店主のつぶやき あまみ庵の店主:森本が雑誌や新聞に書いた文章を掲載します。

南日本新聞:南点(H11.12.27)

「げんし力」

もう五日ねたらお正月。ミレニアムが、コンピューターの「二〇〇〇年問題」からというのも象徴的だ。なかでも世界で一番早い「日本の原発」の動向が世界中の注目を集めている。

ぼくは高価で危険な原子力に頼らないためには、ライフサイクルやエネルギーや資源などの問題を、これを契機に軌道修正すべきだと確信している。それなのに政府は「大震災」や「原発事故」の時のように、「安全神話」や「危機管理態勢の強化」だけで、本質的な問題を先送りにするのだろうか。

「ではどうしたら?」と自問して「げんし力と知恵とワザで!」と自答している。原始力・原資力・原姿力・幻視力……。

 たとえば、奄美空港前に残る小さな杜(もり)。ここは解体工事のたびの不吉な事故で、業者があきらめた。杜には横穴式の石室に骨つぼが眠っている。

その空港周辺のリーフのパノラマは「竜宮城」にたとえられるほど、楽園にみえる。しかし海上空港=人工島建設で潮流がかわり、赤土汚染で魚介や野鳥たちには今や失楽園だ。

大瀬海岸というそのリーフには、白いネズミが住んでいた巨岩がある。「くぅー、石がまたほでとぅり(成長している)」老女が貝やタコをいざ(漁)りながら、岩をみあげていた。海中のサンゴ虫が成長してサンゴを造り、それが石灰岩の岩や島になる。対岸には今も隆起中の喜界島。沖永良部島や与論島も隆起サンゴの島だ。

地元紙の投書によると、火山島の横当島はひょっこりひょうたん島のように移動しているという。無人島だから生物たちには食物連鎖が可能だろう。一方、大島や徳之島では太古から先住してきた動植物たちが、後発の人間中心主義者により、絶滅寸前だ。一蓮托生(いちれんたくしょう)というのに。

それでも奄美のシマ島には,精霊・マブリ(霊魂)・ユタ・祭祀(さいし)・シマ唄などの民俗文化がいとなまれている。自然神という原資のおかげだ。

鹿児島も大陸も海中の島の一部だ。島(共同体)の生態系では、ヒトは平凡な構成員にすぎない。「二〇〇〇年問題」を、人間と環境の関係性を再構成する好機と受けとめたい。  

(森本眞一郎)

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