店主のつぶやき あまみ庵の店主:森本が雑誌や新聞に書いた文章を掲載します。

南海日日新聞:書評(H7.8.15)

『発言・沖縄の戦後五〇年』

「シマを凝視する議論」

「シマは逃げないさー」本書を携えて来島した今年の三月、笠利湾のリーフを前にして高良勉は朗らかに言い放った。

本書は「沖縄の第一線で活躍する学者、詩人、思想家たち十四人との座談会を中心に、詩人・高良勉の発言を始めて一冊にし」たものである。その座談会を読む。

最初の「『ヤポネシア論』と沖縄―思想的な意味を問う」は、休刊となった「新沖縄文学」の「特集=島尾敏雄と沖縄」から。島尾さんが提起した「ヤポネシア論」や「琉球弧」という概念が、沖縄でどのように受容され、それは思想的に今でも有効なのか、という白熱した議論が展開されている。それにしても、島尾さんの本場の奄美で、島尾思想があまり開花しなかったのは、奄美と沖縄の間に文化的断層でもあるからだろうか。

次の「奄美のこと・沖縄のこと」は、本紙一九八五年一月一日付に掲載されたもの。関根賢司、矢口哲男、別府義広さんらが出席している。

続く三編は、いずれも沖縄の戦後、とりわけ復帰後の状況に対する総括的内容。奄美同様、なしくずし的に本土化していく沖縄の状況に、自立の方法を真剣に模索している。例えば「沖縄の豊さは狭い意味での経済学では決しておしはかれない」(安里英子)、「流される多数派と流される状況にいちいち問い返しを始めていく少数派、(略)その少数派がどれだけの力量がつけられるかが僕は問題だと思う」(新崎盛暉)などの発言は、加速度的に崩壊していくシマ社会、奄美にとっても貴重な指摘と言っていい。

本書を読んでも、琉球弧の島々の自立への道はとても困難なように思われる。結局、道は遠いけれど、「シマは逃げない」と看破した高良勉言うところの、シマの根っこの深い所までおりていかないと、人と神と自然の共生空間であるシマを蘇らせることは難しい、ということだろうか。シマへ眼を向けさせる書である。

(森本眞一郎)

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