今月の一押し
['97.03]
詩集 不安定な車輪
茂山忠成著 南方新社発行 
1,748円(税別)
表紙
(帯より)
何という大きな優しさだろう!
貧困・差別・戦争・・・・。
人間が人間に打ちつけるこの深い苦悩を、
人は償い、癒すことができるか−−−−。
人々の苦しみ悲しみ無念を、怒りを悔恨を、このように見つめ、
抱きとめてくれる詩人の存在が、
せめてもの癒しと励ましの力になることを願う。

滝 いく子


 南日本新聞社主催の96年の「南日本文学賞」を今年の3月6日に受賞したばかり。ホラシャ!ホコラシャ!  著者は徳之島の出身。徳之島は、泉芳朗、作井満などの情熱的な詩人を輩出しているが、茂山氏の今回の受賞は「母」や「子守り唄」の舞台である徳之島にとっても快挙といえる。発行元の南方新社は声を上げてまだ2年足らずだが、すでに10数冊、驚異的な勢いで鹿児島の貧困な出版界にカツをいれ続けている。受賞のスピ−ドも早い。  同賞は鹿児島の文学振興と新人の発掘を目的に、1973年に創設。前年1年間に発表された郷土在住の小説、詩、評論の中から最も優秀な作品に送られる。過去に奄美からは、藤井令一、元野影一、進一雄などのナゼか一の付く詩人たちと、「島のジュウリ」の道の島社が受賞している。ウタとオドリのアマミジマ、自然も人も感性が豊かな風土なんだ。ホントに。  さて本書は著者の詩集「さたぐんま」に次ぐ第2詩集。一貫して、いのち、自然、くらしをテ−マに、この世の矛盾を温かく優しくそして厳しく包み込んでくれる。32編を読むうちにぼくは何回か泣いた。詩で泣くなんてめったにない。特に「K先生の思い出」にはひときわこみあげた。涙は癒しだ。この詩集は帯にもあるように人間の深い苦悩に寄せた茂山さんの癒しと励ましの力だ、と思う。  「この詩集も、過去のレアリティを、砂時計のようにひっくり返して、歴史に学びながら、現代という不安定なアンバランスを生きることに、生活者としての視点を持ちたいという思いで書いてきました。拠点としての奄美、そして沖縄。体験の中に抱え込んできた戦争と平和、それらは、これからも書く対象として捉えていきたいと思います。」(著者おわりのことばより)

(本処あまみ庵代表:森本眞一郎)


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あまみ庵:今月の一押し['97.03]