店主のつぶやき あまみ庵の店主:森本が雑誌や新聞に書いた文章を掲載します。

琉球新報:落ち穂(H3.10.2)

 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』

 「お前は古本屋をやりたいと言っていたから本望だろう……」二十数年ぶりに再会した高校時代の悪友がうれしそうに語りだした。「おれが、高校時代から、古本屋を?」記憶の焦点を結べずに私は返答に窮してしまった。「まさか!」と「それで?」が同居し混然となったのだった。

 高校を卒業すると同時に、あちこちでフリーターをしながらくらしてきたのだが、そういえば、印刷屋や出版社に出入りしていた時期があった。旅の楽しみの中に、ジャズ喫茶、骨とう屋、古本屋さがしがあった。質屋と古本屋通いはその対価が無性に軽く、その軽さが私の青春そのものだった。古本屋の世界と多少は縁があったのかもしれないが、実際にそれが生業(なりわい)になってしまうと、因果、因縁というか、潜在的な意志のようなものを感じてならない。

 それにしても未来は、人と環境とのつながりによるたえなるドラマだ。私が期せずして古本業をいとなむようになったのは、なにをおいてもオキナワにいる友人たちとの出あいの連係プレーによるたまものだ。

 ロマン書房の照屋全芳氏。照屋氏の奄美での古本市を企画して二人の出あいを作ってくれたのは琉大の関根賢司氏。関根氏は渡り鳥の休息地のようにたびたび奄美に舞いおりてくるが、氏との出あいは琉舞「華の会」の奄美公演のときだ。「華の会」を実現してくれたのは、詩人の高良勉氏や当時奄美に住んでいた矢口哲雄氏。矢口氏とは奄美のジャズ喫茶「フラワー」で。二十年前、ふらりと奄美に立ちよった東京出身の彼と、店でフリーターをしていた私とは同年齢で、酒と議論に節操もなく明けくれていた。

 「人間の未来はすべて白紙だっていうことさ。未来は自分でつくるのさ」(映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」より)

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