店主のつぶやき あまみ庵の店主:森本が雑誌や新聞に書いた文章を掲載します。

島立まぶい図書館からの眺め:192page

『島を見直す』

著者・基俊太郎 発行所・南海日々新聞社
平成5年3月25日 334ページ 2428円(税抜き)

奄美らしい自立への数々のメッセージ

「本土なみ」の幻想を捨てさること。「何もしないということは、最大に何かをすることだ」「森林に光と風を入れてはならない。そこから森林が後退していく」「大体観光というものは女郎屋稼業のようなもので、接待業であってものを生産することができません。客の落とした金だけが目的です」「『公共のため』の目的論が逆に住民不在の結果をまねくのです」「自然や文化をこわしても開発です。開発がここまで拡大解釈されるなら、いっそのこと『保存開発』の新語を作ったらどうでしょう」「島の文化のため、あれ(海の護岸堤や離岸堤など)のとりこわしを振興事業の項目に付け加えることを提案いたします」「奄美のスローガン『本土なみ』は本土の場末となることで、事実そうなってきた。地続きでもない島嶼社会が、どうして『本土並み』になれるだろう。それよりも島嶼の条件、負の価値、マイナスかけるマイナスがプラスになる論理がなければならない」「本来、奄美のような島嶼社会では、自然と生産と人との三つに最も普遍的にして基本的な究極概念をしぼることができる。そしてそれらは、自然は森林(河岸、沿岸を含む)に、生産は農業(沿岸漁業を含む)に、人は集落に具現されるものである。奄美を生かすも殺すもこの三つのカテゴリーの把握いかんにかかっていると言えるであろう」「島はもともと自己完結の空間である。そこに米をつくり塩をつくる営みがごく自然にあった。それはいつの時代にも、島の基盤でなければならないことだ。海を目の前にして塩を作るなでは、やぼというものだ。あらたな島嶼立法こそ、島おこしの国家レベルでのデッサンである。主食放棄型産業に島おこしのデッサンはない」

著者、基俊太郎は大正十三年名瀬生まれの彫刻家。島を出て、東京芸大やハーバード大などで、彫刻のかたわら造園、建築、家具などの空間造形を研究、奄美の日本復帰(1953年12月)を契機に島の価値を再認識した著者は、島ジマ処々を踏破しながら、島の風土と生活の文化的価値を再三にわたって提言と警告をくりかえしてきました。

本書に収録されている多方面からのメッセージは、1967年頃から奄美の『南海日々新聞』に発表してきたものを主にまとめたものです。当時から島尾敏雄氏が注目し、「"奄美文化生態史観序説"と銘打って本にしなさい。本の表題は大げさなのがよい」と勧めてくれていたそうです。幻の本書がやっと刊行されて蘇ったのは1993年、奄美が日本復帰してちょうど四十年目の時でした。

「本土並み」の幻想を捨てて、「奄美並み」の自立した奄美らしいシマづくりを、具体的に提言してきた本書は、その普遍性においてこれからの奄美丸の航路を、住民や行政にありありと指し示しているのです。

(森本眞一郎)


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