店主のつぶやき あまみ庵の店主:森本が雑誌や新聞に書いた文章を掲載します。

琉球新報:落ち穂(H3.12.6)

 『おじさん、沖縄の人ね?』

 「おじさん、沖縄の人ね?」
 店に出入りする子供たちに尋ねられることがある。直接質問してくる子供たちのほかにもおそらく多くの人が、私を沖縄出身者と思いこんでいるのかもしれない。

 朝鮮戦争の年に私は生まれたが、当時奄美は沖縄とともに米軍政府の治権下にあった。当時の日本人からみるとわたしは沖縄の人の一人であったかもしれない。しかし奄美は私が三歳の時、断りもなく「祖国」に一足早く「復帰」したため、以来私は沖縄と切り離されてしまった。一九七〇年の前後東京にいたが、沖縄返還の政治の季節にもわたしは沖縄の人たちの運動の輪の中に入る機会はなかった。沖縄が復帰した年、カニ族と呼ばれながら先島その他を歩いた。沖縄とは復帰してからのつきあいである。

 沖縄をトリップする楽しみのひとつに本島回りがあって、ありがたいことに、それが今では本業になってしまった。奄美では唯一の郷土誌専門店を志向して出発したのだが、奄美の郷土誌といってもその数はすくなく、島尾敏雄さんが尽力して収集した県立図書館奄美分館の所蔵量も沖縄のそれとは比べものにならない。現在発刊されている出版点数も沖縄の数%しかない。人口も違うし、郷土誌の絶対量がまず違う。

 本がない。奄美の事を知るためには沖縄をおさえながら遡行したり展望するしかない。それで店には沖縄関係の郷土誌が過分に店内を占拠している。店の入り口には沖縄の新聞販売店の看板。店内を時々流れる沖縄音楽のBGM。沖縄からたまに訪れる人々。夏休みの恒例になった沖水優勝祈念セールや残念セール…。

 「おじさん沖縄の人ね?」と問われると、「いや奄美だよ」と否定はするが、まんざらでもないなと思ったりする奄美人もいるのである。

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