平成25年度 九州算数・数学教育研究大会(鹿児島大会)

 

研究発表 当日配布用資料

 

 

 

平成25730()

 

高 第D部会 数V・C

 

『グラフを解釈する授業実践』

 

〜郷中ゼミの授業を,パソコン・プロジェクターを利用して行ってみて〜

 

 

 

 

 

 

 

どうぞのゆきお

鹿児島県立鹿児島中央高等学校 堂薗幸夫

 

http://www.synapse.ne.jp/dozono/

dozono@po.synapse.ne.jp

 

 

 

 

 

 

 

高 第D部会 数V・C

『グラフを解釈する授業実践』

 

〜郷中ゼミの授業を,パソコン・プロジェクターを利用して行ってみて〜

 

 

鹿児島県立鹿児島中央高等学校 堂薗幸夫

 

 

1.はじめに

 昨年度(平成24年度8月)に,郷中ゼミという講座を担当した。講座の内容は,グラフの解釈に関する素材を中心に,パソコン・プロジェクター等を活用する授業であった。意図したことや,当日の授業内容を振り返りながら,その効果などについて実践報告する。

 

 

 

 

2.郷中ゼミとは

 郷中ゼミ(ごじゅうぜみ)とは,鹿児島県内の公立高校に生徒募集をし,授業を行う課外講座の総称である。講座の目的としては,鹿児島県内の3年生で,特に難関大学を希望している意欲的な生徒を募集し,今まで目に触れる機会の少なかった入試問題に取り組ませることによって,お互いに切磋琢磨し,互いのレベルアップを図ることである。鹿児島県高等学校進学指導ステップアップ研究会の事業の一つであり,平成19年から続いている。今年度は約100名の生徒が集まり,英語,国語,数学,物理,化学,生物の講座が開設された。担当する教師は,担当校の職員に限らず,県内の多くの学校から10名以上選ばれる。そもそも「郷中(ごじゅう)」とは,江戸時代において同じ区域の青少年の錬成を目的とした団体のことで,そこで行われた薩摩藩独特の青少年教育を「郷中教育(ごじゅうきょういく)」と呼んでいた。ここでの教育は,次のような特徴があった。

(1) 実践的な教育,そして学んだことを実践する教育

(2)  地域社会が自発的に実施した集団教育

(3) 異年齢集団による教育で,教えるものも教えられるという教育

(4)  こうした鍛錬教育によって多くの人材を送り出し,それらの人物が明治維新で指導的な役割を果たした。

            (鹿児島大百科事典より)

 

3.機器の活用に関して

 例年の授業では東大などの問題を課題として出題し,それらを実験的な教具などを利用しながら解説していくといったスタイルであった。最初は同様の展開を考えたが,私は発想を若干変えて,広く浅く“グラフ”について取り組んでみようと考えた。プリントを配布しても構わないが,大量のものは講座の性質上馴染まない。そのため,「その場でぱっと出して,ぱっと消えるもの」=パワーポイント的な画面表示を意識した。グラフもPCを利用し,美しく即時性あるものを出せるはずであるとの目論見であった。実際の授業において,PCや視聴覚機器をどのように取り入れていくかを模索した。

4.実際の授業

(1) 授業展開

 「次のグラフを見て,どのような式が想像できるか。またその理由を答えよ。」といったプリントを1枚配布し課題とした。「この式はどのようなグラフがかけるか?」という授業は受けているはずだが,グラフから式を導く授業は,今まで経験が無いと思われた。ポイントとしては,想像力を豊かにさせ,思考を融合させたいとの考えがあった。

   

  授業中はPC2台利用し,パワーポイントで次々に解説を加えながら,もう1台でGRAPESを起動させ,グラフを生中継の形でかき上げて行った。(当日はその日の動画提示予定)

(2) 生徒の感想

  いつも見ているグラフを様々な視点から見ることができ,とても楽しかったし,いい復習になった。

  今までしてきた数学が一変した!!字面,式を追っかけて答えを出していた。これからは,式でどのようなグラフが描けるか,”数学的センス”を身につけたい。

  グラフの和,積,逆数の形など,今までほとんど意識したことがなかったので,おもしろかった。まだあまり身につけていないのでしっかり復習したい。

  逆数のイメージというのが新感覚でした。

  グラフに関する知識や学力はとても有効であるということはわかったが,特定の例を紹介するだけでなく,細かい考え方もちゃんと説明してほしかった。

 

5.今後の課題

 特に最後の感想の生徒の記述にあるように,表面上を浅く広く行ったため,もう少し深めることが必要であったと感じた。内容の深化と機器の活用に更なる習熟が必要である。

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1.事前に配布した課題プリント

 

 

 

2.はじめに

郷中ゼミで以下のような授業をさせていただく機会に恵まれた。(昨年の平成248月に実施済み)。それは,グラフを先に提示しておき,その関数の表す式を想像しようというものであった。

今回のこの発表では,1年前のその授業を振り返りながら,グラフをテーマにした授業というものが,どのような目的で,どのような機材を用いて展開したのかを報告する。

当然ながら,生徒たちは,「この式はどのようなグラフを描くだろうか」ということは経験済みであろう。あえて,その逆をやってみることで,答も一意ではないが,どのような思考をすべきなのか,どのような概念が大切なのかを考えてもらいたいということを意図した。また,一部の生徒たちにおいては,グラフがそれぞれ独立しており,思考が断片的になり,次に何につながっていくのかを通常あまり考えることがないのではないか,という仮定から,「こういった考え方がこのように利用される」ということを提示することで,さらに理解は深まるのではないか,との意図もあった。

 

 

 

3.定義域の重要性

グラフがどのエリアにかかれているかで,xの範囲が自動的に定まってくることがある。例えば,定義域が,x>0や,x≠0など。

「グラフの描かれている場所」=「定義域」を意識することで,対数や漸近線への理解が深まると考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4.漸近線の視点,和・積の感覚

 

グラフの見方は,細かく見ることと,おおざっぱに見るということの両面が必要であると考える。細かく見ることももちろん大事だが,社会生活においては,むしろマクロな視点が意味を持つことが多い。局所のみならず,広い視点を持たせたい。そのためにスケールを引いた視点をあっという間に与えてくれるGRAPESは活躍した。

このグラフでは,x→∞では,ほぼy=xに近づいており,x→0では,y=1/xのグラフに近づいているという感覚を持たせたかった。また,2つのグラフの和や積という感覚を持たせるのも重要であると考えた。和については,相加相乗平均との関係などに触れたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5.特徴的な点を見抜く

おおざっぱばかりではなく,細かく見るということも当然意味あることである。まず,特徴的な点,つまりx=0やy軸切片や,x軸と交わる値などを見抜くことが,検算的な意味をもち,重要である。グラフの基本的かつ総合的な感覚を養おうと考えた。

頂点や極値の意味することは何なのか。増減の変化する部分。凹凸の変化する部分などについて話題にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6.y=1/xの逆数の感覚

「逆数の感覚」というものは,あまり語られることは少ないと思われる。

ある値を逆数にすると,1の前後で大小関係が入れ替わる。つまり「大きい方が小さい」のような極限の発想につながる。

逆に「小さい方が大きい」ということは,x→0の場合の,発散の考え方そのものであり,グラフを想像するときに意味あるものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7.数学Vの頻出関数

eの関数やlogの関数などは頻出である。基本形はもちろん理解されているだろうが,その基本関数が,積の形,和の形に変形したとき,または組み合わさったとき,どのような挙動を見せるのかは想像しなければならない。つまり単発的思考から複合的視野を持つことにつながる。

しかし,これを想像することは難しい。当然だが記憶も大切である。

理解を深めることが今回の目的であったが,覚えることを否定しているわけではない。代表的な関数は,式と形とが一体化して頭の中に整理整頓された状態で残してほしい。そのためには今回の授業が,カタログのような存在になってくれれば良いだろうと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8.当日の動画

当日撮影した動画をご覧いただき,解説を加える。実際にどのような授業を行ったのか,動きのあるグラフやスライドがどのように活用されたかが一目瞭然である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9.パソコンの利用について

 

パソコンの利用について触れておく。右の手書き図は,会場校との打ち合わせの際にFAXでやり取りをした資料である。当初から,パソコンを2台利用して解説と実際のグラフを素早く描くというスタイルを意識していた。大量のグラフと動的なグラフ,複合的な視野は,黒板一枚だけでは到底難しいものである。

正解が一つに絞られないようなこのような出題で,特に生徒からのユニークなアイデアが出た際にすぐに実際に意見を拾い上げ,形にするためには,PCは不可欠であるし,実験してみることに意味があるだろうと考えた。

考えるべきポイントなどもあらかじめまとめておいたので,それを板書するわけではなく,スライドの形で説明していった。そうすることで,時間短縮が図れ,限られた時間内に多くのグラフを見せることができた。

解説しているパワーポイント用PCは,タブレットPCである。複雑な操作は必要なく,タップするだけで次のスライドに移るだけの操作であるため,マウスのように握る必要もなく,画面全体がボタンの感覚でほとんど無意識に使える。もう一つのPCは,画面にGRAPESを描き出し,直接チョークで書き込むことが出来る。こちらは,数式入力など複雑な操作が必要である。そのため,通常のキーボード付のノートPCである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10.生徒の感想

授業終了後に,受講した生徒からアンケート回収をした。その中で数学に関する回答を拾い出したものが,下記である。まだまだ充実,精選すべきであったと反省している。生徒諸君,<m(__)m>ゴメン。

 

【郷中ゼミの生徒感想】

・いつも見ているグラフを様々な視点から見ることができ、とても楽しかったし、いい復習になった。

・グラフにおいて、今まで習ってきたことをどれだけ組み合わせて解けるかが大事だと思った。

・グラフの問題は、大学入試で課される問題のアプローチの仕方の発見へつながる大事なものだとわかった。

・一つの視点にとらわれず、さまざまな視点から問題を見ることが大切だとわかった。

・視点を変えるということを学んだ。一つの見方からではなく、あらゆる見方で問題を見て、自分で答えを出していくことが大切だなと思った。

・いろいろな視点で問いに取り組み、気付く力を身につけなければならないと感じた。

・グラフでの考え方も大事だということがわかった。

・「数楽」を心がける。本当の理解を求める。グラフを動く形で視覚でとらえられてイメージしやすかった。

・今までしてきた数学が一変した!!字面、式を追っかけて答えを出していた。これからは、式でどのようなグラフが描けるか、“数学的センス”を身につけたい。

・色々な考え方をすることで問題を解く手がかりが得られるとわかった。数学は楽しいと思った。

・グラフの授業では、ぱっと発想する力が大切であると感じた。また時折冗談も交えた退屈しない授業だった。

・グラフがとてもおもしろくなった。事前課題を解くに当たって、最後まであきらめないという考えの大切さが身にしみた。数学がとても楽しくなった。

・事前課題が難しくてあまり解けなかったが、授業をきいていると、様々な解き方があり、視野を広げることができた。

・型にはまらない考え方で、もっと頭をやわらかくして楽しんで解く。

・グラフの形から式を考えるという新しい発想がおもしろかった。

・聞いてみるとなるほどと思ったり、自分とは違う解法も知ることができ充実していた。授業もおもしろく、とても楽しんで受けることができた。

・図形的見方が自分にはまだまだ足りないことを実感することができた。二人の先生方の授業はとてもおもしろかった。授業をうけていて楽しかった。

・色々なグラフについて考える良い機会になりました。

・頭を柔らかくしていろいろな考え方で解く。

・グラフのことで新しい見方ができるようになった。

・グラフの授業は普段はできないパソコンを使った授業で楽しかったです。また、問題を解くとき、自分でやるのがどれだけ大切なのかあらためて実感し、これから数学に対する心構えを変えようと思いました。とても楽しい講座でした。

・周囲の人が予習を解けていたのに対し、本当に尊敬の念を抱きました。グラフの授業では、こんな考え方をするのか!ととても驚き、一番良い刺激をもらえた教科であったと思います。もっと基礎力をつけ、色々な考えをもてるようにしていきます。

・発想の転換、視点を変えて考える。

・どれだけ基礎ができるかと、問いへのアプローチについて悩み続けることが大事なのだと学んだ。

・形にとらわれずに考えることの大切さがわかった。いろいろな方法で深く考えて、自分なりの答えをこれから解答では作っていこうと思った。

・グラフの和、積、逆数の形など、今までほとんど意識したことがなかったので、おもしろかった。まだあまり身につけていないのでしっかり復習したい。

・図形、確率は今までにないほど考えた。答えは出なかったが、その考えるプロセス、着眼点のポイント学ぶことができ、これから自分の数学の解き方を見直そうと思った。

・数楽。まったく知らない先生の授業を受けて緊張したが、いい意味で集中できた。「答え」までのプロセス、考え方の根本が大事だと思った。

・普段と違った視点から問題を解いた。二次の解答力のみがき方がわかったような気がした。

・グラフを考えることで見えてくることがある。

・型にはまっていないものを自分で考え答えを出すことで力がつく。

・グラフの考え方、イメージ

・逆数のイメージというのが新感覚でした。

・式からグラフを推測する作業をこれから活かしていきたい。もう少し深く説明してほしかった。

・とてもシンプルな問題を多角的に考察し、自ら考えていく過程や、コンピュータでなければ再現できないようなグラフなど、日頃の授業では学べないようなことを分かりやすく学習できてよかった。

・グラフのイメージの授業はとても面白かった。今まで知らなかった考え方も知り、グラフを描くことに対して、楽しみが出てきそうだ。

・パソコンのソフトを使ったり、実際に求める図形を使ったりしたのでイメージが持て、これから役に立てそう。

・グラフの問題はいつも考えないようなところまで考えさせられた。これから先に生かしていきたい。

・グラフの直感的なイメージを少しはつかめるようになりました。深いところまで知れたのでためになりました。

・グラフに関する知識や学力はとても有効であるということはわかったが、特定の例を紹介するだけでなく、細かい考え方もちゃんと説明してほしかった。

・楽しく授業を受けられた。

・とても難しかったです。けどとても面白かったです。もっとこのような問題を解きたいと思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11.まとめ

カタログ的に,更にパソコンを利用して,パラパラと雑誌をめくる感覚で広く浅く授業展開をした。生徒の反応は前述のとおりであった。もう少し深く入り込んでもよかったのかもしれない。しかし,今回のような単発の授業コマでは,連続性を持たせるよりも,むしろ様々なものをどんどん出していった方が,普段受けることのない授業展開になるだろうとの予測もあった。

数学は論理的な学問であるが,実験的な要素も持っているということを生徒たちが理解してくれて,柔軟な思考を展開していってほしいという願いを込めた授業でもあった。ひょっとすると昨今の数学離れは,数学の楽しさを伝えきっていないことに基づく「暗記モノ」数学に遠因があるのではないだろうか,との疑念がこの講義の発端だったかもしれない。先生方からの御意見・御感想を頂戴したいと考えている。

なお,今回のこの資料も,昨年実施した授業の資料も,私のホームページに掲載してある。もう少し詳細なものを見てみたいなどと興味を持たれた方は,Googleで「DOZONO」と検索していただくか,「動的数学」などのキーワードで検索していただくとヒットする。

http://www.synapse.ne.jp/dozono/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12.参考資料

大学への数学別冊

 「微積分 基礎の極意」

「関数のカタログ」

GRAPESパーフェクトガイド」

 

2013.7.30

 

 

当日配布したこれと同じ資料はこちらから(PDF化してあります)