクッとする4人
幸恵 「あなた達まだいたの?早く帰りなさい、いつ空襲警報が鳴るか分からないんだから」
そういって、三人に帰るように促す幸恵。
三人 「「「はーい」」」
教室を後にする前田、中村、五反田。その三人に隠れるようにして靖恵も帰ろうとするが、幸恵に見つかってしまう。
幸恵 「新田先生?」
靖恵 「はいっ」
ビクッとして起立する靖恵。三人は走って教室を後にする。

シーン17
三人が教室を出たら、幸恵は教室のドアを閉める。
幸恵 「靖恵・・・今ジャスを弾いてたでしょ?」
靖恵 「・・・」
幸恵 「はぁ。聞いたのが私だったから良かったものの、ほかの先生に聞かれたらどうなったことか」
靖恵 「ごめんなさい」
幸恵 「まったく・・・」
飽きれながらもピアノに近づく幸恵
幸恵 「でも、靖恵のジャズ久しぶりに聞けた」
ちょっと嬉しそうな笑みを浮かべてジャズを弾く動 作をする(鍵盤をなでるような感じ)
でも、すぐに真顔に戻る
幸恵 「気をつけなきゃダメよ」
靖恵 「うん」幸恵 「きっといつかまた自由に音楽を奏でられる時がくるよね」
靖恵 「うん」
教室の窓から空を写す。

シーン18
画面が切り替わる
指宿高等女学校正門。数人の女子生徒が家路に急いでいる。その中に靖恵の姿もあった。
その姿を見つけた女子生徒三人(前田、中村、五反田)が靖恵に駆け寄ってくる。
三人 「せんせーい、いっしょに帰って良いですかあ」
中村が眼を輝かせながら靖恵に話しかける。
中村 「私達、先生のことを噂してたんです。くしゃみをしませんでしたか?」
『ねぇ』と三人で笑いあう。
靖恵 「まぁ、どんな噂話か知りたいものだわ」
そういって、三人の前に顔を出す靖恵。
三人 「新田先生のお嫁入りの話です」
そう同時に靖恵にいう。

シーン19
そして、五反田が続ける
五反田 「もう校長先生にはお話されたのでしょ?もうみんな興味津々ですよ。指宿高女いちのおてんば先生をお嫁になんて、どんな方なのかってね・・・」
そういうと、また三人はクスクス笑う。それを見て、 靖恵は少し頬を膨らまし、『まぁ、なんてことを言う のでしょう・・・』といいかけるがそれを無視して 前田は胸をはり、腰に手を当て、『コホンッ』と咳払 いを一つして(校長先生を真似るように)話始める。
前田 「新田先生が、結婚ですか・・・、いやはや、どんな奇特な方なんでしょうな・・・どう思いますか中村先生?」
ふられた中村もその芝居に付き合う。メガネをあげるような仕草をし、少しえらそうな口調で
五反田 「本当に、気になるところですわね、校長先生は写真を見られなかったのですか?」
前田 「えぇ、どうしても、見せてもらえなくてね。実は冗談なのかも知れませんよ」
少し神妙そうな顔をする五反田。それを真似るように神妙な顔つきをする中村と前田、そして
前田 「実際のところはやはり、新田先生に教えていただくしかございませんね」
そういって、再び三人で靖恵を見る。
その芝居に笑いながら見ていた靖恵。急にふられて少しあわてるも、
靖恵 「じつは、こんな方でして・・・・」

シーン20
そういって思いっきり両方の目頭を手で持ち上げ狐目の顔を作り、少し口をくの字に曲げて見せた
(靖恵変顔)
そして、その顔をみて、また笑う三人。それに気を良くした靖恵は続ける。
靖恵 「ですから、どうしても写真をお見せすることができなくて・・・」
そういった。靖恵の後ろから声がする。
直行 「どんなお顔でしたっけ?もう一度お見せくださいませんか?」
靖恵 「はい」
と先ほどと同じ顔つくり振り返る靖恵。

シーン21
そこに立っていたのは噂の張本人、柳瀬直行だった。
直行 「あなたの、婚約者はそんなにひどい顔をされているのですか?かわいそうに」
そういって悲しむ直行
靖恵 「あ・・・」
とそのまま固まる靖恵と、その状況から靖恵の目の前に立っている人物が婚約者であることを悟った五反田と中村・前田も驚きの表情を見せ、そして顔を見合わせ、思わず敬礼する。

シーン22
敬礼の姿勢のまま五反田が
五反田 「せ、せんせい・・・さようなら」
そういって三人は慌てて学校を後にした。
直行 「さようなら」
そう返したのは、直行でした。その言葉にハッとした靖恵
靖恵 「ま、まさかいらっしゃってるなんて思わなかった」
と罰がわるそうだった。
直行 「自分で言うのもなんだけどね、私はかっこいいと思うよ。靖恵のあの顔よりもね」
そういって笑う直行を見て靖恵も笑った。

シーン23
ひとしきり笑ってから、靖恵と直行は歩き始める。
直行 「元気な生徒さんたちだね」
靖恵 「はい。とっても素直でいい子達です。少しおてんばだけど・・・」
直行 「生徒も先生に似るんだね。勉強になったよ」
うんうんとうなずく仕草をする直行。
直行 「今日は、いろいろと勉強する日だ」
そういって、目を吊り上げる仕草をする直行。それを見て靖恵は頬を膨らませ
靖恵 「意地悪」
そのまま走っていく靖恵。靖恵を追いかけて走る直行

シーン24
場所は変わって、(白水館の)松林
直行 「待って」
そういって直行は靖恵の手を掴む。
靖恵 「直行さんが意地悪するからです」
そういって振り向いた靖恵の顔は怒っているというより、いたずらをしている子供のようだった。
そん な靖恵を見てほっとして笑みを浮かべる直行
直行 「ごめんなさい」
靖恵 「いいんです。こんなおてんばな私でも、直行さんは好きになってくれたんですよね?」
そういって笑う。それにつられて直行も笑う。しばらく二人で笑うが直行の顔から笑みが消え、真剣な表情になる。
それを見て靖恵も(不安そうに)真顔に戻る

シーン25
直行 「実は、中尉に昇任したよ」
靖恵 「それは、おめでとうございます。責任も重くなりますね」
直行 「それで、大事な話があるんだ」
靖恵 「大事なお話?」直行 「うん。しばらく考えたんだ。私は軍人でだから、覚悟はできている。しかしその覚悟に靖恵まで巻き込みたくはない。申し訳ないが、婚約は無かったことにしよう」
靖恵がにっこり微笑む
靖恵 「そんなことだろうと思いました」
思いもよらない靖恵の言葉に戸惑った顔をする直行
直行 「そんなこと?」
靖恵 「えぇ。昔からそうです。直行さんは優しすぎで、弱虫です。よく軍人になれましたね」
直行は無言で立ち尽くした。
靖恵 「私は、小さい頃から決めてました。お嫁に行くなら直行さんしかいないって。昔から気がつけば私を見守ってくれて、支えてくれてた」
靖恵はもう一度直行に笑みを見せる。そして真面目な表情で
靖恵 「覚悟は軍人さんだけがするものではないんです。女は時に一生をかけて覚悟を決める。心配はいりません。私もよーく考えて決めたんですから」
直行 「だからこそ、私は靖恵を大切にしたい。先のわからない、もしかしたら今すぐにでも死を迎えるかもしれない軍人である私のために、不幸にしたくないんだ。いつまでも、明るく元気でまっすぐな靖恵でいて欲しい」
それを聞いた靖恵が険しい顔つきになる。直行にとっては意外な表情だった。

シーン26
靖恵 「柳瀬直行中尉。貴様には女の覚悟を理解する度胸は無いのか!!それで戦えるのか」
直行は言葉につまった。そして、ため息を一つ
直行 「はぁ。手厳しいな・・・」
それ以上言葉の出ない直行に追い討ちをかけるように靖恵は言う
靖恵 「それに、私はもう校長先生にも結婚するとお話してしまいました。とっても喜んでくれていました。いまさらアレは嘘だったなんて生き恥を晒すようなもんです」
笑いながらいう靖恵
直行 「本当に後悔しないのかい?」
靖恵 「後悔しません」
二人で知林ヶ島を見つめる
靖恵 「直行さんと一緒になれないのなら、残される悲しみを選びます」
照れながらも靖恵が、直行の胸にもたれる。
靖恵 「今、とっても幸せです」

シーン27
遠くで爆音がして、そちらを見る二人。照れながらも嬉しそうだった靖恵と直行の表情が硬く険しくなる。
そこからフェィドアウトして画面が変わる。

シーン28
((昭和十七年六月))
台所で、いそいそと祝い料理を作る主婦達の様子。
主婦・ 「靖恵ちゃん、綺麗ね」
主婦・ 「本当に」
主婦・ 「うらやましいわー私も昔はあんなんだったのよ」
主婦・ 「口では何とでも言えますもんね」
世話しなく動きながら、口の動きも止まらない主婦達。楽しそうに準備をする。
その様子を写しながら、 別の部屋へとカメラを写す。

シーン29
その部屋では、直行と靖恵の結婚式が行われていた。
高砂席に座る直行と靖恵。靖恵の隣には花嫁の介添え役で幼馴染の小百合がいる。
その近くで挨拶を行う男性。緊張気味でたかさごやをしている
男性 「((たかさごや))」
客 「かんぱーい」
客 「おめでとう」
客 「直行君。靖恵さん、おめでとう」いきなりの宴会モードに直行と靖恵は驚きつつ顔を見合わせて楽しそうに笑う。

シーン30
隣にいた小百合が靖恵に話し掛ける
小百合 「靖恵、きれいだよ。おめでとう」
靖恵 「ありがとう、小百合」
小百合 「それにしても、みんなの憧れの直行さんが幼馴染の靖恵と結婚するなんてねー」
靖恵 「ウフフ(笑う)」
小百合 「うらやましいぞ」
靖恵 「エヘヘ(照笑い)」
小百合 「お幸せにね」
靖恵 「うん」

シーン31
しばらくは、お客さんが直行にお酒を飲ませたり、お祝いの言葉を述べたりと、楽しく時が流れる。
隣の炊事場からもできた料理を次々と運び込む主婦の人達の姿もある。
主婦の人達も直行と靖恵に「ほんとうにおめでとう」と声をかける。
そこに靖恵の弟の勇人が来る
勇人 「直行兄さん、姉さん、結婚おめでとう」
直行・靖恵 「「ありがとう」」
勇人に笑顔を向ける2人。そこへ、直行の同僚の崇もやってくる。シーン32
崇  「直行、靖恵さんおめでとう」
直行 「崇かありがとう」
靖恵 「崇さん、ありがとうございます」
崇  「あーぁ、負けたよ」
靖恵 「いったい何に負けたんですか?」
直行を見る崇。それに気がつき、靖恵も直行を見る。
直行が誇らしげな笑みを浮かべている。直行は靖恵を見る。
直行 「実はね、どちらが先に結婚できるか昔賭けをしたんだよ」
靖恵 「まぁ・・・」
呆れ顔の靖恵。
直行 「やっぱり私の勝ちだね」
誇らしげに腕組をする直行。それを見て勇人が直行に近寄る。崇も靖恵にちかよる。
二人ずつで内緒話をするように耳元で話す(直行も靖恵も二人の内緒話は聞こえている)

シーン33
カメラは直行と勇人の2人を写す。
勇人 「直行さん、本当に姉でいいんですか?こんなに落ち着きの無い人と結婚するんですか?」

シーン34
次に、靖恵と崇を写す。同じように内緒話をするように話す崇
崇  「靖恵さん、こんなやつよりもっといいやつがいますよ。ここにね」
そういって、靖恵に笑顔を向ける崇

シーン35
勇人・崇 「「考え直すなら今のうちですよ(だよ)」」
そう声をあわせて冗談を言う勇人と崇に直行と靖恵は怒って
直行・靖恵 「なんてこと言うんだ(言うの)!!」(カメラは直行、靖恵の二人を写している)
と怒鳴る。その声に皆驚きいっせいに二人を見る。
(靖恵、直行の後ろから皆の様子を写す)
 靖恵・直行 「あ・・・」
固まる二人。それを見た勇人と崇は噴出して笑う勇人と崇の笑い声に皆引き金を引かれたように笑い始める。
恥ずかしそうに下を向く直行と靖恵。(二人の恥ずかしそうな表情のアップ)
崇  「息がぴったりだ」
勇人 「ほんとだよ」崇・勇人 「「お幸せに」」
そういってまた笑う。それにつられて直行、靖恵も笑ってしまう。

シーン36
指宿高女生徒 「「「せんせーい」」」
その声に下を向いていた靖恵がぱっと声のしたほうを見る。
カメラが外の様子を写すとそこには、家の壁に隠れるようにして靖恵の結婚式を見ている中村、五反田、前田、他生徒の姿。
靖恵 「まぁ、みんな〜」
嬉しそうに三人を手招きして呼ぶ靖恵。

シーン37
「おじゃまします」「失礼します」と三人がその部屋 に入ってくる。三人とも両手を後ろに隠しながら靖恵に近づく。
靖恵の前まできたら、三人が「はいっ」とプレゼントを靖恵に渡す。
靖恵 「ありがとう」
三人からそれぞれプレゼントをもらう。
生徒達と楽しそうに話を始める。

シーン38
主婦・ 「皆さん、写真屋さんがいらっしゃいましたよ」
男性客 「やっと来たか、ほれほれ(ほらほら)話はそれくらいにして、写真を撮ろうじゃないか」
いつまでも、話の尽きない靖恵たちにパンパンと手をたたきながら言う。

シーン39
高砂席を囲むように皆で写真を撮る。
フラッシュがひかり、全体写真が写る。(できれば何枚か撮る)
写真屋 「それじゃあ、次はお2人の写真を撮りましょう」
お客さんたちがはける。

シーン40
写真屋 「お二人さん、もうちょっと近づきましょう」
そういわれて、照れながらそばによる二人。
写真屋 「それではいきますよ」
フラッシュがひかり、2人の写真が写る。思い出の写真。

シーン41
((昭和18年7月))
直行と勇人が2人でふすまの前に立ちソワソワしている。
その前をタオルや、さ湯を持った女の人達がせわしなく動いている。
ふすまの向こう側からは、苦しそうな靖恵の声。
その声を聞くたびに、心配そうにふすまの向こう側にいる靖恵を見つめ、そして、男同士で見詰め合う。
助産師 「もう一回、いきんで、頑張って」
靖恵 「(いきむ)」
その靖恵の声に、驚き、また二人で顔を見つめあう。『おぎゃー』
元気のいい赤ん坊の産声

シーン42
その産声に、一安心する2人。
直行 「やっと産まれたね・・・」
勇人 「はい」
直行 「こうゆうとき、男はダメだね・・・」
勇人 「本当に・・・何をどうすればいいのか・・・」
直行 「ここでこうやって、オロオロするしかできない」
勇人 「本当ですね。落ち着くという言葉を忘れます」
直行 「それに比べて、女性のなんと強いこと・・・」
勇人 「女は弱い、されど母は強し・・・ですかね?」
直行 「それだね、今の時代、実質的に家を守っているのは、私達男ではなく、女性なのかもしれないね・・・」

シーン43
カメラがゆっくりと動き、直行たちからふすまの向こう側を写す。
そこにはお産を終えた靖恵が、ぐったりとしながらも、わが子と共に、安堵の表情を浮かべている。
助産師 「元気な男の子ですよ。おめでとうございます」
靖恵  「ありがとうございます」
助産師 「お名前はもう決められてるんですか?それとも、これから旦那さんとお決めになるんですか?」
靖恵  「いいえ。男の子だったらつけようと思っていた名前があるの」
助産師 「そうなんですか?」
靖恵  「えぇ。直行さんのようにまっすぐ大きく育って欲しいから、 直樹 って・・・」
助産師 「いい名前ですね」
靖恵  「でも、まだ直行さんには言ってないの、内緒にしててくださいね」
助産師 「はいはい」
そういって、助産師は立ち上がり、外で待ている直行たちの下へ向かう

シーン44
助産師がふすまを開けると、直行たちが今か今かと待ち構えていた。
助産師 「おめでとうございます。元気な男の子ですよ。お母さんも元気です」
直行  「そ、それで、あの・・・」
一刻も早く、靖恵と子供のそばに行きたいのか今に
も走り出しそうな格好で直行がしゃべる。それを見て、助産師も噴出しながら
助産師 「もう、大丈夫ですよ。行っても・・・」
その言葉をきくと、助産師を突き飛ばしかねない勢いで直行が靖恵の下に走って行った。
『もぅ』とあきれながらも、嬉しそうにその様子を見つめる助産師

シーン45
靖恵のそばに寄った直行は靖恵を心配しながらも、産まれたばかりの息子に気が行ってしょうがないようだ。
靖恵は抱っこしていた直樹を直行に渡す。こわごわと抱っこする直行。
勇人 「姉さん、おめでとう」
靖恵 「ありがとう」
だんだんとカメラが引いていき、外を写す。

シーン46
直行とその隣で直樹を抱っこする靖恵が直行のお宮参りのため神社に向かって歩いている。
神社について、お参りを済ませる。
直行 「直樹、大変なときに生まれたけれど、元気に育ってくれよ」
靖恵 「直行さんのようにまっすぐな強い男の子になってね」
2人で直行を見る。

シーン47
そこへ崇と小百合がやってくる。
崇  「お宮参りか?」
直行 「あぁ」
小百合は靖恵のもとへ行く。
小百合 「直樹ちゃんだー可愛いね」
靖恵  「ありがとう」
直樹を可愛がる小百合、それを見て
靖恵 「抱っこする?」
小百合 「いいの?」
靖恵 「うん」
そういって、小百合に直樹を抱っこさせる。二人は直樹に夢中
その様子を見ながら崇と直行は話をする。

シーン48
崇  「いいな、息子も生まれて、幸せいっぱいだな」
直行 「おう」
崇  「俺もそろそろ結婚したいな・・・」
直行 「早くしないと、孫も俺のほうが早くにできるぞ」
直行と崇は笑う、その笑い声に気が付いて、靖恵と小百合は何事かと二人を見る。
楽しそうに笑う二人につられて、靖恵と小百合も笑う。
ディゾルブしてカレンダーがめくられる

シーン49
靖恵が夕食の準備をしている。その後ろで直行が直樹をあやしている。
(抱っこしたり、おぶってみたりしてあやす)
時々心配そうに靖恵が2人の様子を伺う。

シーン50
靖恵が野菜を切っているときに直樹が泣き始める。
あわてて後ろを振り向くと、
直行 「どうしよう、泣き止まないよ」
直樹につられて泣きそうな直行
そんな直行にあきれながらも、可愛いなと笑う靖恵
靖恵 「おしめは?大丈夫?」
『おぉ』と思いついたようにおしめの様子を伺う直行
直行 「さすが、お母さんだ、正解!!」
靖恵 「さすがって・・・直行さんもお父さんなんですけどね・・・・」
直行 「そのはずなんだけど・・・」と頭をかく直行。
おしめも取り替えてもらえていない直樹が大きな声でまた泣く
靖恵 「直行さん、取替えお願いします」
直行 「え・・・俺が?」
靖恵 「もちろん、お父さんですから」

シーン51
そういって、靖恵は台所仕事に戻る。
頭をかきながら直樹に向き合い格闘する直行。
その 様子を夕食を作りながら笑顔で見守るやすえ。ディゾルブして、カレンダーがめくられて季節が変わってゆく。

シーン52
((昭和20年2月))
フェイドアウトして画面が暗くなる。
ノックの音がしてドアとノックする直行の手が写る。
直行 「柳瀬、入ります」
上官 「柳瀬か、はいれ」
直行 「失礼します」
そういって、頭を下げて部屋に入る直行。

シーン53
窓の近くに立ち外を眺めていた上官が振り向く
(上官は方から上だけを写す)カットアウトして画面を暗くする。

シーン54
縁側ですやすやと眠る直樹と洗濯物を干す靖恵の後姿。
直行 「ただいま」
靖恵の後ろから直行の声。その声に振り返る靖恵
靖恵 「お帰りなさい。今日は早かったんですね」
カメラは険しい表情の直行を写す。その後心配そうな靖恵の顔を写す
靖恵 「何かあったんですか?」
直行 「明後日前線に移動することになった」
2人のときが止まるが、すぐに直樹が泣き出し、時が動き始める。
靖恵は別れを予感したが、努めて明るく振舞う。
靖恵 「急だから何もないけれど、鯉こくがつくれるかも。
お隣の良雄じいちゃんが池田湖に毎日、鯉釣りにいってるから。聞いてきますね」

シーン55
二人はゆっくりと夕食を終えた。靖恵がお茶を出し、ちゃぶ台の前に座ると、直行が口を開いた。
直行 「鯉を食べると元気が出るというが、これ以上元気になると飛行機より先に飛び出すかもしれないな。
靖恵も少しでも栄養を取って、直樹のために元気な母親になってくれ」
靖恵 「はい。良雄じいちゃんが鯉をとってきては、生き血を飲めって。効くからって」
少し困ったような顔でそう話す靖恵
直行 「ありがたいね。私は幸せだ。こうやって穏やかな時間が過ごせている。私は頑張らなくてはいけないね」
直行がお茶を飲み干した。

シーン56
場面は変わり、翌日。
仕事をしている靖恵に声をかける直行
直行 「少し歩かないか?」
そういって、二人で知林ヶ島に散歩に行く。

シーン57
砂浜に腰を下ろし、二人で話をする。
直行 「少し話しておきたいことがある」知林ヶ島を見ていた靖恵が直行を見る。直行は靖恵を見ていた。

シーン58
直行 「万が一に備え話しておく。この戦争の勝利は危うい。本土決戦ともなれば、女・子供・老人であろうとも敵と戦わなければならない。あるいは、敵の軍門に下ることも考えられる」
靖恵 「えぇ、そうね・・・今回は特にひどいですから・・・」
直行 「靖恵に頼みがあるんだ。何があっても、直樹と共に生き延びて欲しい。私の願いだ」
靖恵は直行の目を見つめて頷いた(見詰め合う)
そして、靖恵も直行に自分の気持ちを伝える。
靖恵 「私も、お願いがあります。直行さんも、何があっても生き延びて。そして、もう一度家族になってください」
直行が優しい声になった。
直行 「靖恵ならきっと大丈夫だね。そうだ、一つ約束をしよう。小さい頃、知林ヶ島へ渡るあの砂の道でよく遊んだね。覚えているかい?」
靖恵 「えぇ、覚えてます。特にあの時のことは忘れられません・・・」

シーン58
((直行と靖恵の子供時代・夏))
海から空を写し、再び砂浜へ。
そこには小さいころの靖恵が泣いている。靖恵の服はぬれている。靖恵に直行が近寄ってくる。
直行 「靖恵、どうしたの?」
泣いている靖恵を心配して声をかける。
靖恵 「私の、大事な・鈴が・・・」
泣いているため、途切れ途切れ話す靖恵。
どうやら、戦争に行った大好きな兄からのプレゼントだったようで、毎日身につけていたようだ。
泣く靖恵をなだめるように
直行 「よし、俺が見つけてやるからもう泣くな。な?」
靖恵 「でも、もう、いっぱい、探したんだよ。もう、っと、探したんだよ、みつからないよ」
ヒクヒクと泣きながら直行と話をする靖恵。それをみて困り果てる直行。
直行 「でも、一人では見つけられなくても、二人でなら見つけられるかもしれないよ?」
泣いている靖恵に笑ってほしくて一生懸命に励ます直行
靖恵 「ほ、ほんと?」
直行 「うん。一緒に探そう」
そう言って、鈴を探す直行。それを見て、涙を拭いて靖恵も探し始める。

シーン59
いくら探しても見つからない鈴。必死に探す二人
だが、日が落ち暗くなってきた。
直行 「靖恵、今日はもう帰ろう。暗くなってきたし」
靖恵 「でも、あれはお兄ちゃんからもらったものだから・・・」
そういってまた泣き始める靖恵。そんな靖恵を見て直行は
直行 「わかった。後は俺が見つけておくから、靖恵ちゃんはもう帰りな。みんなが心配するから」
靖恵 「でも・・・」
そういって帰ろうとしない靖恵。
直行 「大丈夫だから、俺が見つけてちゃんと靖恵に届けるから。ね」
靖恵 「うん。わかった・・・」
直行 「一人で帰れるか?」
靖恵 「うん・・・」
直行 「じゃあ、もう少し探してから俺は帰るから、ちゃんと家にまっすぐ帰るんだぞ」
靖恵 「わかった・・・」
    
泣きながらその場を後にする靖恵。それを見送りまた鈴を探し始める直行。
その様子を遠くからカメラで写し、フェイドアウト

シーン60
場面は変わり、地林ヶ島の砂浜。道は出ていない。
そこに一人で立って海を見ている直行。そこへ笑顔の靖恵が走ってくる。
靖恵 「直兄ちゃん、見つかったの?」
その声に振り返る直行。直行の目の前で止まる靖恵。
靖恵 「ねぇ、どこ?」
そういって笑顔を見せる靖恵に直行は
直行 「靖恵、目を閉じて」
きょとんとしながら直行をみる靖恵。
直行 「いいから、目を閉じて」
静かに言い聞かせる直行に不思議に思いながら目を閉じる靖恵。
直行 「耳をすませてごらん・・・」

シーン61
不思議に思いながらも耳をすませてみる靖恵。
風が吹き、クロマツ林の葉が揺られこすれ合う
直行 「クロマツ林の葉の音が聞こえるかい?」
直行も目を閉じる
靖恵 「うん」
しばらく二人でその葉音と波音を聞く。
最初に口を開いたのは直行
直行 「どうして知林ヶ島って言うか知ってる?」
靖恵 「どうして?」
目を閉じたまま靖恵が口を開く
直行 「クロマツ林が浜風に揺られて葉チリンチリンとこすれ合うからなんだよ」
靖恵 「へぇ〜」
と納得し、もう一度その音に耳を澄ます靖恵。

シーン62
その葉の音に重なり鈴の音が聞こえてくる。それに気がつき靖恵が目を開ける。
目の前には探していた鈴があった。
靖恵 「わぁ。直兄ちゃん見つけてくれたんだね」
そういって受け取り満面の笑みを浮かべる。そんな靖恵の笑顔を見て直行も微笑む。
直行 「ずいぶん探したんだぞ。波にずいぶんさらわれたみたいで、遠くまで流れていたけど、うまいこと岩に引っかかってたよ」
靖恵 「ありがとう、直兄ちゃん」
嬉しそうに靖恵は鈴を大事に胸元で握り締めた。
それをみて微笑み、海を見つめ目を閉じて耳をすます直行。
それを見つめる靖恵
その顔が若い靖恵の顔になる。

シーン63
靖恵 「あの時、私は直行さんに恋をしました。大切な場所です」
靖恵は泣きそうな顔で話す。
直行 「あそこは美しい場所だ。そして、思い出の場所でもあるね。あの砂の道で再会しよう」
あふれる涙をこらえながら無理に笑い直行を見つめ話す靖恵
靖恵 「分かりました。必ず生き抜いて、砂の道であなたを待ちます。あなたが戻ってくることを信じて。だから、再会したときには、必ず誉めてくださいね。直行さんの言葉と、気持ちを信じて頑張って、頑張って・・・」
涙が止まらなくなる靖恵を直行は優しく抱きしめる
直行 「あぁ、約束だ。必ずここに戻ってきて、靖恵をほめてあげるよ」
少し強く抱きしめ、そして直行が続ける
直行 「でも、靖恵はおっちょこちょいだからな。忘れるかも」
そういって冗談を言う直行に少し笑みを浮かべ
靖恵 「まぁ、ひどい人。再会したときにはうんと誉めてもらわなきゃ。絶対に忘れたりしないもの」
そういって笑いあう二人。
靖恵 「そうだ、直行さんが信じられないならこれを持っていってください」

シーン64
そういって靖恵は、ポケットから鈴をチリンッと取り出す。直行が見つけてくれたあの鈴だった。
直行 「これは、靖恵の大好きなお兄さんからもらった大切なものだろう?」
靖恵 「でもいいの、再会したときに返してもらうから」
直行 「それじゃあ、帰ってこないわけにはいかないね」
靖恵 「えぇ。必ず帰ってきてください。約束です」
涙ぐむ靖恵。直行の胸に顔をうずめ、小さな声で言った。
靖恵 「今日は、ずっとこうやっていてください。」
夕焼けに2人のシルエット

シーン65
いつものように、夕食をすませ、家族三人でゆっくりとした時間を過ごす。
靖恵は、直行の翌日の準備をしている。かばんに荷物をつめたり、洋服をたたんだり。
直行は、直樹と一緒に遊ぶ。

シーン66
布団を敷き、布団に入る(直樹は靖恵の布団にいる)
直樹はしばらくすると眠るが、靖恵は眠れずに何度も寝返りをうつ。
それに気がつき直行が声をかける。
直行 「靖恵、眠れないのか?」
靖恵 「えぇ・・・」
直行に背を向けたままの靖恵が泣き声で答える。
直行 「靖恵、こっちを向いて」
靖恵 「嫌よ、ひどい顔してるから」
直行 「お願いだよ・・・」
それにゆっくりと答えるように直行を見る靖恵
泣いていたせいで目は真っ赤。
靖恵 「ひどい顔・・・」
直行 「本当だ」
そういって直行は穏やかな笑顔で笑う。
靖恵 「ひどい・・・」
そういって、靖恵も無理に笑顔を作る
直行 「靖恵、覚えてるかい?小さい頃から一緒に遊んだね」

シーン67
直行の顔からディゾルブ(映像が重なる)して直行、
靖恵の小さい頃の映像や、結婚式、出産時等の映像を流す。
その映像からディゾルブ(映像が重なる) して直行の顔を写す。

シーン68
直行 「いろんなことがあったね」
靖恵 「えぇ・・・」
靖恵を見つめる直行。靖恵は天井をジーっと見ていたが、直行の視線に気がつき靖恵は直行のほうに向き直り、笑顔を向ける。直行も微笑む。直行の笑顔を見て、安心する靖恵。
直樹がぐずる。

シーン69
隣に寝ていた靖恵が直樹のほうに体を向ける。授乳する。
一生懸命なため、後ろの様子に気がつかない靖恵。

シーン70
直行の声 『靖恵、必ず、直樹と生きのびてくれ・・・
靖恵、愛している』暗い画面の中、靖恵と直樹のすがた。その後ろで直行が布団を静かに抜け出す。
(よく見れば分かるような映像)

シーン71
直樹を寝かしつける靖恵。なかなか寝ずに困っていたが、やっと落ち着き直樹が寝る。
靖恵 「直樹も分かるのかしら、やっと寝てくれました」
そういいながら、直行のいたほうを見る。直行の姿がないことに気がつき、あわてて布団を飛び起き、直行の名前を呼びながら家中を探しまわる。

シーン72
靖恵 「直行さん・・・なおゆきさん、直兄ちゃん」
靖恵の声に直行の両親もおきてくる。
直行の母 「どうしたんですか?靖恵さん」
直行の父 「いったい、どうしたんだ」
靖恵   「直兄ちゃんが、直兄ちゃんが・・・・」
直行の父 「直行がどうしたんだ・・・・」

シーン73
部屋の周りをカメラが写して、直行がいないことを見せる。
状況を察して、三人で直行を探すも、直行の姿はどこにもいない。
玄関に走っていくと、準備していた荷物と直行の靴が無くなっていた。
それを見た靖恵は声を上げて泣いた。

シーン74
ひとしきり泣いた後、呆然と座り込む靖恵。

シーン75
アップの航空機の車輪、もしくは飛行機のフロートがアップになり、爆弾が爆発し、車輪が吹き飛ぶ。
周りは真っ赤な炎があがり、男達の怒号、女子供の泣き叫ぶ声が聞こえる。
その時、滑走路が爆発し、冒頭で子供達がペットボトルを拾ったところにあった形にコンクリートが砕ける。

シーン76
空襲警報が鳴り響き、その音に、びっくりした直樹が泣き出す。
直樹の泣き声でハッと現実に戻る靖恵。
急いで直樹のもとへ行き、避難の準備を整える。
(直行の母に直樹をおぶさるのを手伝ってもらう様子など)
非難袋を抱きかかえ、外に飛び出す靖恵。周りは火の海。
周りにも逃げ惑う人々。

シーン77
家が燃える様子と外の様子を見つめ、そして、覚悟を決めて、つぶやく、
靖恵 「必ず、ご無事で」
(カメラはしっかりと靖恵の顔を写す)
そして、逃げる人達と同じ方向へ走っていく靖恵。
遠くに、靖恵が見えなくなるまで(カメラを固定したまま)その後姿を写す。

シーン78
ディゾルブ(映像が重なる)して現在に時間が戻る
話を聞いていた志保が涙ぐむ。砂の道は消えていた。
その時、風が吹いて孫娘が持っていた二人の写真が飛ばされる。

シーン79
あわてて写真を取りに走る孫娘。それを振り返り心配そうに見る靖恵

シーン80
風で松が揺れている映像。
だんだんスローモーション(?)
かすかに、鈴の音。だんだんとはっきり聞こえてくる。

シーン81
その音に気がつき、振り返る(砂の道の方向を見る)靖恵
消えていたはずの砂の道に写真を撮ったときと同じ砂の道ができていた。
そこに人影
(逆光で誰だかわからない)
すると、かすかに靖恵の名を呼ぶ声がする。
直行 「・・・え、やす・・・やすえ・・靖恵・・・」
(少しずつはっきり聞こえてくる感じ)
シーン82

靖恵のアップ
まぶしそうに、手で影を作りながら目を凝らしてその人物を見る靖恵。

シーン83
アップから、ひくと靖恵は、いつの間にか砂の道の中央にいる。
その人物が靖恵に向かって歩いてくる。だんだんとその顔が明らかになる。
あの時のままの直行(家を出たときの姿)だった。
靖恵 「な、なおゆきさん・・・」

シーン84
そういって、靖恵が直行に近づいていくと、靖恵も若い頃の自分に戻っていく。
直行が先に声をかける
直行 「だいぶ遅くなってしまった。やっと会えたね」
そういって優しく笑う。その笑顔を見て、靖恵も直行であることを確信し微笑む
靖恵 「ちゃんと守りましたよ。ずっと待ってたんですから(言葉にならない感じで)」
そういった靖恵の表情はいたずらっ子の顔つきだった。
その表情をみて『ハハッ』と声を上げて笑う直行
直行 「そうだったね。すっかり忘れていたよ」
靖恵 「まぁ、アレだけ私が忘れてしまうんじゃないかっていってたくせに、直行さんのほうが忘れてしまうなんて、本当にひどい人」
直行 「ごめんごめん。ちゃんと覚えていたよ。だから、こうして誉めにきたんじゃないか」
そういってまた二人で笑いあう。

シーン85
直行 「そうだ、まずはこれを返さないと・・・」
そういって、直行は胸ポケットに手をいれ何かを探す。
『あっ、あった』と言うような表情をしてから。
直行 「靖恵、手を出して」
靖恵が手を差し出すと、直行が靖恵から預かっていた鈴をチリンッと取り出す。
靖恵 「やっと戻ってきました。ありがとうございます」
大事に両手にしまい、胸元にその手を持ってくる。
靖恵 「この鈴も、直行さんも長い長い旅でしたね」
直行 「そうだね。でも、何も変わってないよ。この風景も、私の気持ちも」
靖恵 「そうですね。私も変わっていません」
直行 「じゃあ、そろそろいこうか」
靖恵 「はい」
そういって2人は抱き合う。

シーン86
2人の後ろには休んでいる靖恵の姿。眠っているかのように力なく座っている。
だんだんと靖恵に近づく。靖恵の顔のアップ。
表情は幸せな笑顔。
カメラは徐々に靖恵の手元に。
靖恵の手には、直行から返してもらった鈴が握られている。
カメラが引く

シーン87
後ろから写真をひらひらさせながら志保が靖恵に向かって走ってくる。
二人から離れながらの映像のまま、音は徐々に切っていく。静かな中に鈴の音。

シーン88
靖恵の手のアップ。靖恵の手から滑り落ちる鈴。
砂の間(石の間)にゆっくり(スローモーション)で落ちる

シーン89
映像フェイドアウト
画面が暗くなり、もう一度
チリンと鈴の音(エコーをきかせる?)
エンディングが流れる。