第一話 「秋葉」

***1***



 空が怖かった。
 世界を覆い、時の流れと共に怒ったり泣いたりころころと表情を変える大気の層は、人をいつまでも母なる大地に繋ぎ止めておくための牢獄なのだと思っていた。
 カミサマは意地悪だ。
 どうして命なんていうものが生まれたんだろう。
 どうして私は生きているんだろう。
 お母さんを見ていると、嫌というほどそれを実感させられた。
 毎日仕事に追われていて、帰りはいつも遅い。帰ってこない日もあった。
 私たちを養いながら生きていくには仕方ないことだというのはわかる。わかるんだけど。
 そこまで執着しなければならないものなんだろうか。
 どうせいつかみんな死んでしまうのに、何をそんなに頑張る必要があるのか。
 私も将来、こんなふうにして生きていかなければならないのだと考えると、憂鬱で泣きたくなってくる。
 今にして思えば、私は自分が嫌いだったんだろう。
 それと、ワガママだ。
 結局は、無いものねだりをしていただけに過ぎない。
 かまって欲しかっただけだ。
 そう考えると、自分が子供だということに気づかされて、さらに自己嫌悪してしまう。
 悪循環だ。
 きっと私は、人間以外のものになりたかったんだと思う。
 宇宙飛行士になりたいわけじゃない。
 この空があるから生物なんていうものが誕生したんだ。
 地球にこんなにも生物が満ち溢れているのは、地球と太陽が精密なまでの距離間の元に配置されているからだという話を、理科の授業の余談で聞いた覚えがある。
 ほら、やっぱり空が悪い。
 命を生み出した、偶然という名のカミサマ。
 その象徴。
 だから私は空が怖い――怖かった。
 では心は、いかにして生まれたのか?
 それは私にとっては、どうでもいい問題だった。



 夕暮れ。
 私は一人、学校の廊下を歩いていた。
 居残らされていたわけではなく、ましてや探検をしているわけでもない。
 単に帰宅途中で忘れ物に気づいて取りに戻っただけだ。
 人気のない校舎内は不気味で、夕日の色に染まった廊下は、追い打ちをかけるように私を不安にさせた。
 空が見せる顔で私が一番苦手なのは、夕焼けだった。
 ゆっくりと世界が暗闇に沈んでいく光景は、私と周囲との接点さえも希薄にしていくような気がしたのだ。
 だから早足で、教室に向かった。
 早く家に帰りたい。
 小春を待たせている。私にとっても、あの子の側が一番落ち着ける場所だった。
 妹の顔を思い出して、少しだけ軽くなった心を確認する。
 大丈夫、怖くない。
 やっとの思いで辿り着いた教室。そこが自分のクラスであることを確認して、私は扉を開けた。
 そして、飛び込んでくる風景。
 そこに異質な違和感を覚えて、私は足を前に踏み出すことも忘れて硬直してしまった。
 目は覚めているのに、夢を見ているような。
 この感覚を、なんと呼ぼう。
 白昼夢、幻視、急性的な精神跳躍。
 いずれも当てはまる気がしない。
 心が空想に逃げ出してしまう前に、私は目の前にある光景を現実のものだと認識してしまっていた。
 強く。

「……誰?」

 本能に従って、私は問いかけていた。
 窓際に佇んでいる、人の形をしたものに向かって。

 ――人形――
 それが、私が彼女に抱いた第一印象だった。
 私と同い年くらいの女の子。
 リボンで左右二本にまとめられた長い金色の髪。
 女の子を包む黒いドレスは、夕日を浴びて赤い輪郭を浮かび上がらせていた。
 少なくとも日本人じゃない。
 それどころか、”同属”であるのかさえ疑わしい。
 おとぎ話の世界からふらふらと抜け出してきてしまった、異形の迷い子。
 それでも彼女は、見れば見るほどリアルで。
 不意に感じためまいの中で、彼女だけが揺るぎなく、夕焼けの光の中に佇んでいる。
 だけど、美しくはなかった。
 見とれてしまうほどではあったけれど、決して美しくはなかったのだ。
 めまいが治って、世界が急速にあるべき姿へと是正される。
 気が付けば。
 彼女のガラス玉のような蒼い瞳が、私の方を向いていた。

「こんばんは」
 何のことはない。ただの挨拶が、女の子の口から洩れた。
 しかも日本語。
 だけど私は、拍子抜けたりしなかった。
 だって、とてもきれいな声だったから。
「あなたは、どなたかしら?」
 先に名を尋ねたのはこっちだ。
 けど、言い返すことはできなかった。素直に答えてしまう。
「秋葉」
「アキハ」
 噛み締めるように、女の子は私の名前を繰り返した。
「はじめまして、アキハ。あなたと出会えたこの時に、感謝を」
 スカートの両端をつまんで、大仰にお辞儀をしてくる。
 私もそれにつられて同じようにスカートに手を伸ばしたけど、どこをつまめばいいのかわからなくて慌てているうちに指がもつれたのでやめた。
 改めて、女の子を見返す。
「……何してるの、こんなところで?」
「何も。ただ、興味があったの」
 学校に、と彼女は付け足した。
 それでなんとなく事情は飲み込めた。
 彼女はこの近所に住んでいる外人さんの子供で、病気か何かで学校に通えず、放課後の誰もいなくなった学校にこっそりと忍び込んでみたところに私が現れた。
 大方、そんなところだろう。
 つまらないオチだ。
「面白くもなんともないでしょ、こんなとこ」
 すっかり緊張感の抜けた声でそう言いながら、私は自分の席に近づいていった。
「誰もいなかったらなおさら」
 机から忘れ物のノートを取りだし、ランドセルの中にしまう。
 ふと気づけば、机の上で私と女の子の影が交差していた。
「でも、あなたがいたわ」
 いつの間にかすぐ側に立っていた女の子は、小首を傾げて微笑んだ。
「とても素敵な偶然」
 偶然。
 私は、その言葉が嫌いだった。
 生物の始まりから、人の歴史の終わりまで。
 そのすべてが”偶然”で綴られているとするなら、私はいったい何を信じて生きていけばいいのか。
 それらを運命と呼んで一括りにしてしまう人たちも嫌いだったし、逆に必然であると主張する人たちなんていうのはもってのほかだ。
 カミサマなんて大嫌い。
「何か、気に障ることを言ったかしら?」
 不機嫌そうな顔をしていたのだろう。心配そうに女の子が私の顔を覗き込んでくる。
「……曖昧なのは、嫌いなの」
 ぶっきらぼうに答えてやる。
「何でもはっきりしてないと、気持ち悪いの」
「確かなものが欲しいのね」
 うん、そんな感じ。この子、なかなかいい線ついてる。
「どうして?」
 どうして、か。
「怖い」
「怖い?」
「そう。生きていることなんて、特に」
 そこまで言ってから、私は口を押さえた。
 初対面の相手になんて話をしてるんだ。
「ごめん、気にしないで。この時間帯は……私、ちょっとナーバスになっちゃうもんだから」
 むりやり笑顔を作って謝る。
 女の子はじっと私を見つめて、視線を外さない。
 やば。変な奴だって思われたかな。
「邪魔してごめんね、私もう帰るから。つまらないところだけど、ゆっくりしていくといいよ」
 ランドセルを背負い直して、私は退散することにした。
 教室の外に出ようとしたとき、背後から女の子が声をかけてきた。
「見せてあげましょうか、確かなもの」
 え?
 振り返ると、もう教室の中には誰もいなくて。
 女の子の姿は、どこにもなかった。
「……そんな」
 呆然とうめいて、私は教室の中に駆け戻った。見回してみるけど、やっぱり誰もいない。
 不意に、窓の外に目が止まる。
 向かい側の校舎。一年から三年までのクラスがある棟の屋上に、黒い人影を見つけた。
 あの女の子だった。
「――――!」
 どうやって、一瞬であんな遠くへ?
 実は双子で、あそこにいるのはその片割れだとか?
 だけど、それではここにいた彼女が消えた説明がつかない。
 仮に何か大がかりなトリックを用意していたのだとしても、私一人を驚かせるためだけにそんな手間のかかることをするだろうか。
 気持ち悪い。
 気分が悪い。
 曖昧だ。
 わけがわからない。
 ……怖い。
 確かめなければ。
 思うが早いか、私は走り出していた。
 廊下を駆け抜けて、隣の棟へ。階段を昇るときに蹴躓いて上履きが脱げてしまったけど、構わずに私は走り続けた。
 やがて見える、屋上への扉。ドアノブに手をかけるが、どうやら鍵がかかっているらしかった。職員室に入り込んで鍵を拝借してこようかと考えていると、ひとりでに扉が開いた。
 その瞬間、恐らく私は悲鳴をあげたのだろう。
 声にすらならない絶叫を。
「今日という日は、感謝すべき日」
 フェンスの向こうで。
 吹き付ける風に金髪とドレスをはためかせて、女の子は”翼”を広げていた。
 思わず、目を擦る。
 そして安堵する。それは翼ではなく、女の子自身の腕だったからだ。
「あなたと私の記念日」
 私は息を切らせながら、ふらふらとした足取りで女の子に近づいていった。
 接近する私を認めてか、女の子が小さく笑う。
「やっと見つけた。私だけの、私のためのワルキューレ」
 風が耳を擦る音に紛れて、どこからか音楽が聞こえてくる。
 クラシック?
 聞いたことのあるメロディーだけど、曲名が思い出せない。
 何だっけ。
「誓い合いましょう、アキハ」
 私も、フェンスの前に立つ。金網越しに、女の子と指を絡め合う。
 今、気づいた。
 彼女が右手に指輪をしていたことに。
「これから私は、あなたにたったひとつの確かなものを見せてあげる」
 私はただ圧倒されるがままだった。
 彼女の言葉のひとつひとつが、私の心を真っ白に染め上げていく。
「だからあなたは、私をさがして」
 女の子の指に、力がこもる。
「これはそう遠くない未来、再び巡り逢うための誓約」
 誓約。
 契約。
 ……盟約?
「私は、マヤ」
 名乗る。
 やっと女の子の名前が聞けた。
「あなたにとっての、必然と偶然」
 天使と悪魔。
「ごきげんよう」
 女の子の手が。
 私の指から、離れた。
 女の子の身体は後ろ向きに倒れて――まるでスローモーションのように、ゆっくりと空へと吸い込まれていった。
「あ……っ!」
 フェンスに顔を押しつけて、目を見開く。
 かろうじて見える。
 まだ、あの子が見える。
 見えたと思ったら。
 赤い花が、地面に咲いた。



 それが、私とマヤの出会い。
 空への恐怖が消え去り、むしろ憧憬へと姿を変えた日のこと。



***2***



 ――まぁ、そんな夢を見た日の朝は、大抵寝覚めが悪いわけで。
 元々が低血圧なせいもあると思う。どんなに強烈な悪夢を見ても、漫画のように飛び起きたりできない体質だった。
 というか、あれは漫画だからこそできることなんじゃないのか?
 寝起き直後に勢いよく身体を起こして、ぜえはあと息を荒らげてたりとか、想像するだにめまいがする。
 そんな人間がいるなんて、にわかには信じがたい話だ。
 だからシーツにくるまったまま、薄目を開けて天井を見つめる。二度寝してしまわないように、睡魔に抗いながら過ごすこの怠惰な時間が好きだった。
 よく負けるけど。
 で。
 さっきから何やら胸のあたりがこそばゆいのだけども。
 何ぞや?
「……あむ……あむ……」
 ついばむような、頬張るような。
 生まれて間もない赤ん坊みたいなその甘え声は、隣で寝ていた私の妹のものだった。
 可愛らしく、あどけない寝顔が――双子の妹相手に用いる言葉じゃないとは思うけど――私のすぐ眼下にあった。
 何故か私の着ているパジャマのボタンは外されていて、豪快に肌を露出している状態だった。
 私は妹に乳首を吸われていた。
「……うわーぉ」
 萌えた。
 いや、萌えてる場合じゃないだろ。
 私の右乳首はよだれでべっとりと濡れていた。垂れたおつゆがパジャマの脇のあたりを湿らせているのが分かる。
 冷たい。
「……んむ……ちゅぅ……」
 激しい吸引力が、私の乳頭を苛む。
 あー、なんかもう、あー。あー。
 正直なところ痛いんだけど、それを上回る気持ちよさが容易く私をダメにするっていうか、あー。
 どちらかというと私がこの子をダメにしたいというか。
 ……そんなぶっちゃけ話はどうでもいい。
「小春っ、小春ってば。起きなさい」
 このままでは何かがおかしくなってしまいそうだったので、とりあえず妹――小春を起こすことにした。名残惜しいけど。
「小春ー。早く起きないと発狂するわよー。私が」
「……ちゅぅぅぅぅっ」
「――――――――!」
 ヤバい。
 今のヤバい。
 失神しかけた。
 というか軽くトリップしたような気がする。
 あー、もうっ!
「小春っ!」
 最後の理性を振り絞って、私は叫んだ。
 小春の唇から、力が抜けていく。半開きになった妹の口から、多めによだれが垂れ出した。
「……ふぇ?」
 などというファンシーなうめき声を発しながら、小春がうっすらと目を開いた。
 そして、私と目が合う。
「おねぇふぁん、おふぁよー……」
「その舌っ足らずさも間接的に私の精神を狂わせるわけだけど、ともあれおはよう。満足した?」
「……まんふぉく……?」
 訝しげに首を傾げようとして、小春はようやく自分の頭がどこにあるのか気づいたようだった。
 ゆっくりと、目が大きく開いていく。自分が寝ている間、何をしていたのか理解していく様がはっきりと見てとれる。
「きゃああああああああああっ!?]
 弾かれたように飛び起きて、小春は絶叫した。
 ……なんだ、身近にいるじゃん。寝起きからハイテンションな奴。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」
 小春は謝罪の言葉を連呼しながら、手のひらでごしごしと私の胸についたよだれを拭き取ろうとする。
 あ、気持ちいい。ヤバいって、それ。
「痛い痛い、痛いって」
 ――などと本音を言えるはずもなく、当たり障りのない反応をしておく。
「わたしったら、またこんなことしちゃって……ぐすっ」
 と、半泣きになる小春。
 ……ん?
 また?
 また、って何ですか?
 以前にもこのようなことがあったと?
「マジでっ!?」
「きゃあっ!?」
 思わず身を起こして小春の肩を掴んでしまった私を、小春は怯えた眼差しで見返してきた。
 しまった。つい取り乱してしまった。
 ここは緊急回避。
 優しく指櫛で小春の髪を梳かしてやりながら、私はこれ以上ないというくらい穏やかな笑顔を装った。
「ううん、今のはちょっと寝惚けてただけ。大丈夫よ。気にすることないから」
「ほんとに……?」
 ここまでやっているのに、小春はどうにも疑わしげだ。
 流石は一卵性双生児。ちょっとやそっとじゃ誤魔化しきれない。
「ほんとほんと。私が小春に嘘をついたことが、今までに一度でもあった?」
「昨日、お姉ちゃんが私のコーヒーカップ割ったとき、必死にネズミのせいだって……」
「ないでしょう? だからお姉ちゃんはね、あなたからも本当のことを聞きたいの」
「……な、何を?」
 何故か、小春は納得のいかない顔で聞き返してきた。
「また、って言ったわよね? 前回はどんなことをしたの?」
「……お姉ちゃん、なんだかわたし、すごく不公平な気がするんだけど……」
「パジャマ、濡れちゃったわね……染みにならないかしら。あ、これは別に小春を責めてるわけじゃないのよ。ただ純粋に心配しているだけ。ね?」
 語尾を言い放つと同時に、私は最高の笑顔を小春に向けることができた。
 ふふ、あまりにも眩しすぎて目も合わせられないようね。
 呆れられているような気がしないでもないけど。
「えーっと……そのね、朝起きたら、お姉ちゃんの耳たぶくわえてたりとか……」
 耳たぶ……。
「その前は指……だったかな?」
 指……。
「確か他にも……あれ、どうしたの、お姉ちゃん?」
「いや……なんでもない……なんでもないのよ、うん……」
 私は枕に顔をうずめて身悶えていた。
 そんなの、私は覚えてない。
 私が寝ている間に起こっていたイベントの数々に想いを馳せながら、あまりの悔しさにベッドに八つ当たりをする。
「お姉ちゃん、もしかしてベッド殴らなきゃならないくらい怒ってる……の?」
 そんなことはない。
 断じてない。
 有り得ない。大空に誓っても。
「ごめんね……わたしがこんな甘えんぼだから、お姉ちゃんが苦労しちゃうんだよね……」
 背後から聞こえてくる妹の沈んだ声に、私は慌てて枕から顔を起こして振り返った。
「わたしバカだし……お姉ちゃんみたいに可愛くないし……お料理だって下手だし……ほんと、お荷物だよね、わたしって」
 あはは、と小春はから笑いをして見せた。
「でもね、こんなわたしでも、頑張ってるつもりだよ」
 小春の膝の上で、二つの小さな拳がぎゅっ、と固く握りしめられた。
「少しでも、お姉ちゃんみたいになれるように……って」
「……小春」
「あは……わたしじゃ、無理かな。やっぱり」
 もう一度、から笑い。
 私はシーツをはねのけて、小春を抱きしめた。
 今度は偽りじゃない。心を込めて、妹の髪を指で梳いてやる。
「どうせなるなら、私よりいい女になりなさい。双子だからって、同じ人間になる必要はないのだし」
 もし本当に私のようになってしまったら、きっとこの子はダメになってしまう。
 そう言える根拠がある。
「でもお姉ちゃん的には、小春には今のままでいて欲しいかな」
「う……それはダメなままでいろってこと?」
「そういうことじゃなくてね」
 そっと、身体を離す。代わりに、指先で小春のあごを持ち上げた。
 王子様がお姫様に囁くように、私は極限まで妹の唇に近づいてつぶやいた。
「そんな小春が好きだということよ」
 そのまま優しくキスを――
 しようとしたら、顔を真っ赤にした小春が私の身体を突き飛ばした。
「わ、わー! わーっ! それはダメ、ダメーっ!」
「ちょっとキスしようとしただけじゃない、そんなに嫌がらなくても……」
 軽く傷ついた。というか、鬱になりそう。
「姉妹で普通、そういうことはしないよ!」
「世間一般がどうだろうと、私はしたいの!」
 素早く小春の肩に手を伸ばす。が、ベッドから転げ落ちるようにして逃げられてしまった。
 ……普段トロいくせに、こういうときだけ機敏なのね、マイシスター。
「逃がさないっ!」
 すぐさま私もベッドから飛び降りて、小春を追いかける。
「いーやー! ファーストキスは男の子がいいのー!」
「男っ!? 血迷ったの、小春!?」
「血迷ってるのはお姉ちゃんの方だと思ったり思わなかったりするんですけどーっ!」
「そんな私になりたいと言う小春も血迷ってるのよ!」
「前言撤回ーっ!」

 それから。
 学校を遅刻するギリギリの時間まで追いかけっこを続けたことは、語るまでもないだろう。
 あと記すことがあるとすれば――
 制服に着替えるとき、パンツも履き替えていた私を見つめる妹の顔があまりに無垢すぎて。
 自分が汚れていることを自覚して鬱になったことくらい、かな。



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