平成22年度(2010)  九数教(佐賀)大会      レポート

第64回九州数学教育会総会並びに九州算数・数学教育研究(佐賀)大会レポート
 

期日:平成22年7月26日(月),27日(火),28日(水)

研究主題:「『がばいわかった!』学ぶよろこびをはぐくむ算数・数学教育」

http://www.saga-ed.jp/workshop/h22sagam/

久しぶりに九数教大会に参加してきた。
鹿児島の県数教大会には毎年のように出席はしていたのだが,九州大会は気がつくと数年ぶりであった。他県の状況の報告や,多くの先生方の様々な研究に,いつものごとく自分自身の取組を反省させられるような,しっかりせねばならぬ,と考える3日間となった。簡単な備忘録程度になっているが,写真とともにレポートし,記録をしておく。

1日目26日(月) グランデはがくれ

15:00〜16:00 算数・数学教育研修会 講演 「数学の小中連携について考える」

 佐賀大学教授 井上先生

 魔方陣をテーマに研究授業をされたそうで,昔と比較すると,「答がでたら終わり」または取り組みが悪い児童も多い,といったことを報告された。特に,「答えが出ればよい」という風潮は我々も往々にして感じている事で,どのように考えさせるか,じっくりと時間をかけて考える事をさせるべきであろうという感を強く持った話題であった。

2日目27日(火)佐賀市文化会館・佐賀北高等学校

9:00九州数学教育会総会
9:30歓迎アトラクション 佐賀県立牛津高等学校 じゃんべ部

 総勢3〜40人であったろうか,熱い部活動なのだろう,女子生徒が民族衣装を身にまといリズムを刻む姿は,最近の若い子らは元気が無い,などと言ってはならないなと感じた。はねとめの書道や,吹奏楽,TVで見た大阪のチアリーディング部の生徒たちの様子など,活気のあるところには活気があることを忘れてはならない。 

10:10全体講演「『生きる意味』の不況を越えて 数学は人を幸せにできるか」
 東京工業大学准教授 上田先生
 ご自身の出版された「生きる意味」の新書をテーマに,数学は人を幸せにできるか,という刺激的なタイトルでの講演であった。なんでも,解けない数学の入試問題の夢を見るそうで,それだけトラウマ?を作ってしまった数学に問題を投げかけたそうである。そんな経験は誰にでもあることだろう。しかし最近の人たちは,重い荷を背負って生きているような人も多くなってきているようで,「癒し」の必要を説かれたご自身の体験や経験などから,鋭い角度で分析をされていると言う印象を持った。最近の大学生の自己紹介には,自分を表さない自己紹介が見られるようになってきたそうで,「どこにでもいる普通のひとで〜す」という自己紹介ではない自己紹介があるそうである。無色透明の他人とのかかわりに一定の距離を置くのか,または,個性を出しすぎて煙たがられないような一種の自己防衛なのか,これに関しては,プレゼンテーション能力なども問われる昨今では,我々のなすべき事は何なのか複雑な気持ちを感じた。

11:30高等学校部会 部会講演「数学的活動の理念とそれをめぐる問題について」
 埼玉大学教授 岡部先生
 最初はパズルからの導入であった。学生に作成してもらったそうだが,厚紙とセロテープでできたパズルが会場の先生方(200個ぐらい?)の分が配られた。環の形状のものを回転させ,表裏をひっくり返すという作業だったがなかなかできない。頭を柔らかくして,しかし手順として数学的な観点を忘れずにという頭の体操的な,また手も使うので眠くならない!というスタートから,立体の体積の話題に進んだ。六角柱を組み合わせた立体図形の体積を求めながら錐体になると体積の3分の1となることを,平均の考え方・中点・重心などから非常に分かりやすく展開された。数列の和を求めさせる問題においても,対称性や美しさを追究することでエレガントに解けるというお手並み拝見的,スッキリ解決的な問題を多く出された。楽しむ数学,深く追求する数学なのだろう。ルービックキューブのようなパズルには興味があり,何種類も持っているのだが,この厚紙パズルは自作してみようと考えた。

14:00分科会発表 午後からは会場を変え佐賀北高等学校
 分科会が4コマ準備されており,同時に6会場程度で行われているので,24本の研究発表であった。聴きたいものがたくさんあるのだが,この時間はいつもどれを聴こうか悩んでしまう。結局,「図形と方程式の理解」「非回転体の切断による体積」に関する報告と「微分積分の取り扱い」の話題,「大学入試問題と他教科との関連」の4本を聴いた。他にも,学ぶ力,中高一貫,立体図形,数列の指導,中高の橋渡し,学ぶ力,学習習慣の改善,など興味深いものがたくさんあったが,九数教の部会誌での報告を楽しみに待つこととしよう。聴く事ができた「非回転体」の発表では,きゅうりの切断による実験的具象物を使って体積の具体的なイメージ化を図ったという印象に残る研究が面白かった。調理室で数学の授業をし,終了後は塩で食べ,生徒の感想には味噌が欲しかったとあったそうである。私もコンピュータを使って立体図形のイメージ化をやったりはしているが,それでは具体的に手に触る感覚がないので,やはり実際の切断などは,深い意味があると感じた。いつかまねてやってみたいところである。「他教科との関連」の発表では,私も知識として知っていた,家庭科の洋服の型紙の肩の部分がサインカーブになっていることを補足した。数学だけではなく,理科や英語との関連は生徒にとっては自然な理解ができるだろうと感じた。九州各県から来られた先生方の積極的な発言や,やったことの無い実践報告など,いつも参考になり刺激を受けっぱなしである。

3日目28日(水)佐賀県立到遠館高等学校において公開授業

 3日目はまた会場を移して,実際の授業である。1,2,3年生で4クラス分準備され,それも到遠館高校だけでなく,佐賀西高校の先生が,生徒とともに到遠館高校に来て授業を受けたり,他に佐賀女子高校,佐賀北高校の4校4クラスの授業が展開された。その学校だけの負担ではなく,佐賀県にとっても負担を分担し,他県の先生方にとってもいろいろな学校の授業を見ることができ,非常に良かった。授業をされた4名の先生方には大変ご苦労だったろうと想像に難くないが,生徒もクラス数以上の先生方に注目される授業は印象に残るものだったろう。

私は,3年生の佐賀西高校の数学V積分の演習 東京大学の2007年の問題を利用した授業を参観した。
証明問題における積分計算を図形的面積での処理させる,良いテーマ選択であった。実際の授業も,パソコンfunctionViewを使ったグラフを見せながらイメージ力を養うところから,実際の計算も奥の深いものだった。コンピュータの活用も一長一短を感じたが,あまりに素早くすると,いかにも自分がその理想の解答を作り上げた錯覚を持たせてしまい,頭の中からすっと抜け出していく。また教師の側からも,使いすぎることやきれいに出しすぎることにこだわり過ぎると,授業の方向性が変わってしまう危険性があることが指摘された。私の経験として,eラーニングのようなネットを利用して学習することもありうることであると思っている。東大の求積の問題では分割の話題になったが,積分は積分学で発達してきたのであって,微分の逆演算に過ぎないと考えることはおかしいと意見をした。つまり区分求積法こそが積分の定義そのものであり,図形的な認識力を高める良い教材であると考える。むしろ微分が積分の逆演算と捉えた授業も本質に近づくのではないかと思っている。

久しぶりに出かけた九州大会は,やはり外の熱気と同様に暑いものであった。日数教大会は新潟だそうである。これを書いている8月1日まで講習会があり,明日から部会講演,分科会と盛り上がる事だろう。ちょっとは涼しいかもしれないが,熱気は日本全国からのものであろうから更に暑いのだろう。刺激を受けつつ日々の授業に生かそう。

 
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