一日の時間経過とともに,お楽しみ下さい。 前半の古典から現代へ
後半の現代からロマンへ
若さのある演奏である。
そのため古典演奏の円熟味はこれから得ることとして、若さゆえの、ノリや現代曲におけるリズム感は、疾走感をもった聴いていて気持ちのよい演奏である。
彼の若さでは、まだまだいわゆる大御所のどっしりとした演奏ではないが、感性豊かな彩りを感じる音が随所に見られる、本当に爽やかなのである。
本人の弁では、20年前に鹿児島に小学校4年生?のころ来鹿したそうだが、それ以来だったそうだ。
CDを出すなどメジャーデビューしてからの来鹿は、初めてだろう。鹿児島のファンにその音を届けるという気持ちがあった。
CDでの演奏はもちろん聴いていたが、生のギターは期待していたところであった。
最もはじめのリサイタルアナウンスでは、佳織さんとの2重奏での予定であったが、残念ながら彼女の長期療養のために、奏一君一人のリサイタルになってしまった。
しかし、彼女は何度も来ているが、鹿児島初の彼にとっては、一人で構成を考えるなど、意味あるものになっただろう。
私も、実は今朝まで行けるかどうか不明だったため、チケットを購入していなかった。行くならば当日券で、と考えていたが、13時30分の宝山ホールで当日券販売に並んでみたところ、なんと1列目の中央やや左が1席だけ当日売りに出ており、ラッキーにも一番前で運指も全て、目を閉じて思いをこめて演奏する姿を見ることができた。
彼の人気がないわけではなく、たまたま前列で1席、前列は左右角に5席ずつほどの空き、あとは、後方しか空いていないような状況であった。RO♪ONクラシックの会の例会のようにもなっており、満席とはいかないまでも数百人の観客で埋められていた。
この後は、時間の流れとともに書いていこう。
13時30分にチケットを購入後、ロビーに入る。いつものように十字屋さんのCD販売が行われていた。購入者にはサインがあるとのことで、最新CD「玉響」を購入し、終演後を楽しみにする。
缶コーヒーを一本飲んだ後、最前列へ向かう。本日の予定プログラムを見ながら時間を待つ。やや高齢の方が多い印象を受けた。
14時をやや過ぎたところで、本人の登場となる。
いきなり、「みなさんこんばんは、あ、ちがいますね・・・」の笑いから入った。おとといの佐賀のコンサートが夜だったため、また会場も暗くなっていたためかもしれないが、これで雰囲気は和んだ感じであった。
最初は「プレリュード、フーガとアレグロ ニ長調 BWV998 バッハ作」から始まる。緊張の第一音は、目を閉じて、ゆったりと始まった。流れるようなバッハである。美しく和声の重なりが響く演奏である。
二曲目に入る前に解説が入る。「魔笛の主題による変奏曲 ソル作」音楽の父からスペインへ、ギター曲の特性が鳴る曲である。序奏から始まる。やはり伸びやかな音が美しい。会場も広いため、PAを使っての演奏であるが、アンプ感はほとんど感じられない。
3曲目と4曲目は「ブエノスアイレスの四季から、秋と冬 ピアソラ作」先日の東京オリンピック決定の話題も入る。テクニックを必要とする曲であるが、流れるようなタンゴのリズムがよく伝わってくる。
5曲目は「オーバーザレインボー アーレン作」響きの奥深い曲である。編曲の良さを十分引き出した、口ずさむことのできる演奏である。
6曲目は「フェリシダーヂ ジョビン作」リズム感のある、だんだんと乗ってきた演奏になっている。アルバム内では最後の曲になっており、もう一度聴きたくなるような、跳躍するリズムが効果的に演奏された。しかし、乗ってきたところではあるが、ブレイクタイムとなる。うまい引き際である。ここで、15分ほどの休憩が入る。
休憩中は、頭をリラックスさせるのにちょうどよかった。ふーっと一息つき、反芻する。頭の中をメロディが走り回る。じわじわと鎮めていく。後半にも期待できる。目を閉じてじっくりと考える。
休憩後の後半の演奏は、
7曲目「玉響 西村朗作」3年ほど前に作曲されたらしく、未知であった。ハーモニックスの多用された揺らぎや、うつろいや彩りなどを感じさせる曲であった。
8曲目は、プログラムには掲載されていなかった(ポスターのほうには書かれていたが)が、本人も「書かれてはいませんが・・・」と説明しながら、「亡き王女のためのパヴァーヌ ラベル作」であった。原調での響きある美しい演奏である。ロマン的な演奏も彼の性格から、適しているのだろう。人格がそのまま出るような演奏に余韻を楽しむ。いい意味で残響が頭に残る。
9曲目と10曲目が、「愛のロマンス、アルハンブラの思い出」という定番の作品ではあるが、やはり美しい。高齢の皆様にもおなじみの曲だろう。拍手が一段と大きくなる。
11曲目「テイク ジ Aトレイン ストレイホーン作」ノリの感じられる、本人が楽しみながら演奏していることがよく伝わってきた。こういったアメリカ的曲の捉え方の上手さは、なかなか他にはいないように思う。彼の原点が見えてくる。
12曲目「フォーコ ディアンス作」プログラムに掲載されているのは、この曲までである。軽快なリズムに、独特の燃え上がるような世界観を的確に表現している。木村大もそうだったが、若さゆえに演奏できる曲なのだろう。
ここで本プログラムは終了である。アンコールの拍手に出たり入ったりしながら、あと2曲演奏をしてくれた。
「カヴァティーナ マイヤーズ作」と「エストレリータ ポンセ作」である。どちらもロマンティックなゆったりとした曲で、アンコールの小品として相応しい。(アンコールにもう一度盛り上げてから鎮めるというパターンもあるが、本日は、この2曲で余韻を残しながらの終了としたい意向があったのかもしれない)
今回のこのリサイタルは、2013年1月に発売された「玉響」からのプログラムが中心であった。彼の、若さゆえの疾走感・リズム感・ノリと書いたが、もちろんそれだけではなく、緻密な中に優しさ、彼自身の持つ柔らかさ、豊かさといった性格が現れる音色ばかりの、彩り豊かな作品集である。そこには、伝統的でありながらもロマンティックな前衛性も垣間見える。それまでのシャコンヌ、フォーコ、ニューヨークスケッチ、アメリカといった、作品集から一歩新たな枠組みに進み出た演奏家スタイルを見ることができる。本日のリサイタルも、そういった感覚を共有できる音作りであったように感じた。これから期待のできる演奏家である。
佳織さんの体調がよくなれば、ぜひ二重奏も聴いてみたく、ひとつのアルバムという完成形が、将来に期待される形となった。
当日券で聴けるかどうか、という状況であったが、なんのなんの、120%楽しめ、久しぶりにこのようなリサイタルレポートを書く気になった。鹿児島初の演奏会が、大成功に終わり、その余韻を楽しみながら、終演後わずか1時間でこのレポートを書き上げた。文句なく、今後の活動に注目の演奏家である。新たな音への挑戦に期待したい。
|