今月の一押し

[1999.06]
奄美の歴史とシマの民俗

『奄美の歴史とシマの民俗』

先田 光演・著 まろうど社 1999.5.17
四六版 375Page 定価 \3,000(税別)

 先田光演さんは沖永良部島の国頭生まれ。現在は生地の中学校で現役の校長さん。私の店の気さくな常連さんでもある。「著作に『沖永良部島のユタ』」とだけあるが、氏の出版物は十冊近くある。そのほとんどが絶版ものだが、本書のように再版や改訂版が刊行されていくだろう。

 本書に収載された「沖永良部島の古墓石」・「奄美諸島の遠島人について」・「琉球大砲船と奄美」・「沖永良部島の年中行事」という論考は、互いに根っこのところで深くつながっている。著者は奄美のブラックホールと言ってもいい近世の諸相を研究しながら、薩摩と琉球の淵で揺らいできた奄美の独自の歴史と文化を浮彫りにする。

 「フジキ山・死体遺棄時代→トゥール墓(自然洞穴墓)→トゥール墓(掘りこみ前庭式墓)→トゥール墓(掘りこみ前・中庭式墓)→18世紀、埋葬墓石利用始まる→明治以降の土葬時代」   「琉球の遠島人が奄美の島々に配流された背景には、これらの記録に見られるような庶民レベルの交流が頻繁に行われていたのであり、分割後の薩摩藩時代も同じ琉球文化圏としての絆が断絶することなく、連綿として続いていたことを知ることができる」 「このような激動の時代のなかで、奄美大島は琉球防衛の後方基地としての役割が課せられていたのである」等々。

 著者が奄美の歴史や民俗に寄せる深いまなざしは、研究者としてのそれだけではない。現場に生きる社会科の教育者として、教育実践の立場からの郷土史教育に対する鋭い発問こそが本書の真髄だ、と私は読んだ。

  「島差別も遠島制度も過去の歴史的事実として押さえながら、これらによる差別を現代まで引きずり込んではならない」 「沖永良部島の年中行事が衰退し変質してきたこの道は、他の島々の年中行事が今後辿る道でもあろう。現在の農業崩壊とシマ共同体の衰微が、そのことを暗示している」(昭和六三年脱稿)
 琉球孤のシマ島の現実的課題ばかりだ。  

(本処あまみ庵代表:森本眞一郎)


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