6 フラクタルについて

 フラクタル(fractal)は,フランスのマンデルブロー(1924)によって提案され
た概念で,ラテン語のフラクタス(fractus:意味は断片的)を語源とした造語であ
る。簡単な例をあげれば,川の全体図形は支流部分と形態が(折れ曲がり方など)
非常に似かよっている。また海岸線など,地図上でも入り組んでいるが,実際に
人間の眼で見ても同じように入り組んでいる。波打ち際だけに注目しても,同じ
ように複雑な曲がり方をしている。更に,シダやカリフラワーなどの植物は,全
体と相似な形から各パーツが出来上がっている。

 このようなフラクタルという概念は,普段一般的に取り扱う放物線や直線と違
って,ある種,非現実的・非常識な印象を受ける。しかしこれは私たちが,理想
的なものしか取り扱っていなかっただけに過ぎず,マンデルブロー自身がそこか
ら発想したように,自然界にはむしろ直線で表せるものよりも,複雑な構成をし
ているもののほうが,現実的・常識的に存在しているのである。

 マンデルブローは,こうしたことを次のように言っている。
  「雲は球形ではないし,山は円錐形ではなく,海岸線は円周とは違う。
 樹皮は滑らかでなく,稲妻は直線的には伝わらない。」

 次にフラクタルの図形として有名なものを挙げてある。百聞は一見にしかずで,
見れば不思議な図形であると理解していただけると思う。これらのいたるところ
で,自己相似な図形が見えてくることが分かる。ただし,厳密に言うと,フラク
タル=自己相似ではなく,左のように有界ながら無限の長さを持つなど,次元の
考えを用いて論じる必要がある。ちなみに,全出のコッホ曲線のフラクタル次元
は,約1.26……である。
 また,有名なものに,マンデルブロー集合・ジュリア集合といわれる興味深い
図形(下図のとおり)があるが,これは別の機会で紹介してゆきたい。マンデルブ
ロー集合については,以前NHKテレビで「知の世界」と題して紹介されたこと
がある。

  図1 マンデルブロー集合 


 図2 ジュリア集合


 このジュリア集合は,f(z)=z^2+aという簡単な複素力学系の2次関数
で表される。ジュリア集合とマンデルブロー集合とは,密接な関係を持ち,簡
単に言うと,ジュリア集合がどのような形になるかを,マンデルブロー集合が
決定している。ジュリア集合は,aに適当な複素数(実数でも純虚数でもかま
わない)を代入し得られる図形である。最も単純な例で言うと,a=0の場合
は原点中心の円になる。上の図は,a=−0.12+0.74iで描いてある。




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