初孫の島ユミタ

大工の徳さん〈上園田徳市〉 TOM UESONODA USA

 嬉しいなあ,嬉しいなあ,こんな嬉しいことがあるかいな。

2歳になるアメリカ生まれの孫が島ユミタ(喜界島言葉)で「アジイ(お爺さん),アンマア(おばあさん)」と電話で言いよったがな。滅び行く喜界島の言葉がアメリカで復活しそうや。こんないいことがあるかいな。この前は英語で「ハロウ,ハロウ」とだけ言えた。電話の向こうで息子が「ハロウ,ハロウ」と言わせているのが聞こえた。

今度は,私が「アジイ,アジイ」と言うと「アージイ,アージイ.」と尻あがりの発音で言うではないか。気持ちいいのう。アメリカ生まれの3世の孫の口から出てきた喜界島の言葉、私にとってはダイヤモンドよりも値打がある。日本語、英語がナンジャラホイ。喜界島の言葉には私の思い出がいっぱい詰まっているのだ。

喜界島の言葉を口にすると,昔の同級生,小学校,中学校,家,屋敷,畑,海,山,豚味噌,ファンスー,サター,アジイ,アンマアのことが夢のように瞬時に浮かび上がってくるのだ。すごくいい気持ちに浸れるのだ。初恋の味がするのだ。

私は以前,この島ユミタを残したくて,島ユミタの文字まで作ったことがある。文字に現せない言葉は消滅すると思ったからだ。作ってみたら,日本語の50音に23の字の島文字を加えるだけで,島ユミタの文章が書けるのだ。それを「がじまる」の本に載せてもらおうと思って,投稿したが,だめだった。そんな文字が活字にないと言う理由だった。ところが今は出来ると思う。コンピューターでどんな文字でも絵でも書けるのだから。

私はこのアジイと言う言葉を言わせるのにだいぶ努力した。私はある作戦を練った。言葉は,母親の口から覚えていくのだから,最初に,嫁にアジイという言葉を覚えてもらうことにした。Eメールに孫の名前で,メッセージをじゃんじゃん送った。孫の日本語名は「俊徳」,英語名は「ゲーブル」。   ミスター「俊徳」 ハウ アー ユー?  ウオット アー ユー ドウ―イング?  アジイ(グランパ) イズ ファイン。 アジイ イズ ハッピー。というようなアジイを何回も入れた内容のメッセージを何度も送った。もうこれで,嫁も,アジイという島ユミタを覚えたようだ。

傍で聞き耳を立てている初美に,気を使って,アンマアと言わすと,また,簡単にアンマアと言えたではないか。「私の孫は賢いのう, 誰に似たんだろうか, イッヒッヒ」。

そしたら初美が私から受話器を取り上げて,「アンマア, アンマア」と言わしよる。あまりおもろうない状況や。ヤキモチをやきたくなった。

電話が切れてから, すぐにまた電話が鳴った。受話器を取っても誰も出ない。      

 孫と思ったから「アジイ,アジイ」と言った。                            

直感は当たった。孫だった。「アージイ, アージイ」と言っているではないか。もし, お客さんからの電話だったら,「大工の徳さん,気でも狂ったの」と言われたに違いない。何回もアージイ,アージイと言って喜んでいるようだ。このおじいちゃんはもっと喜んでいる。いつまでもアジイ,アジイのやり取りをした。

電話はき切れては鳴り, 切れては鳴り, 何回も, 心地よい,アジイ、アジイの言葉の交換をした。メモリーの電話番号のボタンを覚えて,自分で何回もかけたらしい。頼もしいやっちゃ。ほんまのアジイになったような気持ちのいい1日だった。孫はええもんや。

   大工の徳さん  5−19−2003