店主のつぶやき あまみ庵の店主:森本が雑誌や新聞に書いた文章を掲載します。

南日本新聞:南点(H11.10.04)

『癒しの島』

鹿児島県の百五歳以上の長寿者番付(本紙九月八日付)をみて、うれしくなった。 十二人のうち六人が奄美在住者。鹿児島市在住で長寿日本一の北郷かまどさんも、 かつて世界一だった泉重千代さんと同じ徳之島は伊仙町の出身だ。 人口十万人あたりの百歳以上の長寿者数では、長寿世界一を誇る沖縄県が今年 もトップで二十八人。高知、島根、熊本についで、鹿児島県は五位の十八人だが、 県内では大島地区がダントツの五十二人で、ついで指宿地区が二十四人だ。規模 は違うが人口比でみた奄美圏は、世界一の沖縄県よりも長寿圏ということになる。

人を長生きさせる要因は遺伝子などケースバイケースだろうが、都道府県別の 百歳以上のトップ10を西日本勢が独占しているのが興味深い。逆に最も少ない のは十年連続の埼玉で三・八人、ついで愛知、大阪、茨城、千葉、滋賀、神奈川、 青森、栃木、宮城とつづく。  夏型で南高北低の日本の長寿配置図。その背景には温暖な黒潮や照葉樹林につ ちかわれた豊かな風土が底流にあるのだろうか。

地球内生物の固有種の発生図 をみても、赤道に近いアフリカの「エチオピア区」やインド・中国南部・東南ア ジアなどの「東洋区」に集注している。アマミやトカラの島々はその北限だ。ヒト がつくった「日本」からは「南島」「南西諸島」だが、いきものたちの地図上で は豊饒な「東洋区」の「北島」「東北諸島」の一員である。

本来ヒトは命や文化をはぐくむ風土・環境とともにあった。それを無視して経 済環境づくりにだけ猛進しているが、ツケは早晩やってくる。いや、現在進行形 でオン・エアー中だ。  日々のくらしの中にある奄美の自然と民俗文化。行政と業界の「セラピー(癒 す)アイランド」構想は、長寿をうながす郷土環境をこそもっと誇りにして、支 援すべきだろう。

過剰な港湾・道路・ハコモノのあとに、「観光経済」を特化さ せるのではなく、シマ島の内発的な域内自給をベースにした息の長い癒しの島を めざしたい。

(森本眞一郎)

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